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前編


この世界には魔法があり、冒険者がある。
冒険者にはソロとクランというものがあり、クランが多い。
やはり多人数の方が仕事もこなしやすい。

「ねェ先輩」

宴により酔っ払いになったクランに入りたての新人がジョッキを片手にフラフラと寄ってくる。
珍しいが別に嬉しくないわけもなく、ウェルカムな心地で見た。
ただ、脳裏に浮かぶのはこの男の見下した視線をたまに受けていたことか。

「先輩何してました」

疑問符をつけられ問われた問いにこちらこそ疑問になる。
今日の討伐についてなにか聞きにきたのだろうか。

「先輩って本当に強いんですか」

強いかと言われれば、武道に関しては弱いだろう。
てか、一般人ですよ強さは。

「今日はなぁんにもやってないのに、なんで居るんです」

飲み過ぎたからかタガが外れたのかも。
そんで、こんなにペラペラと本心を話すのかもしれない。
周りはこの発言に凍ってるのに。
一番、今空気をヤバくしているこの子は棚に上げてこちら詰る。

「ちょ、おま、なにいってんの」

はは、と無理矢理取って付けた笑みで男を確保しようとしたが、止めようとしているのに口は止まらない。

「もう引退したら良いと思いません?」

失言はもう寄ったという範囲を越え、至りで許されぬ。

「確かに一理ある」

その応答に更に空気が凍る。

「あと、バカもクランから出ていくべきだよね」

笑顔という程でもない微笑み。
痛烈に言い返したのだが、果たして明日には覚えているのだろうか。

――パサッ

クランのリーダーのローのところへ行き、辞退する為に一筆書いたものを机に置いた。
本を読んでいたらしい男は、半裸のまま紙を眺めて眉間にシワを寄せる。

「なんだこれは」

低い声で吹き出すそれはとてもではないが、機嫌が良さそうに見えない。

「そろそろ潮時だと」

「はっ。何が潮時だ」

鼻で笑われるが本気なので撤回せぬ。

「これは正式な用紙だから直ぐに回せば受理される」

「ふざけるな。なんの真似だ」

「クランは出入り自由でやめるのも制限はしないって規約があった筈だけど?」

「なんの真似だと、聞いてる」

ガタッと机から立ち上がり鋭い視線でつつかれる。

「痛いのは嫌いだわ」

「おれだって同じ。理由を言え」

「言ったけど」

潮時だってね。
そんな理由があるか、と吐き捨てられるが事実なのでそれ以外に言いようがない。

「このギルドも随分人が増えた」

「……やっぱりそっちか」

リーシャの性格はとてもだらけた質。
人が増えて動くのが少なくなったが、今度は初期メンバーと比較され始めローに憧れた人達が不釣り合いな弱さな己を許せないと目の上のたんこぶに思い始める者も居る。
煩わしい。
とても煩わしいのだ。


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