中編
冒険者というのは本来自由で個人個人に好きなように暮らせる職業。
なのに、同じクランだからと言って滅多に親睦も深めやしない敵対した視線ばかり送る男にあれやこれやと言われる筋合いはない。
「私は自由が好きなの。だからやめる。もし不服を申し立てるんならギルドに規約違反で訴える」
力強い瞳に見られながら言うとローはギロッと睨み付けたまま紙を引き出しの中に入れる。
受理しておく、と幾分かトーンの落ち着いた男によろしく、と言う。
「あと、ついでに」
「なんだ」
腕を組んで凛々しい顔を保っているその表情が次には無くなる。
「別れて」
「……一体どこまで勝手なんだ」
呆れと怒りが混ざった感じ。
「勝手っていうか、ローこそ私に飽きたんじゃないの?」
「は」
「最近は出掛けてもないし」
「忙しい」
「でも、話すのもしてないし。他の人とは話してたの見たの」
「……おれはクランのリーダーだ。お前がリーダーをやれというから」
彼は口を動かし、やがて閉じる。
「まァそれは良い。だが、別れはしねェ」
「ふーん」
首を傾げて感心した。
ここまで言ったのにキレないなんて忍耐力凄い。
「愛人くらいなら構わないよ?」
今や大物クランまで膨れてしまったこの集団。
忙しいのは分かりきったことだ。
「ああ?」
濁った唸りを上げた。
獣の音に似ている。
こりゃ怒ったか。
「じゃあね」
リーシャはこの恋人に対して我ながら過激な気持ちを抱いている。
彼は淡白な感じだから荒々しくされたいのだ。
それは他の人には全く感じなくて、彼だけに思う特別なものだった。
恋愛小説の読みすぎだと怒られるから言えないかど。
だからわざと煽る。
やめるのと別れるのは嘘ではない。
――グ!
肩を凄い握力で掴まれて机に背中を強かに打ち付けた。
「なにっ?」
驚いたけど、期待でにやけてしまいそうになるから我慢して演技をする。
「お前がクランに入るからおれも入ったに過ぎねェ」
ギラギラした目に心臓がこれでもかとドクドク波打つ。
今、この人の目には私しか写ってない。
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