元をたどればA市の向こうからここZ市まで流れてくるらしい。

 長ったらしい川を眺め歩きながら、りんこといえば情緒もへったくれもない。「かいっ」っと叫んでほっぺたを叩く。蚊などとうの昔に逃げていたわけで、無意味に叩かれた頬には赤いぽっちができている。

 りんこの手にぶら下がるスーパーの袋にはそうめんと天ぷらの具となる野菜が入っていて、ブルーファイアの下げた袋にはビールのロング缶の六本セットとアイスクリームとドライアイスが入っている。
 夏である。
 ヒグラシも鳴く。

 ほっぺたをぽりぽり掻くりんこに「跡になるぞ」と忠告するふりをしながら、ブルーファイアは痒がる横顔を盗み見る。

「んー」

 わかったのかわかっていないのか。
 掻くのをやめないりんこの顔立ちは、十三年経っても色濃い面影がある。小学六年生にして怪人三年生で、怪人の出現を知っては人を助けるために学校を抜け出して保護者を呼ばれていた、急いで馬に変身するためにスカートでもズボンでも無差別に破いてしまっては親に心配されしまいには怒られていた、論理爆弾の扱いがへたくそでランドセルも燃やしてしまったちっぽけな小学六年生の、大人びた横顔を思い出す。
 あの大人びが覚悟と諦観だと、あの頃はわからなかった。
 それは、今もりんこを形作るものの一つだ。
 しかし今、隣で顔をひっかき続けているりんこの方がよっぽどのびのびと子どもっぽい表情をしていた。
 手をつなぐどころの騒ぎじゃない。ものすごく抱きしめたくなった。

 目を凝らせばどこかに見える気がする。やたらと目つきの悪い小学一年生が、またぞろ誰かを救うために下半身すっぽんぽんになってしまった小学六年生のため、彼女の体操服入れを抱え走って草むらを分け入っていく姿が。

 夏から春までの、本当に短い思い出だ。
 あのあと、
 りんこは、

「あ、メール来た。再来週ご飯食べにいこうって」
「歩きスマホやめろ。あの、例の友達とか?」
「うん」
「気をつけてな」

 ベテラン怪人が今更何に気をつけるというのか。
 顔を上げたりんこは、ただの一回だって誘拐なんかされたことなんてないように、溌剌と、「ブルーファイアもね」と笑った。




□ 悪事ノーパンで



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