「よくさ、あなたとひとつになりたいー、なんてセリフ、あるじゃない?」
隣に横たわるロビンを見下ろしてそう言うと、ロビンはどこかぼんやりとしたけだるげな視線をナミに向けた。
その目が語る。
さんざんひとつにつながるためのいとなみを繰り返しておいて、いまさら何を言うの、と。
「恋愛小説とかで、よくあるでしょ? あなたとひとつになって、とけあってしまいたいのー」
ランプの炎のゆらめきに合わせて、ロビンの瞳の色も肌の色も、ゆらゆら変わる。
つややかな長い黒髪が、てらてらと光を反射する。
夜の闇の中に揺れる朱色の光は、きれいだ。
「ありがちといえば、ありがちね」
小さく笑いながら答えたロビンの声は、少し呆れを含んでいる気がしなくもない。
先ほどまでさんざん自分のしたいようにしたくせに、というかすかな抵抗が、その声には混じっている。
でも、これはいい変化だ。
とてもいい変化。
今までのロビンなら、自分に何か足りないところがあるからナミがひとつになれないことを嘆いているのだと勘違いして、思い悩んでしまったかもしれない。
少なくとも、2年前ならそうだっただろう。
誰からの想いも受け入れられず、信じようとさえしなかったロビンは、今はもういない。
ナミにそんな不満があるはずがないのだと……ロビンが相手だからこそナミは何度でもその存在を求め、そのたびこのうえもないよろこびで満ち足りているのだと、ロビンもたしかに理解しているからこその、この呆れ顔なのだ。
そんなロビンの変化を見つけるたびにナミはうれしくなってしまって、すり寄らずにはいられない。
ナミはあおむけのロビンにおおいかぶさって、夜の中に白く浮き上がる肌、その首筋に顔をうずめた。
胸元までかけていたシーツから出ていたロビンの肌にはまだふたり分の熱が残り、汗がうるおした皮膚からはロビンのハナの匂いの粒子が放散して、ナミの鼻腔に侵入する。
しっとりとしたロビンの肌から漂い浮き立つ香りは、いつもよりずっと濃厚で、芳醇だ。
ナミは頭をぐりぐりとロビンの首筋に押し付けながら、耳の後ろに鼻を寄せると、すーっと大きく息を吸い込んだ。
肺いっぱい……気管からあふれて口内に満ちるぐらいに、自分の中をロビンの香りにひたす。
世界中の花を集めてその香りを濃縮したところで、ナミの胸をゆたかに満たすロビンのにおいには、決してかなわないと思う。
「犬みたいね」
ぽんぽん、とロビンはナミの頭をなでたたいた。
やさしげな手つきだけど、今日はもう終わり、とその手がナミに告げている。
そんなの、わかってる。
わかってるよ、ロビン。
あたしだって、ひとつにつながるいとなみのあとの、ひとつになったゆえに訪れるこの親密で特別な空気は、大好き。