オレンジ色の髪を持つ少女の名前は、ナミ。
オレンジの髪色は生まれつきの色。
その名前があらわす波のように、ナミはたやすくロビンのこころをさらっていった。
会うたびに、こころを持っていかれてしまう。
思えば、はじめからそうだった。
ロビンのかたく閉ざしていたこころの扉を、浜辺に打ち寄せる波のようにノックした、はじまり。
その波音に興味を惹かれて、少しだけ扉を開いたのがそもそもの間違いだったのか。
ナミのまなざしや、言葉や、笑顔が、最初は少し控え目にその隙間から入ってきて、帰り際に扉が開いたスペースをわずかに広くしていった。
打ち寄せて、引いて。
『またね』とナミが言うたびに、『また会いたい』と望むロビンのこころの扉が開け放たれていく。
そうして扉が完全に開いてしまうと、今度は容赦なくロビンのこころを揺すぶりはじめた。
打ち寄せて、戻って。
ナミは帰るときに必ず、ロビンの揺れたこころの一部を引きずるようにして持っていったのだと思う。
そうして生まれたロビンのこころの空白の部分に、ナミ自身の痕跡を残していく。
そのたびに、ロビンのこころの中でナミが占拠している部分が大きくなる。
そんなやり方で、連絡先を交換してからはあっという間に、ナミはロビンの生活の中でもこころの中でも、大きな部分を占めるようになっていた。
そしておそらく、ナミの生活の中でもこころの中でも、ロビンが占める割合は大きくなっている。
ふたりで過ごす時間が多くなっていることが、その証明であるといえるだろう。
それでも、ロビンは決して口にしなかった。
ロビンがナミに、恋をしていると言うことを。
そもそもこんなとき、言葉などいったい何の役に立つのだろう。
どんなに想いが大きくなったところで、言葉は感情に追いつけない。
追いつかないだけならばまだいいが、すれ違っては自分も相手も傷つける。
そうして結局、伝えるということの前に立ちふさがる圧倒的な高さの壁の前に、ロビンはまた立ちすくむことになるのだ。
どんなに言葉を尽くしても伝わらないことは、ロビンのこころをひどく疲弊させた。
どんなに言葉を尽くしても誤解されてしまうことは、ロビンのこころをひどく傷つけた。
どんなにちかしいひとでも……いや、ちかしければちかしいほどに、その無力やすれ違いがかなしみとなってロビンの胸を満たすのだ。
そうして、この胸の中にいっぱいのかなしみが詰まって、あふれて、ロビンは外の世界へ向ける目をつむり、両手で耳を塞いで、口を閉ざしていることを選んだ。
痛みやかなしみがあまりに大きくなって、そうしてこころを凌駕すると、得られるものなどなくてもいいから自分を守りたくなる。
臆病だと、ナミなら言うかもしれない。
何もしないうちから決めつけないでと、怒るかもしれない。
そうして、信じてみてよと笑うかもしれない。
けれど。
この声が届かなくて、言葉が死んでしまうなら。
この想いが届かなくて、こころが死んでしまうなら。
もう何も言いたくなんてないと。
もう何も聞きたくなんてないと。
そう、思ったのだ。