さん。




「さあ話を聞こうか」
「待って下さい、玄兎さん」


いつも玄兎と昼飯を食べる場所に使っている、美術準備室。
そこに弁当持って入れば、笑顔の玄兎がもう居て挨拶する前の開口一番がこれ。
まず話広まるの早いし、その持ってる30センチ物差しはなに。
とりあえず落ち着かせて、やっとの思いで一緒に飯を食べ始める。
元々俺の恋愛関係に口出しはしないもののよく思っていなかった玄兎からしたら、
溜まったもんじゃない案件だったんだろうよ。実際そんな目をしている。
お互い無言になりつつ、早く玄兎から切り出せよとか思ってると急に箸を置いてこちらを見る。
少し怯んだがそれでもちゃんと目を見た。すぐ見てわかるどうしていいかわからない目。
玄兎は元々わかりやすいヤツですぐに顔に出すタイプだ。隠し事は出来ないしなんでも真面目に受け止める。それがこいつの良いとこだし俺はそんな玄兎を尊敬するし友人として誇らしいとも思っている。だからこそ同級生でずっと一緒にやってきた俺と可愛がってる後輩との事情に迷ってるんだと思う。ましてや俺の恋愛関係はめちゃくちゃだし。


「俺はちゃんと夏からも相談受けたし、あの子が今どう思ってるかもわかってる。俺はあの子が泣くのは絶対許せない、でもあの子の気持ちは痛いぐらいわかる。加也の時がそうだったから」
「…はあ、昔から俺が淡白なのわかって言ってるだろ?」
「ああ、だから迷う。ぶっちゃけ今は彼女居なくてもまた告白されたホイホイ付いてくんだろう?じゃあ夏の告白は?気持ちは?無かったことにされるのが一番苦しいんだよ」


説教じみた事言うのは昔から。
ましてやこいつだって後輩との両片思いの末ようやく実ったもんで、多分重なるところがあるんだと思う。だからといって俺にどうしろと言うんだ。
気持ちもわからないままあいつと付き合えって?それであいつが納得できるか?
きっとそっちの方が傷付いて無かったことになるんじゃねえのかよ。
玄兎の気持ちも由之助の気持ちもわかるし、言いたいこともわからんでもない。
でもじゃあ俺は何なんだよ。


「お前が淡白なのも知ってるし、そこまで人間関係を築こうとするタイプじゃないのも小さい頃から知ってる。でもお前はちゃんと人のことを考えて行動出来るし、本当はくそ何じゃって思うぐらい優しいやつだからこそ、判断を鈍るなとでも言っておくよ。俺は由之助みたいな忠告はしない。
俺が羨ましいぐらいには男前なんだから自信持ってゆっくり決めろ」
「…さんきゅ」
「相談ぐらいしか聞く事出来ないけど、お前は一人で思いつめるタイプだし俺になら本音言えるだろ?たまには頼ってくれ」


それにお前のクソみたいな恋愛関係一度リセット出来るかもしれないしな。
と目が本気な玄兎に少し助かったと胸を撫で下ろす。
何も答えが出ないまま動いたところできっとお互い二度と戻れない関係になりそうなのはわかってる。
だからといって今すぐになんて答えは出ないし、今の距離が丁度良すぎて心地よくて、
何故今なのかと、何故俺なのかと思ってしまう。
いっそ由之助に告白してくれれば…それは癪に障る。いやこれでヤングドーナツをきっかけに別れてくれたら最高なんだけど。
何で受験前にこんな悩まなきゃいけないのか、頭抱えるわ。


「…いいじゃん、結構青春してるな」
「うるせえ」
「つかあんだけ泊まりに行ったり二人でくっついてた割に何故お前は平気で居られたんだよ」
「え、」
「夏ん家は親もお兄さんも居ないで一人だろ?お前来れば常に二人きりなわけだ。端から見れば普通にカップルだったし、一年はあんだけパパママ呼んでるんだからちょっとは意識しねえの?」


そりゃあそうだ。意識のイの字も無かったです。
寧ろあーこういうの楽しいなぐらいにしか思ってなかったと言えば呆れ通り越して心配された。
そんなに淡白か?いや普通に相手夏貴だしとしか思ってなかったけど。


「お前三年除けば夏だけだしな呼び捨て」
「え、やだ急に意識しちゃう。今日だって泊まりに行くのに」
「お前本当に大丈夫?」


本当何か急に恥ずかしくなってきたわ。
今日泊まる時どんな顔したらいいんだ俺。



「夏貴、風呂沸いたぞ」
「あーい、先輩先入る?」
「や、食器洗っとくから一番風呂譲ってやるよ」
「有り難き幸せ!」


もう最初から基盤あると悩みのタネがあいつでも此処までいつも通りなのか。
ドギマギすると思ったのは玄関入るまでで、入っちゃえばいつも通り夏貴がご飯を作ってくれてる間に洗濯回したり風呂掃除したりして、何故俺は此処まで平然としてるんだろうと我ながら他人事。
夏貴が風呂入ってる間に食器を片付けたりして、風呂までバスタオルを持っていけば
ご機嫌なのだろうか鼻歌交じりでぽちゃぽちゃと遊んでいるようだ。


「先輩、居る?」
「ん、バスタオル此処置くぞ」
「ありがとう。…ねえ、一個可愛くないこと言って先輩にまた迷惑かけちゃうかもしれないけど言ってもいい?」
「…なんだよ、勿体ぶらず言えよ」
「…聞き流してくれてもいいからね?」


少し間が空く。
何を言うんだろう、顔が見れない分不安になるのと見れなくてよかったと思う気持ちに目眩がする。
今あいつは何を思ってるんだろう。少し間が空いただけなのに偉く止まった時間が長く感じた。
またぽちゃりと水の音がする。


「先輩に告白したじゃん?」
「ああ」
「まあ玄加のこともあるけどさ、嫌われたかなって思うわけだよ」
「…んな心配しなくても」
「するんだよ、大好きだから。ずーっと好きだったから。…だからもう泊まりとかないかと思ったんだよ。あの日にね、もうはじめ先輩家に来てくれないなあとか思ってたら、泊まるって言ってくれるし今日もいつも通り家事半分手伝ってくれるしいつも通りで本当に嬉しいんだよ」


先輩優しいね、俺は嬉しくてたまらないよ。
きっと向こうで目元を緩ませたあいつが笑ってるんだろうなと思う。
優しいわけじゃない、玄兎も言ったけど別に俺は優しいわけじゃないんだ。
ただの優柔不断で達観主義なだけ。俺は夏貴が思っているほどの人間じゃないのに。
また迷う、どうすればいいかわからなくなる。
別にそれが嫌ってわけでもやめてほしいってことではなく胸元がざわざわして落ち着かない。


「ごめんね、また悩ませちゃったよね。忘れてくれていいよ」
「…、俺はこの関係が心地よくて告白されたからとか関係なくお前と居るのが好きだから泊まりに来て一緒に居るだけ」
「うん」
「でも…、まだ良くわかんねえんだよ、ごめんな。こんなに悩んだの初めてだからさ」
「んーん、…悩んでくれてありがとうね」
「お前は返事返さなくていいとか言ったけど、ちゃんと答えは出すから少し待っててくれ」


ちゃんと整理して答えを出すから。
そう言って返事も聞かずそこから離れた。扉を締める時やっぱり優しいねなんて切ない声が聞こえたけど聞かないふりをした。
暫く時間は掛かりそうだけどあんなこと言われて喜ばないわけがないと思う。
ああ、本当に好いてくれてるんだなあと思った。
だからこそ答えを急かしたらあいつにも悪いし自分にも嘘ついてまた来るもの拒まずな関係に逆戻りして自分でも嫌になるだろう。冷静にならなければわかりたくてもわからないものだ。
はあと一つため息を付いて、あいつが風呂から出るまで少し考えてみる。
ただ何も浮かばないけど。一週間が長かったなあ。
こんだけ一緒に居てもわからないことだらけで頭が固まる。




でも自分でも此処まで悩んでるってことは、多少なりともそういう意味があるわけで、
意外と早く答えが出そうなのかもしれないと思う。
だってそうじゃなければ面倒くさいで終わってたと思うし返事を返そうとも思わなかっただろう。
ただやっぱり自分の心がわからなくて、
答えが出そうにない。




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