後編
扉の鍵が回る音が小さく聞こえた。
魔法でかけたのだろう。
器用なものである。
男のタイプはオラオラ系が好みとはいえ、ローを後悔させるのは悪いと常々思っていた。
が、忙しさゆえに会えなくなる日々にも焦れた。
結果、己の方がギブアップしてしまった。
やれやれ、難儀な性格だと自分で自分を攻め立てる。
「どうするっていうの」
わざとその先をやらせるように煽る。
こう言われてしまえば後は石のように転がるだけだ。
レールに乗った物のように机の上へと背中を打ち付けた。
「なに、するの」
緊迫した物言いで、勘ぐられぬように冷や汗をかくフリ。
ここで笑ったりなんかしたらご破算である。
「今までおれはお前に甘かったと良く分かった」
別に甘くしてくれなどと言ったことはないのに、ねー。
っていうか、頼んでもないのにそういう風に扱うのは余計なことって言うんですよ。
「甘いっていうのなら、私との事はこうならなかったんじゃない?」
正論正論。
だが、ローは意に介さない様子で睨み付けてくる。
睨んだって過去が今を助けに来てくれることもなし。
そういうあまちゃんなとこも結構気に入っている。
足元を掬おうと何度だって考えたし、定期的に鈍らぬように危機感を導入したりもした。
今もなかなかの危機感を抱いているだろう。
「痛い。やめて」
切なげに頼んでも離してもらえない。
イエス、肉食。
「出ていかないと言え」
おやおや、生意気にも命令するのか。
「嫌よ。言うわけないでしょ」
ちぐはぐな言い方をしてしまい、中が気になる。
「冗談はギルドの空気だけにしてよね」
ローのカリスマ性に寄ってたかって、努力せずにギルドの名声にあぐらをかく人達など、仲間でもなんでもない。
腑抜けのようなしらを切った雰囲気のくせして、ローの名前だけで全てが許されるとおもっている
リーシャは彼の頭にげんこつを降らせた。
――ガン
「うっ」
男はフラッとなる。
嫌いじゃないし好きだよ。
でもね、追いかけられたい女なのである己は。
もっともっと、執拗に迫られたい。
熱く求められたい。
そう思うのは可笑しなことなのかな。
「好き」
間違えて捨てたとかフッたとか思われないように言葉だけは与えといてあげる。
ローの手が抱き締めるように力を加えてくる。
しかし、去ることは止めない。
好きなことをして、好きなように行動するのが自分の専売特許なのだ。
「だからチャンスをあげる」
でも、他の人の魅惑にふらふらするのは許してね。
だって、二人は別れるんだもんね。
「ねえ、欲しい?チャンスを」
一応慈悲として聞いてみる。
欲しくないっていうのなら、もうこれで最後のお別れだけど。
「言われなくても、奪う」
流石はギルドのトップとしているからか意識ははっきりしている。
こんな小娘のげんこつくらいで気を失うわけないから。
そうでなくっちゃ、つまらん。
ギラリと光る獣の瞳に見つめられて背筋がゾクゾクしてしまう。
つい、やっぱり別れないと撤回してしまいそうになる歓喜な気持ちに抗う。
やっぱり男はオラオラ系じゃないと燃えない。
あ、間違えた、萌えない、の方ね。
そして、彼はリーシャへ牙を突き立てた。
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