その3
「あはははははは。」

エドワルドの執務室まで来ると部屋の中から太一の爽やかな笑い声が聞こえた。
間に合わなかったらしい。

(こんなことなら、あの魔法使いのことは無視してくればよかったわ。)

あの二人の会話に付き合ってたから少し遅れてしまった。

「え、ちょっと!?太一・・・だよね!?」

案の定、焦ったようなエドワルドの声も聞こえてきた。

(そりゃあ、執務中にいきなり大人姿の太一が現れて笑顔で自分の頭を撫でてきたら焦りもするわよね。)

私なら焦るどころか驚きすぎて息の根を止めてしまうだろう、もちろん自分のではなく太一の。

そろそろ太一を止めなくては仕事に支障をきたすのもアレだし。

「失礼します。太一、そろそろやめなさい。」

「シエラ!来るのが遅いよ。・・・・・・・・・ねぇ、本当に太一なの?」

心なしやつれた顔のエドワルド、珍しい。

「ええ、そうです。魔法使いに大人の姿になる魔法をかけてもらった正真正銘、太一=小林です。」

「ああ・・彼らが・・・ならそうなんだろうね。で、太一?何で僕の頭を撫でてくるのかな?」

ようやく、いつもの調子に戻ったエドワルド。

「何でって・・・僕も癒されたいから!」

笑顔、さっきからずっと太一は笑顔でエドワルドの頭を撫で続けていた。

「癒され・・・・僕の頭を撫でて癒されるの?」

訝しげに、普段の自分の行いを棚に上げて言うエドワルド。

「もちろん!いつも撫でられてるんで分かんなかったけど、エドワルドさんってかわいいよね!
可愛いものってなんでも癒される!」

王子を可愛いもの扱いなんて侮辱罪ですぐにでも切り殺されてもおかしくないが、彼だから許される。

そもそも、彼がどんな立場の人間でもエドワルドはおろか私も怒ったりはしないだろう。

人の警戒心なんて消してしまう朗らかさを彼は持っている。

「そう。なら・・いいよ。」

案の定、エドワルドも彼の一言を聞いて、文句も言わず髪の毛を乱され続けている。

「あれ、もう抵抗しないの、エドワルドさん。」

「うん、しても疲れるだけだし、髪型も乱れるしね。」

「・・・・・・・・・・」

つまらなそうな顔をした太一は、乱暴に撫でるのをやめて軽く、優しい手つきに変わった。
猫でも撫でるようなしぐさだ。

「ちぇー、すぐになれちゃうんだもん、エドワルドさん大人すぎ。」

「まぁ、これでも僕、王子だし。」

太一の手が気持ちいいのか、連日の激務で疲れていたのか。少し眠そうなエドワルド。

「別にいいけどねー、可愛いし。
・・・・・・・・・・あれ、エドワルドさん、寝ちゃった?」

「んー・・寝てはいない。」

エドワルドはたまに太一にも素を見せることがある。

今がそれのようだ。

見た目は変わっても中身は太一のまま、何となく人の気を抜かせるのがうまい。

「エドワルド様、まだ仕事が残っています。」

釘をさすように言うと、エドワルドより先に太一が撫でていた手をどけた。

やはり彼は、その辺はきちんと見ているらしい、今までも彼はどうでもいいような仕事をしている私やエドワルドの
邪魔をすることはあっても、重要な仕事を邪魔することはなかった。

「忙しいんだね、エドワルドさん。
じゃあお仕事頑張って。」

ニコっと最後に最高の笑顔を残して彼は部屋を出て行った。
次はきっとジャスティンのところにでも行ったのだろう。

「・・・・ねぇシエラ、太一は次にどこに行くのか知ってる?」

エドワルドも太一がいろんな人の頭を撫でているのを聞いたらしい。

「おそらく、ジャスティンさまのところかと・・・。」

「そう。じゃあ追いかけてあげて、どうせいきなり襲いかかって撫でまわすだろうから。
僕はともかく兄上じゃあ、曲者とか言われて切らてしまうだろうし。」

「・・・・・・・・・ああ。」

そういえば、すでに違和感はなくなってしまったが、今の太一は子供ではなく大人の姿なのだ。
エドワルドは何となく気が付いたらしいが。ジャスティンはどうだろう。

(気が付いたとしても、周りに居る使用人たちが黙っていないだろうな・・・主にマーシャルとか。)

流石に彼を殺されてはデメリットばかりでメリットは1つもない。

「分かりました、追いかけます。」

「頼むよ、シエラ。」




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