○ 地獄と戦慄の三者面談


 さてはて。

 いかに私が納得を伝播させたとはいえそこは女学生のコスチュームプレイをした男性2名職業プロヒーロー、このままどこかのファミレスでお話、とはいきません。結局学内へ戻ります。

 さっきまでのときめきが嘘のようでした。どこでなにが飛び出してくるかわかっているお化け屋敷に入っているような気持ちになります。冷めてしまっていました。


 「やっぱり俺は花園の生徒のような気がする」
 不穏なつぶやきを残してサイタマ先輩とジェノス先輩は花園学園の夜に消えてますした。更衣をしにトイレへ行っただけですが。

 それを待つ私たち三姉妹は、学生食堂にいました。
 私の隣にフブキお姉ちゃん、差し向かいのタツマキお姉ちゃん、三者面談のごとき構図です。
 久しぶりに一同に会したというのに、場の空気は最悪です。お姉ちゃん達がとり行う視線のぶつかりに、プラズマ現象が巻き起こされそうでした。バチバチ。


「学校で超常現象を起こりやすいのは」
「思春期の、不安定な心、」
「そう。コガラシ、あんたの能力、仮に感情伝染とでも呼びましょうか。それが、超能力を使いたいという思い、オカルトへの興味を他の生徒に伝染させて、伝染した生徒の作った学内の雰囲気にあんたが影響を受けて、ハウリングをくりかえしてどんどん増幅して、バカみたいなオカルト学校ができて、そこへ調査に入っていったヒーロー協会の奴らがどんどん雰囲気に飲まれて制服まで着て学生気分満喫しちゃって、こんなバカみたいな変態オカルト学校になったのよ」
「……」


 私の超能力への執心が、学校全体、ひいては社会を守るために忙しく戦うヒーローの皆様にも大迷惑をかけていたということでした。
 私の、超能力への憧れ。
 すでに手にしていた能力は、自分の感情を回りに撒き散らす。
 迷惑なばかりでした。



「反省なさい」
「……はい」
「タツマキずいぶん偉そうじゃないの。あなたなんの証拠があってそんなこと言っているの?」
「フブキお姉ちゃん……」
「超能力事件にまともな証拠なんて挙がるわけないでしょ! 大体フブキ、あんたのせいでもあるのよ!」
「なにが……」
「放っておけば学内の雰囲気に酔ったコガラシがちょっとスプーン曲げる位は不思議じゃないのよ! それを上から押さえ込んでいたのはフブキ、あんたよ!!」
「……え?」
「……どういう意味」
「あんたがコガラシに『超能力なんか使えなくていい』って刷り込み続けたせいでこの子は『超能力を使いたい』願望と、『超能力をつかったらフブキがどう思うか』の不安、そんな二律背反に立たされてたんでしょう!」


 フブキお姉ちゃんが髪を翻すほどの勢いで私を見ました。
 ぐっと詰まったのどから、どうにかこうにか絞り出した言い訳は、


「そ、そんなこと……」


 超能力も必要ありません。タツマキお姉ちゃんにたやすくねじりつぶされました。


「コガラシ、嘘をついても隠してもあなたが自分の能力をコントロールできるまでは全く無駄だわ。あなたは自分が超能力者になって、フブキに見捨てられるのを恐れているのが、私にまで伝わってくるわよ。あなたの周りでなにが起ころうとあなたが決して観測できないのはそのせいだわ。人体模型が踊ろうが座敷わらしが出ようがカッパが中庭の噴水でキュウリをかじろうが」


 カッパ。それは初耳です。


「タツマキお姉ちゃんは、いつからそれを?」
「多分初めからだわ。あなたのそれは生まれつきよ、私たちと同じ。とはいっても美しい歌声が出せるノドだとか、二重関節で生まれたから体がとてもしなやかとか、そういう才能のレベルは出てなかったけれど。ただ、」


 一瞬のためらいがありました。


「ひどくなったのはここ……一ヶ月だけど」


 お腹の底が痛くなるような、冷え冷えとした沈黙が落ちました。
 一ヶ月。
 超、姉妹喧嘩。
 お家大爆発。
 お姉ちゃんの頭にも浮かんだことでしょう。
 ふぶきお姉ちゃんの手のひらが、テーブルクロスを打ち付けます。


「そんなことを言ったらタツマキ! あなただって散々コガラシに才能がないから諦めろって言い含めていたじゃない!!」


 そこでようやく、私にも気づくことができました


「飛ぶ才能はないのよ!! また三階から飛び降りされたらどうするの!」


 感情を伝染させるのは、とても特殊な能力です。


「知ってたくせに! 感情伝染の才能を伸ばしてあげようと思わなかったの!? 自分は知っていたくせに! 訓練次第ではすごい能力なのよ、それこそフブキ組で面倒みれるくらい!」


 でも、その能力を持ってしても、


「あんたコガラシ戦わせる気なの!? 最前線で!? 表に出なさいその腐った性根叩き直してやるわ!!」


 私の「みんなで仲良くしたい」気持ちは、お姉ちゃんには届かないのでした。
 さみしい。
 くやしい。
 結局、私がお役に立てないことに、なんらかわりはないのですから。









「ぼっちが過ぎて精神ねじ曲がってるわね! そうやって校舎を爆発させる気なんでしょう家みたいに! 家みたいに!!」
「おーい」
「「なによ!!」」
「仲良いな。コガラシどこだ」
「「そこに……あれ!?」」
「帰っちまったのかな。見せてやろうと思ったのに」
「鬼サイボーグ、あなた手に包んでいるそれってもしかして……」
「ティンカーベルだ」
「……あれ?」
「ん? なんだよ」

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