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「すっご…もしかして、ずっと我慢してたの? 俺と会えない間、オナニーもしないで?」
「ぁ、……そ、う…オナニー、しなかっ…た」
「そっか、じゃあ、もう触ってもらいたくて――たまんないんでしょ?」

まるですぐそばの誰かに聞かれたら困る、とでも言うように声を潜め、耳元に唇を寄せて小さく小さく囁かれる。呟くような音が、それなのに俺の脳みそをぐらぐら揺らして、腰から下が溶けてなくなってしまいようになる。

わざとなのか、あいつは胸板を背中に密着させたまま、どこにも触ってこない。

乳首でもいい、チンコでもいい、とにかく2週間もおあずけを喰らっていた俺は思い出された快感の味にやみつきだった。だから、ようやく与えられた快感が中断されると、会えなかった時より、生殺しにされてた時より、ずっと辛い疼きが湧き上がってくる。

「…んっ、―――ほし、」
「なに?」
「ユキ、触っ、て」
「――どっちを?」

今日はユキはとことん意地悪になるつもりだと気づいて、俺はようやく覚悟を決める。

「俺の、…チン、コ」

また意地悪そうな笑い声がして、ユキは言った。

「えー?ナオの大好きな乳首、いじれなくなっちゃうよ」
「え、そ――な、」
「でもさあ、こうやって後ろから乳首いじられたまま、それ、触ったらすっごい気持ちいいだろうね?」

その言葉で、俺は自分の覚悟が足りなかったことを今更知る。ポキリと心が折れる情けない音を聞いた。

「チンコ、腫れちゃったみたいにジンジンするでしょ? これ、掌でぎゅぅ、って握りたいよね?撫でまわしたいよね?」

一瞬でユキがさせようとしていることを知り、そんなん絶対無理、と途方にくれる自分と、すごく興奮してきている自分が身体の中でぎゅうぎゅう詰めになっていた。

そして俺がどっちの自分に従うのかも、もうわかっている。

「ね、どうする?」

言いながら、くぷ、と唾液をたっぷりのせた形のいい唇に耳を銜え込まれた。堪らず身体が反応したその瞬間に胸の突起がきゅっと摘まれると、ペニスが、ひとつ大きくはねて透明な液をとぷりと溢れさせた。

ゆっくりと、それに手を伸ばす。今、ここで手を震わせている自分と、目の前のモノをしごき上げる自分がうまく繋がらない。点と点をつなげるには、目の前の壁を乗り越える必要があった。

それは、ちょっと足を上げれば簡単に乗り越えられる壁。でも、乗り越えてしまったら、もう後には戻れない壁だった。

「ほら、ナオのおちんちん、おれが乳首いじるだけでピクピクしてる。早く触ってあげないと、ね?」
「ふっ、――ぅ、ぁっ…ッ」

性器の名称をわざと幼稚に言い換えられる。ユキは乳首をよじりながら軽く摘み上げては、ふ、と指を離す。執拗に執拗にその動きだけを繰り返されて、指が離れる瞬間にどうしても下半身に甘い痺れが走るのを止められない。

ユキの言うとおりピクピクと動き回るペニスの傍で手を宙に泳がせて、俺は壁を越えてしまった瞬間のことを考える。

きっと、自分が欲しているのは物理的な快感だけではないのだろう。

背後から乳首を弄られながら自身を扱き上げるなんてはしたない行為に対する、羞恥心とか、背徳感とか、そのときのユキの反応とか、そういうもので無理矢理押さえつけられて、恥ずかしくて情けない事実を脳みそに叩き込まれてしまう自分が見てみたいのだ。

そうやって追い詰められた自分が、どこまで快感におぼれていくのか、それが知りたいのだ。

ユキはそんな俺を知っているだろうか、そんな俺に気づいているだろうか。考えながら、俺は壁を越えていく。

「っ―――ぁ、あ、はぁぁぁ……ッ!」

2週間ぶりのその感覚は、快感より何よりも先に、ジンジンとした痺れを下半身に送り込んできた。

堪らず両手で握りこむと、溢れた先走りに塗れていた亀頭が、手のひらでずるりと刺激されてしまう。

「ひッ、っ、ぁ――ッ」

どう動かしても、刺激が強すぎて堪えられない。子供のようにペタリと座り込んで、ペニスを両手で握ったまま、不器用に、ゆっくりと上下に扱きだす。

「あっは、本当にやってるよ、」

馬鹿にするわけではない、だけど心底おかしそうな声音が耳元に響いて、俺はドキリと胸を衝かれたようになる。

同じ動きを繰り返してたユキの指も、いつの間にか快感を追い詰めるような、容赦のない愛撫に変わっていた。

「ナオって、そういうところあるよね」
「っは、ぁ―――ぇ…?」
「別にしなくてもいいのに、敢えて俺が喜びそうなこと、してくれるよね? ――いや、“ナオが”、悦ぶこと…かな?」

胸がざわざわする。だけど、ユキの指の動きは止まらないし、俺も手の動きを止められない。

「俺が命令したわけでもないのにさ、ナオは2週間もオナ禁して、わざわざ俺に教えてくれたりさ、」
「そんなにしたいんなら、ナオから襲っちゃえば良かったのに、ギリギリまで我慢して、俺が襲うのを大人しく待ってたし、」
「気持ちいい、って聞いただけなのに、ナオは恥ずかしい言葉、いっぱいいっぱい言ってたよね、」
「今だってちょっと意地悪言ってやろうと思ったら、ナオは本当に自分のおちんちん、扱くんだもん」

鼓動が早鐘を打つ。ユキは、全部知っていた。全部気づいていた。

「ナオはさぁ、変態、なんだよ、――――ど、へ、ん、た、い、」
「――――ッッ!! …ゃっあ゛ッ―――っは、ぁぁっ、ッあああ゛ッ!」

瞬間、体中の血液が逆流したみたいに錯覚する。ぞく、ぞく、ぞく、とあっという間に快感が背中を駆け上がり、手の中でペニスが膨れ上がるのを感じる。我慢しよう、なんて考える暇もなく、指の隙間から2週間分の精液が一気に吐き出された。

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