03


それから俺は城の中をさまよい、何とか中庭にたどり着いた。
中庭は芝が敷き詰められいたるところに花や木が植わっていてとても心が安らぐ。それに今は夜だから月明かりに照らし出されてなんだがとっても幻想的。
えーっと……それで肝心のモヤシ男は……

――あ!いた!

気配を消し、足音も立てないようにして辺りを探していると木に向かって喋っているモヤシを発見。相当気持ち悪い。
なに喋ってるんだろ。
俺は手近な木に隠れ聞き耳を立ててみる。

「……ぼ……僕は……絶対この洞窟を制覇して帰って来たらリーナちゃんに……こ……告白するんだっ……」

はあ〜ん……そ〜いう事ね。でもリーナは全然そういう気はなさそうなんだけど。

「り……リーナちゃん……ぼ……僕……!」

うわ、木に向かって告白の練習し始めたし。ハッキリ言わなくても引く。
……ふっふっふ……じゃ、ちょっとからかっちゃおうかな〜♪
俺は出ていくタイミングを見計らう。

「ぼ……僕……リーナちゃんの事が……す……すき……」

「ウィルさ〜ん!」

「ひいっ……!」

モヤシの『すき』に合わせて、この上ないくらい無垢なにこにこ笑顔で俺は木から飛び出した。
予想通りモヤシは大げさに飛びのき動揺し、怯えたような目つきでこちらを見ている。そんなのお構いなしに俺は、笑顔を崩さず続けた。

「俺ね、ウィルさんとお話したくてさっきここに来たんだ〜。……ウィルさんなんか喋ってたみたいだけど何を喋ってたの?」

裏なんてありませ〜んというオーラを出しつつ上目使いでモヤシに近づきつつ見やる。

「えっ……え〜と……その〜……う〜ん……」

もじもじしながら冷や汗を垂らしているモヤシに更に近づき、やはり俺はにこにこしながら、さりげなーくモヤシの腰に下げてある、お金がたっぷり入ってそうな麻袋を盗った。
よっしゃ!全然気づいてない!

「教えてよ!ね?」

更にモヤシに発破をかけてみる。これまた予想通りの慌てっぷり。ホントに面白い!

「え……えと……そ……そうだよ……!君にはまだ早いよ……!たくさん恋をして、たくさんの女の人と触れ合ってたくさん人生経験したら教えてあげるよ……!」

何この人。いきなり説教されたんだけど。
モヤシに人生云々言われる筋合いはないんだけど。人生経験をもっとした方がいいのはモヤシの方だよね、絶対。

「そっか!ウィルさん大人だもんねっ!俺もウィルさんみたいな大人になりたいな!」

「ははっ!そうかそうか……!君も頑張れ!」

うわ、めちゃくちゃ偉そーだし!
内心そんな事を思いながらも顔には一切出さない。

「うん!がんばるね!」

「僕も応援してるよ。……じゃあ僕は明日の準備をするから家に帰るけど、君は?」

「俺はもうちょっとここにいるよ。おやすみ!」

「おやすみ……!」

笑顔のまま手を振る。向こうも振り返し、どんどん俺から遠ざかり中庭の入口の扉の向こうに消えて行った。

ふぅ……。
……あのモヤシやっぱり引くわ〜……
なんて言うか気持ち悪い。行動も何もかもが気持ち悪い……!
それでもそんな事は顔に出さなかった俺って凄くない!?さっすが俺!
……ま、ホントはこんな特技覚えなきゃならないような生活なんてしたくなかったけど。
……って……!折角モヤシを見て楽しもうと思ったのに何で昔の事思い出して暗い気分になってるんだ!
あ〜あ、これもすべてあのモヤシのせいだ!もう最悪!
でもお金たっぷりもらえたからいいか。
俺は麻袋の中身を確認して、また口を閉めた。
さて、俺も皆のところにかーえろ。
月に照らし出されている芝を踏みしめながら俺はゆっくりと中庭を後にした。


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