翌日学校には警察が訪れていて旧校舎とその周辺は立ち入り禁止にされ授業も午前中のみで終わった

そんな騒ぎのせいか旧校舎の噂は学校中でさらに盛り上がってしまっていたが
昨日まで先陣をきっていたタクヤのグループは驚く程静かでそれどころか旧校舎の噂を聞くと説教すらしていた

ランドセルを背負い下駄箱から出ようとしたときにそんなタクヤを見たミキとカナとユウタは顔を合わせ
そりゃ昨日あんなめにあったんだものねと眉をあげた

3人に気づくとタクヤは駆け寄り昨日の事を謝った

申し訳なさそうな顔も、一生懸命話しながら動かす手も絆創膏だらけでどうしてもそっちに目がいってしまい話しに集中出来なくなったミキは
「タクヤあんたなにそれいつそんなに怪我したわけ?」
と呆れたように至るところに貼られた絆創膏を見た

「昨日旧校舎でだよ暗くてなんも見えねぇからさ、なのにあいつ兎崎はおかしいよ躓きもしないで進むんだ…なんなんだよあいつは?」

昨日の事を思いだし身震いするタクヤに3人はニッといたずらな笑顔をむけた

「そうでしょ!私達は兎崎が何者なのか突き止めるために駄菓子屋に行ってたのよ!探偵みたいでしょ?」

どんなもんだと胸を張るミキの隣で何か思い出したようにユウタが声をあげた

「俺思い出した!昨日旧校舎行く前俺駄菓子屋でお坊さんと兎崎にあったんだよ!」

そういえばあんたあのとき駄菓子屋にいたわねと目を細めるミキの視線を感じながらユウタは続ける

「でさ、なんかお坊さんと兎崎言い合いみたいになったんだけどさ、協力がなんとかかんとかで話しがまとまったんだ」

「あんた大事なとこなんっにも覚えてないじゃないの!何が原因で言い合いになって何を協力すんのよバカ!」

ミキが遠慮なしにまくし立てるとユウタは一言浴びる度に縮こまっていった

「だけどだけど!そんときにお坊さんが一枚の新聞を兎崎に渡したんだよ!その新聞を昨日兎崎郵便受けに入れたんだもしかしたらまだ郵便受けにあるかもしれない!」


そう言い騒ぎながら走って行く3人をぽかんと見詰めると
俺も連れてけよと慌てタクヤは3人を追った


案の定、いつものごとく駄菓子屋は閉まっていた

いつもなら落胆するところだが今日ばかりは閉まっていてくれてよかったと思った

もし開いていたら郵便受けを調べられないからだ

「おまえらなぁ、ひとんちの郵便受け勝手に開けんなよな…」

きょろきょろしながら郵便受けに手をかけるミキにタクヤがそう声をかけるがお構い無しにミキは郵便受けを開く

そしてそのまま閉めるとミキはユウタの肩を小突いた

「ないわよ新聞!」

「えーなんだよないのは俺のせいじゃねぇもん叩かないでよ」

がっかりと肩を落とす3人をみながら「それでよ、」とタクヤが声をかける

「兎崎について今んとこわかってる事ってあんのかよ?」

タクヤの言葉に3人は顔を合わせると、えーとと考えながら

「名前は兎崎、駄菓子屋の店主で……」

と指を折りながらわかる事をあげていったが早くもふたつ目で指を折る手がとまった

あまりの少なさにタクヤが「はぁ!?」と声をあげた

そんな事俺でも知ってるよと呆れるタクヤに

「あと、霊能力者とかそういうのじゃないって言ってたよ」

とカナが笑顔で言った


「なんだよ結局何もわかってねーんじゃん!しょうがねぇなこれからは俺も一緒に―――」


とタクヤがいいかけたときユウタが駄菓子屋の壁を差しながら声をあげた

驚いた3人がユウタの指差す方を見ると、硝子戸の隣に泥のついた跡があった

「昨日!兎崎泥だらけでスコップ持ってた!」

「何でよ」

「掘ってたって言ってた!」

「何をよ」

「わかんないけど…」

暫くおいてミキが無言で再びユウタを小突いた

また明日にでも駄菓子屋に来てみようという話しになったが

次の日も、そのまた次の日も駄菓子屋はカーテンがひかれたままで
結局夏休みに入るまで一日もあいている日がなかった

あまりに長い間閉まっていたため
旧校舎の件以降駄菓子屋は閉店してしまったのではないかとの話しもミキ達の間で出始めていた


いつもなら閉まっていても郵便受けにお代の新聞が入っていたりしたがそれもなく郵便受けは空のままだ

それでも今日こそは開いているんではないかと見に行くが
やはりカーテンは開けられた形跡もなく一日中しまっている

ユウタが近所でたまに会う坊主に聞いてみても知らないという

もうきっと閉店してしまったのだろうと半ば諦め
毎日駄菓子屋の様子を見に行っていたのが2日に一回、3日に一回と減っていったころ

ミキの家にカナからの電話があり、その電話を切るなりミキはユウタに電話をかけた

なんでも一昨日塾帰りのカナが駄菓子屋が開いているのを見たというのだ
ただ、以前とは少し様子が違うらしい

電話を終わらせるとミキとユウタは慌て家を飛び出した

息を切らしたミキと別れ道が一本に混じる所で合流するとユウタは肩を並べて走った

「前と様子が違うってどういう事だよ!?」

「わからないけどカナは行けばわかるって言ってた!」

途切れ途切れに上がる息で言うユウタと同じく途切れながらミキは答えると駄菓子屋の数歩手前で足を止めた


確かにカナの言う通り何が違うのか一目でわかった

あの昼間でも薄暗い駄菓子屋の店内が驚く程明るかった

それはもう店の中のものの色合いをすべて暖色のものに変えたのではないかと思う程に明るい

そして開店しているときも閉じられていた埃だらけの硝子戸は見事に拭き上げられ開放的にあけられている

店の外にもいくつか商品の乗った台がだされていて
ただ黒で数字が書かれていただけの値札はちゃんと数字のあとに「円」がかかれていて
更にそれは色とりどりのペンで書かれているうえ"人気商品!"などの一言まで添えられている

夏休みという事もあってかほとんど駄菓子目当てで来る人などいなかった店は子供達で賑わっていた

二人は一体これはどうしたんだと顔をあわせ、もしかして店が変わったんじゃないかと思い上をみると
確かに「駄菓子屋 兎」の看板がかけられていた

恐る恐る店内に足を踏み入れるとレジ台の方から「いらっしゃい」と声がし二人は勢いよく声の方を向いた

一体何があったんだと聞こうとしたのだが、
レジ台に座っているのは兎崎ではなかった

二人は何が何だかんだわからないといったように眉間によせた眉をさげる

「なーんだよ元気のない子供だなぁ暑さでバテてんならそこにアイスあるぞ!」

レジ台でそう大げさな表情でうちわを片手にアイスを頬張りながら言っているのは
高い位置で髪をポニーテールにまとめたわんぱくな少年のような女性だ

女性の着ている黒いTシャツには"駄菓子屋"の文字とその下には兎の顔のシルエットがプリントされてる

「あちぃー」と言いながらうちわに扇がれ浮く髪が汗で額につくと
女性は背もたれに背中を埋めながら「扇風機ないと明日には干上がんな」とアイスの棒を加えたまま呟いた

一体何個目のアイスなのだろうか、レジ台の上にはすでに他のアイスのゴミがいくつか散らばっている

「あの…」

と遠慮がちにミキが声をかけると
「水飴なら今きらしてるぞ」

と聞こうともしていない答えがだるそうにかえってきた

恐らく今日何回か聞かれた事なのだろうが駄菓子を買いに来たわけではないミキにとって水飴があるかないかなどどうでもいい

が、隣でユウタは「水飴ないのかぁ…」と呟いていた

ミキはキッとユウタを見ると再び大きくうちわを動かす女性の方をみた

「そうじゃなくて、あなたは誰?」

ミキの言葉に女性は背もたれから体を起こすとうちわでミキ達の方を差し
「誰っておまえ変な事言うヤツだな」
とまた大げさな表情で眉を上げてみせた

「ご自由にお持ち下さいじゃないんだからここに座ってるって事はな、ここの店の人間って事だろ。里衣子(りいこ)ってんだよよろしくな少年に少女」

そううちわを揺らすと里衣子は
「社会科見学ならいつでも受け付けてるよー」
と棒読みで言いながら背もたれに埋もれていった


と、そこへ店内をきょろきょろ見回しながらタクヤが二人の元へ歩いてきた

「なんだよ、普通じゃん」

ミキ達との仲も戻り、駄菓子屋に興味を持ったタクヤは旧校舎の件以降やっとあいていた駄菓子屋にミキとユウタの姿を見つけ初めて入ったはいいが
ミキ達から聞いていた駄菓子屋とはあまりに違う店内に期待はずれというように明るい店内を見ながら肩を落とした


同じときに肩を落としたのはタクヤだけではないようだ

タクヤの背後で慌て駆け込むようにスーツの乱れも気にせず店内に入ってきた男性は店内の明るい雰囲気に「え!?」となりながら後ずさりし
店の看板と店内、そして握られたメモを交互にみると首を傾げ
ここじゃないのかといった顔を俯かせとぼとぼと歩いていった

ミキはその男性が見えなくなるとため息をつき「違うのよ…っ」とタクヤに顔を寄せた

「一昨日カナが開いてるの見たっていうから来たんだけど全部変わっちゃってるのよ…っ」

そうレジ台にいる里衣子に聞こえないよう小声で言うとミキは「ほら見て」と合図するようにレジ台の方にちらちらと目をむけた

「兎崎じゃねぇじゃん!?」

思わず声をあげたタクヤの言葉に里衣子は扇ぐ手をとめ背もたれから飛び起きると

「兎崎ぃ!?」

とわんぱくそうな目を驚いたように丸くした

「なんだよ兎崎の知り合いなら最初っから言ってくれりゃよかったのに」

そう眉をあげると里衣子は立ち上がり冷凍庫の前まで行くと次はどれにしようかと悩む手でまたひとつ取りだし
「あいつならもうすぐ―――」
といいながらアイスをくわえレジ台に戻る足を止めると硝子戸の方を指差した

ミキ達が振り向くと呆れた顔で里衣子をじっと見る兎崎が腕を組みたっていた



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