兎崎とタクヤが旧校舎の入り口を出ると
坊主が蟻の巣をつついたようにあちこちへ逃げ回る子供達をなんとか落ち着かせている所だった

が、男の子を抱えて出てきた兎崎を見ると再びパニックに陥り坊主は「あぁもう」と額に手をあて俯いた

さすがのミキもみんなを一喝する事なく強張ったまま立ち尽くしていてその後ろに隠れるユウタは更にひきつっていた

「兎崎さんこの騒ぎの通りさっき旧校舎の中から女の子が出てきて池の方に――」

坊主が疲れきった顔でそう口にすると
男の子はそれを聞くなり兎崎の腕を押し退け振りほどくと池の方へ真っ直ぐ走った

まったくと言うように息を吐く兎崎を覗き込むと「何かわかりました?」と坊主がたずねた

「男の子は当時から旧校舎だったここでのかくれんぼで自力で出れない所に入ったまま閉じ込められたこだよ。誰かに見つけてほしかったんだろうね。」

そこまで言うと兎崎はもう一度息をつき続けた


「で、女の子はお坊さんが調べた通りで恐らくペンダントが見つかれば消える。けど、たぶんここで一人で寂しい男の子が女の子が消えてしまったら困るって見つかるのを邪魔してる。」

慌て走って行った男の子がいる方を兎崎は指差した

「あぁ、だからペンダント持ってると男の子は見つかると困るから渡せと現れて、女の子は返してくれと現れるんですか」

なるほどと坊主は何度か頷いた

「たぶん池に近づいた人を落としてるのも男の子だね。」

そう言うと兎崎は池の方へ歩いた

池の横で女の子は俯いたままで
その隣で男の子がかくれんぼの最中に逃げた事をせめていた

この二人がぼやっと透けている以外はよく見るような子供の普通のケンカだ


「遊ぼうっていったのに!」

と言う男の子に女の子は俯いたまま首をふる

「女の子はここにはいたくない。ペンダントを見つけてここからもう去りたいんだよ。」

後ろからそう言う兎崎の声に振り向くと「でも!」と男の子は言ったが続きを言うかわりに俯いた

「君だってもうこんなとこに縛りつけられる理由はないでしょ。ここにいつまでもいてペンダントが見付からないようにいじわるしてたって何も変わらないしどんどん寂しくなるだけだ。」

兎崎の言葉に男の子は相変わらず黙ったままだ

頭ではわかっているのだろうが意地を張って素直に首を縦にふるのをためらっているようにも見える
「それにこのままここにいるといつか悪いおばけになっちゃうよいいの?」

見兼ねた兎崎が目を細めどこかからかうようにぼそりと言うと、
男の子はハッと目を開き再び悩むようしばらく俯いていたが
やがて小さく頷くと照れ隠しなのか目をそらしたまま女の子に「ごめん」とぼそっと言うと静かに消えていった

ミキ達はホッと胸を撫で下ろすと顔を合わせそれぞれ安堵の言葉を口にした

やっと安心したのかタクヤは体中の空気が抜けたかのようにぺたりと地面に座り込んだ


その様子を女の子と見詰める兎崎が「さてと」と手をぽんと叩き皆の視線を集める

「池の中のペンダントをさがそう。」


坊主と兎崎が池に入り、ミキ達は外から手を入れたり棒でつついたりしながらさがしたが
いつのものかわからない空き缶や自転車の鍵やストラップは出てくるものの、
いつまでたってもペンダントはまったく見付からなかった


「兎崎さん、探しにくい池でもないですしこんだけ探してないって事はもうここにはないんじゃないですかね?」

腰を伸ばしながら坊主がそう言ったとき
校庭の向こうから懐中電灯の明かり二つと話し声が近づいてくるのが見えた

まずい!と坊主はこんな時間に勝手に学校の池に入ってるなんて通報されたに違いないと慌てたが
聞こえてくる会話からしてどうやら違うようだった

「知らねぇよこの池にあったんだからまた池ん中入れときゃいいんじゃねぇの?」

「もー本当最悪」

そう言いながら近づいてくる二人は懐中電灯の照らす先に現れた兎崎達に驚くと飛びはね悲鳴をあげたが
自分たちが見たものが人である事を確認するよう再び懐中電灯を向け見て行く中に兎崎の姿をみつけると「あ…」と気まずそうな顔をした


ハッとしたミキがそっとユウタに近づき「ねぇ!」と耳打ちをする

「今日見た人達よね?ほら…!」

ミキの言葉に考えながら目を細めるとユウタはその目を丸くしミキを見た

懐中電灯を持っているのは
昼間駄菓子屋で心霊スポットに行った友達がおかしいから助けてくれという依頼を断られたあの二人だった

兎崎は池の中に立ったまま苛立つ表情を向けると

「心霊スポットって、ここ?」

と眉間にしわをよせた

「いや、なんつうかこの池ペンダント探してる女の子とかなんとかって噂あるんすけど、なんか本当にペンダントあってしかも友達それ持ってきちゃって!それから男の子が家のちかくにいるとか女の子が夢に来るとかわけわかんない事言うからじゃあ池にペンダント戻してみるかってなって」

「あぁそうじゃあ返してあげてくれない?」


兎崎の言葉に「は?誰に?」と二人が言うと兎崎は自分の横の暗がりを指差した

指差す方向を照らした先にいたのは二人を睨み付ける女の子だ

「まじかよ!?」と懐中電灯とペンダントを地面に落とすと二人は躓きながら逃げるように走っていった

女の子はペンダントに近づくとそっと拾い上げながら消えていった



やれやれと坊主が池からあがり裾を絞っていると
校庭を囲む木々の間から向こうの方でかすかに見える赤い回転灯がゆっくり近づいてくるのが見え隠れするのに気づき

そういえばこんな時間まで子供達が帰っていないのだから捜索願いが出されていておかしくないと思い坊主はしまったと顔をしかめた

どうしたものかと兎崎の方を見ると、とっくに裾を絞り終えた兎崎がついに校庭に入ってきたそれを見ながら「あーあ」と眉を寄せていた

回転灯をつけたパトカーは校庭の入り口で止まると中から数名が降りこちらを照らしながら歩いてきた


「あとよろしくね」と笑うと兎崎は坊主に背を向けパトカーが来たのとは反対の入り口へ歩いた

「え!?」と慌てる坊主に
「僕がいるときっと余計ややこしい事になるからね」と言うと兎崎は「あと、」と小声で続けた

「校長室の金庫、あのこそこにいるからお巡りさんに教えてあげて」

そう再び背を向けると兎崎は坊主に手をふった

溜め息をつく坊主の横でタクヤは自分のポケットが振るえている気がして手を入れると
先程借りたままの兎崎の携帯が着信を知らせる画面を表示し鳴っていた

タクヤは慌て兎崎を追いかけ、投げてというように手をあげる兎崎にそれを投げ渡すと再び坊主達の所へ走っていった

受け取られた携帯は未だに手の中で着信を知らせ続ける

うるさいなと携帯の画面を見つめる兎崎の背後では
「お坊さんずぶ濡れな理由どうすんの?」
などといった慌てた会話が聞こえていたがやがて歩く兎崎の耳から段々と遠ざかる

鳴り続ける携帯をしまおうとしたとき
ついに留守番電話に繋がったのかなりやむと同時にかすかに留守電の音声が聞こえた

ピー という発信音のあとに―――


暫くして電話の向こうの相手の騒がしい声が聞こえだした

「おい!兎崎!どーーっせ着信にも気づいてるし今あたしのこの留守電が録音されてんのをうるさいなとか思いながら聞いてんだろ!?用事あるからかけてんだからすぐかけなおせよな!」


録音がおわり電話がきれると兎崎は面倒臭そうに着信履歴からかけなおした

再び電話のむこうから騒がしい声が聞こえだし兎崎は少しばかり携帯を耳から離す

「やっぱりリアルタイムで録音聞いてやがったな!ひょっとして留守電の内容でかけなおすかどうか判断してんだろ!?あたしだってな暇でかけてんじゃないんだかんな!」


相手の声が途切れるのを確認すると兎崎は携帯を耳にあてた

「やだなそうじゃないよ。ところでさ、ひとつ頼まれてくれる?」


暫く続く会話がまとまると兎崎は電話を切った




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