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「――練習きつくてさぁ、2、3人倒れるとか正直問題アリだよね、」
「だなぁ」

他愛無い話に花を咲かせる。電話越しに同じような話を何度も繰り返したはずなのに、それでは埋まらなかった空白を必死で満たしていく作業に、しばらくの間二人で没頭していた。

ユキはメールで嘘をついていた訳ではなくて、昨日までは本当に休むつもりだったと言った。だけど家に帰り着いて、風呂まで入った途端、

「ナオに会いたくなっちゃった!」

だから自転車をすっ飛ばしてうちに来た、と語る笑顔が花火なんかよりもよっぽど眩しくて、ユキが帰ってきたらぶつけてやろうと思っていた2週間分の恨みつらみが霧散していく。

もうすぐ日付が変わる時刻だった。早寝早起きがモットーの両親はとっくに眠っているだろう。なんとなくそわそわする俺に構わず、話し足りないユキはニコニコとしゃべり続ける。

向かい合って、ベッドに座るユキと俺。俺はほんの50cmの距離の詰め方を忘れてしまったみたいだった。

ユキが笑うたびに、風呂上りの香りがこちらに届く。タンクトップにハーフパンツというラフな服装から伸びる手足は、陸上部の癖に女みたいに白くて、だけど長距離選手らしいしなやかな筋肉が時々陰影を見せる。

いつも抱きついて、じゃれ付いてくるのはユキのほうだった。だから、今日もすぐにそうしてくれると思っていた。

なのにユキは一向にそんなそぶりを見せない。疲れてるんだよな、と無理矢理自分を納得させて、上の空な自分に気づかれないように会話に集中する。

「あれ、部屋の電灯変えた?」

ユキが天井を見上げて言う。それはこの部屋の、2週間で唯一変化した部分だった。

「あーそう。古くなってたし、買ってもらった。これ、リモコンでオンオフできるから便利」

そう言ってリモコンで適当に明るさを調節して、面白がるユキに貸してやる。「最近の家電は便利だねえ」なんてじじくさいことを言いながら、ユキの指がふいに消灯ボタンに触れた。

「あ、」

す、と部屋の光が消える。

同時に音までが部屋から消えてしまったようだった。

祭りは完全に終わってしまったのだろうか、花火の音ももう届いてこない。

突然のことに気が動転して、俺は思わずユキの手からリモコンを取りもどそうと手を伸ばす。その手が、ぐい、と引っ張られた。

「え、わ――」
「ナオ、」

すぐ耳元で名前を呼ばれて、ユキに抱きしめられたことに気づく。身体がこわばるけど、胸が期待に震えていた。

「あはは、久しぶりだね」
「だ、な」

そのままいつものようにじゃれ付かれる。ユキに体重をかけられて、ベットに二人でごろんと転がった。ユキの胸板が背中にぴったりとくっつく。手が身体の前に回った。ああ、やっと、と思った瞬間、その手は俺のわき腹をくすぐった。

「ちょ―――!!ユキ、ばかやめ、」

思わず大声を出しそうになった俺は、あわてて音量を絞ってユキを引き剥がそうとする。無邪気に笑うユキはあっさりと手を離して、今度は俺の背中に顔をうずめてきた。

「はーっ、この感じ、2週間ぶりー」
「え、あ、…うん」

拍子抜けした俺は、一度火をつけられた熱を持て余しながらユキが静かに呼吸するのを聞く。それはだんだんと規則的になって――

「……ユキ、寝た?」
「―――、」

返事はなかった。いや、寝るのはまずいだろ、と慌てて身体を起こそうとすると、ユキの手がまた身体にまわされた。

「おい、ユキ」
「ん、」

夢の中で返事をしながら、ユキが後ろからゆっくりと俺を抱きすくめる。意外に強い力でホールドされてしまって、嘘だろ、と思いながら、あまり音を立てると親が起きてくるのでそっともがいてみる。

2週間もおあずけをくらったあげく、こんな状況で生殺しにされるとは思わなかった。一向に俺を離そうとしないユキにだんだんと怒りが沸いてきた。

「おい、いい加減に――――ッ」

殴ってでも起こしてやろうと身体を起こしかけた瞬間、ユキの指が胸の中心を掠めて思わず息を呑んだ。

身体を拘束する腕がもぞもぞと動いて、手のひらが俺の胸の辺りを往復している。さらけ出された二の腕同士がこすれて、胸の奥がざわざわと騒ぎ出す。

いつの間にかユキの白い太ももが俺の脚に絡みついていた。ぬるりと両脚の間に差し込まれて、下半身が反応しはじめる。

両の手は相変わらず俺の胸をまさぐっていた。だけど、本当に触ってほしいところは、服越しに、時々、触れられるだけで。

「生殺し」という言葉が、また脳裏に浮かび上がる。背中には相変わらずの寝息を感じる。ユキを起こさなきゃいけない、なのに、

「ぁ、ユ…キ、ッ…おい、っ、」

捲れたTシャツの裾から、ユキの右手が進入してくる。腹をなでられ、わき腹をぞぞ、と上ってくる。指先に直に掠められて、そこが、もうすっかり硬くなっているのがわかった。

「んっ、ふ―――、は、ぁ…ッ」

もっとほしい。霧散したはずの恨みつらみが、すべて欲望に変わって身体に漲っていく。

「ナオ」
「―――――っ!!」
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