兎崎をみると、ここは自分たちの知っている駄菓子屋兎であっていたのだと安心するよう3人は顔を合わせ笑った


兎崎は目を離さないまま店内を進むとミキ達の横を通り過ぎ里衣子の前で足をとめた

「りーこ。」

少し怒ったトーンで兎崎がそう里衣子を見下ろすと

何怒ってんだよと不思議そうに里衣子は眉をあげたが自分が今食べているアイスの他にもレジ台にアイスのゴミが乗っているのを思い出し
やばい、と口からアイスを離すとポケットから小銭を出し兎崎の手に乗せた

兎崎はそれをレジ台に置くと引き出しの方へまわり何かをさがすように端から引き出しをあけはじめた

「僕はりーこに店番を頼んだけどみててほしかったのは駄菓子屋の方じゃないんだけど」

そういうと兎崎はやっと見つけたのか引き出しから電球をひとつとると店の真ん中につるされた明るい電球を取り外し暗いものに変えた

見慣れた明るさに変わった店内にミキ達もなんだかほっとした

「来た依頼のメモを残しといてほしかったんだけど」

はずした電球を里衣子の手に乗せると兎崎は「依頼は?」と言うように里衣子を見た


「依頼も大事だけどまずは店内だろ?前よりずーっと雰囲気よくしたんだぞ文句言われる筋合いないね。百足や蜘蛛がこぞって大行列よりお客が行列つくった方がいいだろ!?」

ハンッと眉を上げ胸をはる里衣子から兎崎は「行列も雰囲気もいらないんだよ」とぼそりと言いながら店内に視線を移すと
"店主おすすめ!"や"話題の商品"という札やカラフルな文字が次々に目に入り
「あーもう」と言いたげな目を最後に里衣子が店の制服かのように着ているTシャツに向けると「それは?」と指差した

「そのTシャツは何。駄菓子屋にバイト雇った覚えはないんだけど…っていうかりーこ、僕が電話で頼んだ次の日からちゃんと来てた?」


「一昨日Tシャツが完成したんだよ」


という事は一昨日から来てるのかと兎崎は目を細め、それがなんだよというようにけろっとした顔をしている里衣子から目をそらすとユウタ達の方を見た


「ユウタくん達、この人は僕の知人でりーこ。りーこ、この子達はここの大事な常連さん」

ざっくりと双方に紹介すると兎崎はレジ台の椅子を回し腰をおろした

「それからどう?旧校舎の噂は落ち着いた?」

レジ台の上に前のめりに両腕をつけると兎崎はタクヤの方をみた

「え、あ!はい…っ!」

まるで参観日の日の授業中にあてられたかのようにピシッと立ち直しタクヤがそう答えると
まだ気をつかっているのかと兎崎は眉をさげた


「あの次の日からちっとも駄菓子屋あいてないんだもの閉店したのかと思ったわよ」

腰に手をあて頬をふくらませているミキに
「バカ開いてなかったって言うなって」というジェスチャーを里衣子が必死に送るのを横目に兎崎はレジ台前のゼリー菓子の棚に手を伸ばす

「ほら僕ここで依頼を受けてるでしょ?お巡りさんにあまり調べられてもさ、例えば昨夜は何してたか聞かれても困るからね。だから落ち着くまで駄菓子屋離れるってお坊さんには言っておいたんだけど…聞いてない?」


そう言いながら兎崎はいつまでたっても伸ばしさぐる手に触れないゼリー菓子の方へ目を向けると
この前までそこに置かれていたはずのゼリー菓子の棚がなくなっている事に気づき不機嫌に里衣子を睨み付けた

ぎくっとし肩をあげると里衣子は慌て硝子戸の方へ走りそこに置かれたゼリー菓子の棚を持ち上げる


「俺お坊さんに聞いたのになー」と頭の後ろで手を組むユウタの横にゼリー菓子の棚が揺れながら足をつけた


兎崎は置かれた棚に納得したように眉をあげると懐から懐中時計を取りだし時間を見たが
「あ」という顔をすると呆れたようにそれをレジ台へ乗せた

「なぁにそれ?」と珍しそうにミキとユウタが駆け寄る

「懐中時計。もうだいぶ前に止まっちゃってるんだけどついくせで見ちゃうんだよ」

兎崎の言葉に「ふーん」と目を丸くすると2人は懐中時計をながめた

古い懐中時計は所々赤茶色く錆びていて
その針は11時17分で時を刻むのをやめたようだ

よく見ると小さな文字で"Seigou・N"と彫られている

「せ、い、ごう?」

ミキが一文字ずつ読み上げる

「そう。その時計を僕にくれた人」

「ふーん。なんで止まったままなの?直せばいいのに」

ミキの質問をはぐらかすように兎崎が笑みを浮かべたとき、
どことなく話しを遮るかのように手をポンポンと叩き払うと里衣子は「よし」と腰を伸ばし
レジ台の後ろからくたくたの肩かけカバンを引きずりだし肩へかけると
「再放送のドラマが始まる前には家にいないとな」と言いながらひらひらと手をふり駄菓子屋を出ていった

ミキはタクヤとユウタへ合図をするよう目を向けると
「俺もそのドラマみたいんだった」とタクヤがまるで台詞を言うように口にし里衣子を追うように3人で店を出た


すでにだいぶ向こうへ行ってしまっている里衣子の姿に走りながら声をかけ、何度目かでやっと気づいたのか足を止めた里衣子が振り向いた

3人は息をきらしやっと追い付いた里衣子の前で足を止め息をととのえる

「なんだよガキんちょ、ドラマ録画予約してないんだから早くしろって」

「里衣子さんって兎崎の知り合いでしょ?なんで兎崎は駄菓子屋で依頼を受けてるの!?何者なの!?」


腰に手をあて見下ろす里衣子にまだ息をきらしたままのミキが早口でそう言うとしばらくして里衣子が口を大きくあけ笑った

「子供ってのはいいよなちょっと想像すりゃすぐ不思議の世界に行けんだもんな!子供の頃やったもんなちなみにあたしは家の押し入れをあたしの王国にしてた」

どうだ最高だろ?と笑うと里衣子は3人の目線までしゃがみ人差し指を立てると小声で続けた

「いいか、実はあいつは怖ぁーいおばけでな、あの駄菓子屋に来るヤツを脅かしてんだよ。だからあんまり行ってると取り憑かれちまうぞ」

いたずらな笑顔で里衣子はぐるりと人差し指の向こうの3人をみた

驚いたような困ったような顔で眉間にしわを寄せるユウタとタクヤの間でミキが「ばかね!」と呆れたように二人を小突いた

「なにまんまと騙されてるのよからかわれたのよ。」

ミキの言葉に「ちぇっ」と詰まんなそうに口を尖らせると里衣子は体を起こし
気がすんだらさっさと帰んなと再び手をひらつかせた



第二話 完





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