真っ白い煙に包まれて、太一の姿はおろか、周りが全く見えない。
「こほっ・・・・太一・・・?」
煙が晴れてきてようやく太一の姿が見えた。
そこに居たのは美しい金髪に青い瞳、どことなく太一の面影は残っているものの、
どこか違う雰囲気の美しい青年が立っていた。
「・・・・・・・・・・。」
太一は自分の姿を確かめるように頬やら体やらを触りまくっている。
そういえば急に大きくなったのに何でちゃんと服を着ているのだろう、
子供から大人になったら服は千切れたり破れたりしてしまうだろうに・・・。
無言で自分の体を調べ終わった太一。
今度は私に向かって来た。
隣に立つと自分の身長と、私の身長を比べるようにしている。
「・・・・・・・小さい・・・・小さい・・・。」
呪文のように唱えている太一。
「・・・うわぁー・・・・・メイド長さんって・・・・可愛いかったんだねー!!!」
何を思ったのか、太一は私を可愛い可愛い、と言って撫で始めた。
「ちょ、やめなさいっ!私は別にあんたを撫でたことなんてないわよ!」
「そうだけどさー、可愛いよ!うん普段見上げてるから格好いい人って印象しかなかったけど
いざ見下ろしてみると、すっげぇ、小っちゃくてかわいいね、メイド長さん!」
やはり変わったのは見た目だけで中身は子供の太一のままらしい。
私に向かって可愛いだなんて頭がおかしくなったようなことをうれしそうに言い続ける。
私の頭をぼさぼさにした太一の矛先は、後ろで私をニヤニヤと眺めていた魔法使いたちにむかった。
「魔法使いさんたちも・・・ちょっと・・俺より小さい?」
確かに、今の太一はスタイル抜群で身長が高い、それに・・・足も長い。
(本当に将来有望だったのね・・・・)
有望なんてレベルじゃない、あの顔なら、どんな女性でも微笑み一つでオトせるだろう。
いや、女性どころか性別関係なく、人を魅了してしまうような、そんな魅力だ。
(誰かに似てると思ったら・・・ミハエルと少し似てるんだわ・・・。)
全体的に明るくて社交的な太一とどんなに美しい顔でも人間なんて屑呼ばわりする陰気なミハエルでは
全く違うけど、どこか雰囲気が似ている・・・、子供の時に意識したことは無かったが、今の姿を見て思う。太一の美貌は悪魔のようだ。
「さぁってと!じゃあ復讐開始!まずは魔法使いさんたちからだ!」
にっこりと笑ってジリジリとマイセン達に近づく、していることは悪魔どころか子供のいたずら程度の可愛いものだけど。
「え、何、復讐の対象にオレ達も入ってるの?」
「もちろん!魔法使いのおじさんたちはいつも僕を子供扱いするからねっ!」
ジリジリと近づき、ガシッと二人を抱え込む太一。
「そーれ、なーでなーで。」
満面の笑みで二人の頭を撫でまわす。
(本当に・・・・楽しそうね・・・。)
私が巻き込まれるのはゴメンだが、いけ好かない魔法使いたちが困っている姿を見ることが出来るのはいいことだ。
「おいっ、こらっやーめーろって!髪の毛がボサボサになるだろ!」
「ボサボサもなにも・・・あんた普段から寝癖だかなんだかわからないような髪型してるじゃない。」
「ちょっ・・メイドさん!?ひどくね?ひどくね?」
「マイセンはともかく、僕は綺麗にセットしてるんだから、もう少し手加減してほしいんだけど。」
抗議の声を上げるマイセン達を気にする様子もなく、楽しそうに頭をグリグリ撫でまわす。
「なーでなーで・・・・どうせならハゲろー。」
小さな声だったが私はもちろん、至近距離で撫でまわされていたオランヌ達にも聞こえたらしい。
「コワッ、お前怖いよ!何、俺たちを禿げさせるのが目的だったのか!?」
「ううん、違うけど。魔法使いさんたちを見てたら思ったんだ・・・・ハゲたらいいのに・・・・って!」
爽やかに笑っているけど、言ってることは・・・かなりアレだ。
「おっそろしーこと言うなー・・・でも俺はハゲる心配はないし、
マイセンは分かんないけどね。」
「ちょっ、先生まで何言ってんすか。」
「だってねぇ?」
「ねっ?」
頭を撫でるのをやめた太一と撫でられ終わったオランヌが意味ありげに視線を交わす。
やはりこの二人は仲がいい。
「さー、次は王子様たちだー。」
「王子様たちって・・・・エドワルド様だけじゃなくてジャスティン様まであんたの頭を撫でたことあるの?!」
エドワルドは太一がお気に入りだ、何かとお茶会に呼んだり、休日に遊びに行ったり。
そうして暇さえあれば彼の頭を撫でて癒されている。
(本人はこれ以上ないってくらい、嫌がってるけど)
だがジャスティンはそもそも子供と一緒にいる姿というのが想像できない、
彼はどんなに中身が優しかろうがあの威圧感のある風貌のせいで子供に泣かれてしまったりするらしい。
だからベルがどんなにしたたかな性格をしていようが見た目が子供である以上、あまり近寄ったりする性格ではないはずだけど・・・。
「うん、エドワルドさんと同じくらい、いつも頭を撫でてくるんだよー・・・
やっぱり兄弟なのかなー、何か僕の頭撫でてると癒されるんだってさ。」
本当に、よくわからないところで似ている兄弟だ。
エドワルドは喜ぶだろうが、ジャスティンは微妙な顔をするのが容易に想像できる。
「どっちの王子様から行こうかなー・・・。」
そういって歩き出したベルについていく私。
「あれ、シエラ君も行くの?」
「当たり前でしょ。一応エドワルド様に危害を加えるかもしれないんだから、監視よ。」
その言葉に思いっきり呆れた表情をしたオランヌ。
「えー、でもさあのベルだよ?あのベルがエドワルド様に危害なんか加えるはずないだろ。」
「・・・・・・・・・。」
確かに、私も言葉ではああいっては見たけど、エドワルドに危険が及ぶ心配なんてこれっぽっちもしていない。
そもそも、世界で一番と言ってもいいくらいの立場にいる彼が、今更王子の命を取ったところでメリットなんて物は
なに一つない。
もしかしたらジャスティンを王にしたいがためにエドワルドを殺すなんてこともあるかも知れないが。
かなり低い確率だ。
「先生、違うって、シエラは多分あれだ、大きい太一に一目惚れしたんだよ。」
「あー。なるほど、そういう事か。」
何を訳知り顔で言い出すのか、この魔法使いは。オランヌもオランヌで納得しないでほしい。
「そんなわけないでしょう。万が一にもエドワルド様に危害が及ばいないようにと思っただけよ。」
それに・・・頭を撫でまわされて、少し困ったような顔をするエドワルドというのも見てみたい気がするし。