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突然、はっきりとした意識を伴って俺の名前が呼ばれる。驚いて起きあがろうとすると、ユキに後ろからがっちりと拘束されてベッドに座りこむ形になる。

今度はじゃれているわけでもない、もちろん寝ぼけているわけでもない。俺が望んだ、「そのため」の行為だとわかった。

「ナオ、……してほしいの?」
「は、ぁ――?なに、言って…ッ」

暗闇に慣れた目が、服の下でユキの両手が緩慢に這い回るのを追う。ユキはいつから起きていたのだろう。それとも、最初から?

「だって、ナオ、ずっと上の空だった。――俺の話、ちゃんと聞いてた?」
「き、いてた…って、」

片やただでさえ運動とは無縁の生活を送っていたのに、この2週間家から一歩も出なかったずぼら人間。片や2週間みっちりと身体を鍛え抜かれた、陸上部長距離エース。暇すぎて腹筋くらいすることはあっても、俺がユキに体力で勝てるはずがなかった。

ユキは首のあたりに顔をうずめて、妖しく俺に語りかける。それは、さっきまでの無邪気に話すユキではなかった。

「聞いてなかったよ。ナオ、俺の太ももとか、見てた?」
「ッち、が―――」

柔らかな指の腹を皮膚に立てて、10本の指がわき腹をなぞり上げてくる。じわじわと、それが近づいてくるにつれて、両の胸の中心に意識が集まっていく。

「ううん、違わない。俺知ってたんだ。ナオが、ずっとこうされたかった、って」

カチカチの乳首に、人差し指の腹がコツン、と当たった。

く、と指が乳首の側面を下から持ち上げる。びんびんになった先端が上を向き、尚も押し上げようとする人差し指から、ずり落ちる。

あ、やばい、とける。

「―――っ、ぁ、ひ」

たった、ひとつの動作だった。それでも、一瞬後に届いた甘すぎる痺れに、頭の中がショートしたみたいになる。

その余韻に浸ることもできず、あっという間にひっきりなしの痺れが俺を襲った。最初の反応に満足したのか、ユキは、くん、くん、と一定の間隔で指を動かし始める。

「――っ、…ぁっ、あッ、いっや…ッあ、ああ、ああっ、ああッ」

声を我慢できたのは、二度目までだった。下から持ち上げられては、人差し指の腹からずり落ちていく俺の乳首。そのたびに乳首の根元から先端まで張り巡らされた神経がピンと張られ、そこを指紋の溝ひとつひとつがまるでヒダのように横断し、なぞりあげていく、そんな快感。

ユキが責め方を変えた。流れるような指の動作で、人差し指以外の指が、身体の横に置かれ、固定される。そして唯一自由な人差し指が、乳首の先端をくるくると円を書くようになぞる。くるくる、ぞくぞく、くるくる、ぞくぞく。

「い、あ゛っ、それ、だめ――っん、だめ、だめ、だめっ、だめッッ!」

単調な動き、だけど、切れ間のない刺激に快感が逃げ場を見つけられず、ひっきりなしに脳みそへと快感を運んでくる。

だめ、だめ、と繰り返す以外にできない自分に、余裕のなさを感じた。腰が勝手に浮き上がり、快感から逃げるように頭をのけぞらす。まるでそうすれば刺激が届くのがちょっとでも遅くなるかというように。

だけど、そんなはずはなくて、むしろ身体が反ったことでますますユキが責めやすくなっただけだった。

「ぅあ…コッリコリのナオの乳首、こうやって触られるのが気持ちいいんだ? ね、俺に指でされるのが、そんなにいいの、ねえ?」
「…ぁ、……っ言わな、いわ、な、でっ…っ、あ゛」
「言いたくないんだ?」

首を横に振ると、また責め方を変えられる。今度は人差し指と親指で軽くつままれて、乳首を挟んだまま指が摺り合わされていく。

ユキは決して強くは摘んだりはしない。それでも右に、左にと、何かのメモリを調節するように指が優しく動かされると、間にある乳首が根元から捩られ、痛みなんかよりももっと辛い快感に涙がこぼれる。

「ぁ…あ、ぁっ、ぁっあっあっあ゛ッッ」
「ほら、言えよ、なあ? 気持ちいいんでしょ? さんざんその気にさせられて、お預け食らってこりっこりに勃起した乳首、ようやく苛めてもらって嬉しいんでしょ、ん? ほら、」

優しかった口調が一変してまるで俺をレイプしているように言葉で責め立てていく。だけど、指の動きはあくまで繊細で、やさしくて、それゆえに狂いそうに気持ちいい。

「―――なぁ、」

乱暴な台詞を吐いたかと思ったら、今度は、なぁ、と色っぽく囁かれて、全身にぞくぞくと興奮が這う。どれが本当のユキなのか、わからなくなってくる。

蹂躙されるのが、いい。ユキの態度に弄ばれ、指先に弄ばれ、こうやって言葉で弄ばれて、俺は乳首の快感だけで涎を垂らすほどに悦んでいる。

そして今俺は、その事実を口にしろと促されている。頭の奥がカッと熱くなるのがわかった。

恥ずかしい。でも、口に出してしまえばその浅ましさにますます興奮するんだろう。言ってみたい。言って、もっとやらしい気分になってしまいたい。

「―――っ、ぁ」
「…ん?」

また優しく囁かれる。ああ、もっとさっきみたいに強い口調で言ってくれればいいのに。そうすれば恥ずかしさも紛れてしまうのに。

でもユキは俺のそういう気持ちを全部わかってて、わざと優しく俺を誘導する。先端をくすぐるようにチロチロと爪が掠めていく。

「き、もち、いい――ッ! っあ、ユキに、……っ」
「俺に?」

ああ、どうしよう。

「ゆ…き、にッ、ち、くび――触られ…て、っ…は、ぁ…」
「…あっあっ――いっぱい、焦ら、された…っからぁ」
「やっ……と、さわって、っもら…っえて――うれ、し…ッッ」

いいながら顔が熱くなっていくのがわかる。それでも、口から勝手に告白が溢れ出てくるのは、決して嫌だと思っていない証拠だった。

そんな俺を見て、ユキは耳元でクス、と笑う

「やらしーね、ナオ。こんなとこ、誰にも見せらんないね」
「……ゃっ、言わッな―――」
「こんな風に、俺に乳首だけコリコリされて、――こっちも、こんなにして」

言って、一度手を胸から離し、俺のズボンへと腕を伸ばす。気持ちよさに腰が抜けたようになった俺は逆らえず、ベルトをはずし始めた手を押し返すふりをすることしかできない。

あっという間に下着まで下ろされ、跳ねるように飛び出したのはここ数日一度も慰めてやれなかったペニスだった。

それを見てユキが愛おしそうに、熱い、熱い吐息をこぼす。それが耳にかかって、俺も思わず身体を震わせた。

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