これは、いいことなのかわからない。
たぶんロビンは、どちらかといわなくとも破滅型だ。
エニエス・ロビーの件がそれを証明している。
今はもうそのときのロビンではないけれど、誰かを想うあまりに破滅的な行動をとってしまうロビンが、完全に消えたとは思えない。
ナミとロビンは、2年を乗り越えた。
互いが不在の2年を乗り越えた。
それでもロビンにはまだ、しこりのように、そんな風にしかひとを愛せないクセが残っている気がする。
ナミは麦わらの一味がいなくなった世界で……ナミがいなくなった世界で、笑顔でいるロビンを想像できない。
それはロビンの愛情の深さを証明することではあるけれど、同時にかなしいことでもある。
もちろんナミがいなくなったことを悼んでもらえないのだってものすごくかなしいけれど、ロビンがナミのいない世界でひとり、くるしいいたいかなしいから抜け出せないでいるのはもっとごめんだ。
時に独善的ですらある、破滅的な愛しかたをするロビン。
ただ、そうでなければロビンでないような気もするから、ことは更に複雑だ。
さとしていいのか、受け入れればいいのか、怒っていいのか……
どうしていいのかわからなくなる。
どうしていいかわからないから、とりあえず。
ナミは枕から顔を離して頬杖をつき、にっと笑った。
「じゃあ、あたしのどこになりたい?」
考えてもわからないから、ナミはロビンを笑わせる。
「なあに、それ?」
返ってくる、やわらかな、笑顔。
ロビンがナミにだけ向けるやさしいまなざしはときに、その穏やかさとは真逆の切迫した愛情をナミの胸にわきたたせた。
それはもう、いとおしくていとしくて、泣きたいぐらい。
「今ならどこでも選び放題!」
そんな切実さをごまかすように、ナミはひときわ明るく言った。
「……じゃあ、蜜柑にしようかしら」
「いや、それあたしじゃないし」
けれどロビンがとぼけた答えを返すから、ふっと肩の力が抜けた。
「でも、あなたが好きなものだわ」
「だけど、そうなるとルフィたちが食べちゃうかもね!」
あなたが好きなものだからと、あまりにてらいなくロビンが言うものだから、かえってナミの方が照れてしまって、反射的にそう減らず口をたたいた。
でもそう口にしたとたん、自分以外の人間がロビンを食べる、という言葉に、みぞおちのあたりから何かむかむかいらいらしたよくないものがこみあげて仕方なくなったから、ロビンの耳元に唇を寄せて、そのままかぷりとかみついた。
音にならない吐息を漏らしてぴくりとふるえたロビンは、反応してしまったことが不服だったのか、ぷいとナミに背中を向けてしまった。
勝手に反応したくせに、と思いながらもそんなロビンがかわいくて、ナミはその背中に抱きつき、左右の肩甲骨の間、背中のくぼみに頬を寄せる。
きゃしゃなロビンの背中に浮き上がる肩甲骨は、つばさの名残のようだ。
夜のくらさ。
ロビンの髪色の漆黒。
浮き上がる白い肌。
揺れるオレンジの光。
ロビンが離れぬようにぎゅぅっと抱きしめながら、背中に顔をうずめて、すん、とにおいをかいだ。
抱きつくたびに鼻をすんすん鳴らしている自分は、何かとても変質的だなとは思うのだけれど、やめられない。
その存在のたしかさ、ちかさに、満たされるから。