○ 異能と無能と



 朝寝坊で乱れたまま出て行ったベッドはホテルの従業員さんのご活躍によりびしっとメイクされていました。くしゃくしゃクマ柄パジャマまで畳まれています。

 いずれはフブキお姉ちゃんのようにいい女としてのし上がりたい願望をもつ私です、自らの淑女力の低さ、恥ずかしい限りでした。

 フブキお姉ちゃんのピアニストよりすべらかな指先が私の髪の毛を持ち上げて、毛先が落ちるままに手からこぼれました。

 まん丸に日々近づく月明かりを映して透き通るフブキお姉ちゃんの顔を下から見上げていると、この方はどこの国の神話から抜け出してきたのでしょう、などと思ってしまいます。ベッドはふかふか、頭を置かせていただいているフブキお姉ちゃんのお膝はもっと柔らか。天国といえどこれほど安らかな時間は得られないに違いありません。


「フブキお姉ちゃん、タツマキお姉ちゃんから何かご連絡はありませんでしたか?」
「ないわよ。来るなら貴女にでしょう」
「それはどうでしょうか」
「決まっているわよ」


 それはもう、タツマキお姉ちゃんもフブキお姉ちゃんも私のことを蝶よ花よとかわいがってくれました。その慈しみ、ヘレンケラーでも生涯発揮したことがないくらいの愛情です。
 そんな私だから言えるのです、確信をもってして。


「タツマキお姉ちゃんはフブキお姉ちゃんのこと、超、スーパー、ハイパー大好きですよ」


 タツマキお姉ちゃんと同じ色をした私の髪、撫ぜるフブキお姉ちゃんの指が止まります。


「……コガラシちゃんがそういうならばそうかもしれないわね」


 トムとジェリーは仲良く喧嘩するものです。しかし二人がタッグを組むと最強です。
 あれそれだと私の居場所がありません、それは困ります。ではだんごの三姉妹になりましょう。喧嘩して串の間をとってもすぐに仲直り!
 ……歌のようにすぐに仲直り、できればいいんですけれども。


「あやすように言わないで下さいませ。タツマキお姉ちゃんもフブキお姉ちゃんも私の愛すべきお姉ちゃんです。いつかお二人のお役に立てるよう、私は、私は、超能力者になりたいんです!」


 勢い込んで身を起こした私の肩を手のひら一枚でたやすくいさめました。そっと自らの膝へ戻し、


「そのままでいいわ」
「そんなあ!」
「かわいい私の妹。あなたは私が守ってあげる」


 そうではないのですフブキお姉ちゃん。






「女子トイレと理科室、どっちが好きだ」
「むちゃくちゃな二択でいらっしゃいますね」
「ちなみに俺は理科室だ」
「ジェノス先輩が女子トイレを選んでましたら、いかに私でも退部します……」
「よかったなまだ部長でいられるぞ」


 今日も今日とて、異能力及びヒーロー活動愛好会はヒーロー活動します。


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