○ 暗闇に光る

 怪異と戦うのもヒーローの使命。

 サイタマ先輩やジェノス先輩がそんな風に思っているのかどうかはわかりかねますが、近頃は学内の怪奇事件を調査する方向で活動することが多いです。

 聞くところによれば、やはり事が起きているのは旧校舎。設備費をけちっているのか切れた電灯を放置したままの廊下や教室で、人影がぬるりと光っていたという目撃情報が多々寄せられています。

 が、

 私たち異能力及びヒーロー活動愛好会は立ちつくします。
 目前に広がる信じがたい光景に、言葉は失われておりました。

 旧校舎は三階、新校舎からの連絡通路をわたってすぐに視聴覚室があります。電灯は切れ暗室用カーテンに遮光された室内には、ぼんやりと輪郭を光らせる大型テレビや生徒机やロッカーやぬるりと輝く大きな人影が、
 人、


「暗がりに光る、人影」
「これは……」
「いや、決め付けはよくない一応調査はするべきだ」
「ですがこれは」
「……」


 私たちはそっと口をつぐみました。
 人影はひとしきりじっとしたあと、そっと体の動きを変えます。
 直立していた両足の膝を軽く曲げ、腰から上をぐっとひねって大きな胸をゆさりと強調させます。
 ムキムキマッスルポージングです。
 もうおわかりでしょう。


「……クロビカリが制服を脱いでたたずんでいる」
「見事なブーメランパンツでいらっしゃいますね」
「マッスルポージング愛好会?」
「ボディビルディング研究会?」
「趣味じゃねえ?」


 私たちは三人そろって顔を見合わせました。
 先日のゾンビマン先輩に引き続きクロビカリ先輩。ロクでもない予感は半ば確信に変わりつつあります。


「……ジェノス先輩うわさって他になにがありますか」
「旧校舎西階段の座敷わらし」
「童帝先輩」
「深夜の武道場に落ち武者」
「アトミック侍先輩」
「消える調理室のスプーン」
「豚神先輩」
「校舎内に犬の糞」
「番犬マン先輩」
「深夜のティンカーベル」
「失礼な」


 足音一つありませんでした。


「え!? うわ番犬マン先輩!」


 思わずなでたくなるもっふりとした顔が突然会話に割り込んできて、私はあわや転ぶところでしたが、横からサイタマ先輩が「おっと」と腕をつかんでくださいましたのでなんとか事なきを得ました。
 真後ろから私とジェノス先輩の間に鼻先を突っ込んできたのは番犬マン先輩でした。
 正確に申し上げれば番犬マン先輩が制服の下に着込んでいる犬のきぐるみの鼻っつらです。


「番犬マン先輩は妖精じゃないと思われます!」
「うんそうだよ。じゃなくてしてないよ、校舎内で脱糞なんて」


 えぐい言い方をなさる……。


「他のも僕らじゃない。クロビカリはあそこで不振な人影がないか見張っているうちに急に脱ぎだして『はいポーズ』だ。童帝は旧校舎に来るほど暇じゃない。アトミック侍だって自分の道場で十分だからわざわざ偽物の畳が敷いてある武道場なんかに居ないし僕は絶対にうんこなんかしない。絶対しない」
「まじでか。アイドル?」
「ごめんうんこはする。所かまわずはしない」
「ということは……うわさは、真実、怪奇現象だと言うんですか!?」


 私はジャンプ一発「いやったあー!!」と叫び喜びを大いに表してしまいました。おそらくは「そうだよ」と言おうとしたのでありましょう番犬マン先輩の言葉を遮って。
 あまりにはしたなかったのでしょう、ジェノス先輩の黒い白目がびくりと大きく見開かれました。恥ずかしい恥ずかしい。


「この子大丈夫?」
「だめかもしんない」


 サイタマ先輩と番犬マン先輩の目線はいかにも冷ややかでありました。
 しかし私の興奮は納めることが出来ません。
 一年生からたった一人で始めた異能力愛好会! ようやく指先に触れた進展でした。ここに至ってようやく、まともな活動報告書が書けると言うものです。


「解き明かしましょう! 全てが明るみに出て謎が解体されたとき、私の超能力覚醒計画は躍進します!」
「この子大丈夫?」
「だめだ」


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