紅地に同色の花、白の縁取りは立体感のある刺繍の施し。白地に流水、枝垂れた桜。
スチール什器にぶら下げられた大量の浴衣の中、まぬけな笑顔が振り返る。
「ソニックちゃんこれどうかな?」
「……」
自信ありげに差し出すのはまたしても青の布地で、
「却下」
「!?」
目を白黒させて、顔面になんで! と書いている。が、駄目なものは駄目だ。
「お前に青は似合わん」
「!?」
「そんな顔をしても駄目だ」
「……好きなんだけどなー青色」
名残惜しげにラックへ戻しながら、それでも振り返る頃には無念を前面に押し出した顔つきをどうにかこうにか笑顔に変えて、
「でも、ソニックちゃんが言うならそうだよね。私よりセンスいいもの」
「……」
女装の、である。
自分が男だと主張しようとして、やめた。酒でも入れなきゃ言えたことじゃない。
でかでかのぼりが立つ浴衣フェアの一角でソニックはでっかいため息を飲み込んだ。店員まで販促に浴衣を着て、どこもかしこも女物の色鮮やかな浴衣が並ぶ。
目下商品選に夢中な背中を追いかける。
なにに思いを馳せているのか、まず浴衣に向けてではない微笑を浮かべるその横顔に途方もない量の感情が胸に溢れた。
苛立っているのか。
愛おしいと思っているのか。
自分でもよくわからない。むずがゆくて息がしづらいのは確かだ。
「これがいい」
早く終わらせたい一身で目に付いた一本を引き抜いたがこれが存外、なかなか似合う。
肩口に襟袖を押し付けながら見下ろす。今度は確信を持って言った。
「これにしろ」
「これにする」
あっさり決めた。決まれば早い、さっさとレジへ持っていく。 鏡もロクに見ちゃいないくせに。信用しすぎだ。
「ソニックちゃんー……一円足りなかった。貸してくれない?」
「奇跡的だな」
財布の中身を総ざらいして足りなかったという一円玉をコイントレーに置きながら、ソニックは花でも咲かせたようなアホ面掲げた顔を見やる。
この無防備きわまるしまりのない顔で、
俺の選んだ浴衣を着て、
俺が一円出した浴衣を着て、
誰とどこへ行くつもりなのか。
「いった! え! デコピン!?」
「一円分」
「なにが!?」
「貸し借りなしだ」
「やだよ返すよ! あれ、それだとデコピンされ損じゃん。え」
「そもそもお前着付けできるのか?」
「えー多分……できない、けど。がんばる」
「……(なんで買った)仕方ない奴だな。必要な時は呼べ」
「わ、ありがとう! ネットで調べようかと思ったんだけど自信なかったんだよね。そうだ、ねえソニックちゃん一緒にお祭り行かない?」
「!?」
「そんな顔しなくても」
「だってお前、一緒に行く男がいるだろう。同棲してるような……!」
「お隣さん! でも、あー……ううん、やっぱり、うん。あの人誘いたかったけど、そういう日は仕事入っちゃうから」
「……俺を代わり扱いするのか」
「違うよ! ソニックちゃんの浴衣姿見たいし、一緒にお祭り回ると楽しいし、絶対にはぐれないように手もつないでくれるのなんかソニックちゃんくらいだし、それに……ソニックちゃんどうしたの?」
「なんでもない。つ、付き合ってやる」
「ありがとう」
「、手も、今、つなぐか」
「うん」