「何の花のにおいなんだろ」
「さあ……考えたこともないわ」
ナミはロビンの顔のわきに肘をつき、頭を持ち上げた。
鼻と鼻が触れあうようで、胸と胸とは触れあって押しつぶされている、そんな至近距離でロビンに言う。
「この海に、たったひとつだけの花?」
至近距離を、埋める沈黙。
息さえ詰まる、静寂は深い。
ふ、とどちらからともなく、耐えかねたように笑いだした。
声を抑えて、くすくすとひとしきり笑いあってようやく、ナミは体を離してロビンの隣にうつぶせになる。
あまい。
あますぎる。
まったくもってこんなセリフ、あたしには似合わない。
そう思いながら枕の下に手を入れると、ひやりとした感触が手のひらを包んだ。
ロビンの体温がいつもよりもあたたかだったから、余計にそう感じるのだろう。
「何でひとつになりたい、っていう願望が生まれるんだろうね。あたしたちは別々だから、こうして触れて感じあえるのに」
ロビンはうつぶせたナミにぱふっとシーツをかけた。
じんわりと肌にまといつくあたたかさが心地よい。
「たとえばさ、あたしの考えにはロビンとは違うところがいっぱいあって、ロビンとケンカしちゃうときもあるし、なんでわからないの、とか思うこともある。でも、わかりあえないことがあるからって、完全にひとつになりたいとは思わないなぁ」
「そう?」
「だって目の前にいなかったら、さみしいじゃない?」
「……それは、そうね」
「顔を見れなくてもさみしいし、触れなくてもさみしい」
ナミはそう言って、すりすり、とロビンの腕にすり寄りなでると、そのまま腕をからめて手をつないだ。
「ナミらしいわ」
ロビンはその手のひらを握り返して、ふふ、と笑う。
ナミを見つめるその瞳はいつもどおり、ひどくやさしい。
「ロビンはどう思う?」
「そうね……確かに目の前にあなたがいなくなったらさみしいから、意見が変わったわ」
「ってことはロビンは、あなたとひとつになっちゃいたーい派、だったわけね」
「もう、あなたが言ったのよ」
ロビンが素直にさみしいと言ったことも、正直に『ひとつになりたい派』であることを伝えたことも、どちらもナミには意外で、なんとなく茶化してしまうと、ロビンはため息混じりにそう言った。
まあまあ拗ねないの、と言ってナミが肩に頬擦りすると、ロビンは自嘲するような、あるいは苦笑するような、どちらとも判別がつかない表情を浮かべる。
「どちらかといえば、あなたの一部になってしまいたい派、ね」
「……」
一瞬、ナミはその言葉の意味するところをうまく理解できなくて、ぽかんとしてしまった。
けれどその言葉の意味を理解したとたん、どんな表情をしていいのかわからなくなって、枕に顔を突っ伏した。