りんこについて<彼>が知ったことがいくつかある。
小学六年生。
乱暴者。気に入らない奴は誰でも殴る。
よく学校を勝手に抜け出す。どうやらどこかで火を使って遊んでいるようで、服を焦がして帰ってくることが多い。
先生に叱られても絶対に謝らないし、どこへ行っていたのか白状した試しもない。
親も困り切っていてノイローゼ気味だそうだ。
札付きの問題児である。
<彼>には、そんな風には見えなかった。
きっと居るだろうと思った。案の定居た。
放課後で、夏で、夕方だ。汗ばんでティーシャツの襟が張り付くのをパタパタさせながら、<彼>はゆっくり近づいていく。
「りんこって言うのか」
背の高い草をかき分けながら斜面を下り、りんこの下を見てほっと息をついた。今日は履いている。
ちらっとだけ<彼>を見て、ほっぽっていたナップザックをむんずと引き寄せてタオルを取り出す。<彼>に押しつけて立ち上がる。
あれ。
りんこは今日、<彼>と目を合わせてくれた。
だから仲良くしてくれるかと思ったのに。
りんこは、おれを怖がらないと。
違った。
悲しい。
なにも言わずにさっさと歩いていってしまう。
悲しい。
あ、
泣いちゃだめなのに
「う、」
我慢などできやしない。
<彼>はものすごい大声を上げた。
なにか伝えたいことがあるような気がしたが、なにも言葉にならなかった。気持ちだけが膨らんで、声と涙を大きくさせた。しゃがみこむと、膝小僧に涙がぼたぼたぶつかった。
いつだって悲しかった。
どうしてこんなに怖い顔をしているのか。自分ではどうしようもないのに、どうしたらいいのか。
友達が欲しかった。
怖がられたくなかった。
悲しい。
寂しい。
手で顔をこすって、泣きやみたいと思う反面で気持ちが膨らみすぎて自分ではどうしようもないことにも気づいている。さっそくしゃくりがあがって苦しくなってくる。
つむじに、おっかなびっくり手を置かれた。
手を目から外して見上げると、途方に暮れたような顔をしたりんこが<彼>の頭をぎこちなく撫でている。
目からはまだ涙がこぼれていて、のどがひくっと音を立てた。
でも、泣くのは止まりそうだった。
「ごめんね」
申し訳なさそうな声だった。
「タオル、ありがどう」
優しい声だと思った。
りんこはそれからしばらく黙って頭をぽんぽんたたき続けた。
ようやく<彼>は落ち着きかけたのに、
「君は、優しいね」
追い打ちだった。
また泣きそうになった。
さっきとは間逆の涙が、頬をひとすじ分だけ濡らした。