「や――――だあああ――――――!!」

 困り果てるりんこの足に子どもがべったり張り付いている。
 もちろん先ほどの迷子男児だ。もう迷子ではないが。

「申し訳ありません息子が……」
「ほらっ、お兄さんとお姉さんにありがとうしろ。レストラン行くんだろ」
「い――――――やああ――――――――――っ!」

 平謝りのお母さんとなだめてすかして叱りつけているお父さんが息せききって迎えにきた瞬間は、それはたいそうかわいい喜色満面で飛びついていったくせに。今はこれだ。

「お姉ちゃああん!!」
「うん、またね」
「絶対だよ! 絶対だからね!?」

 訴えかけが切実過ぎてりんこは「もちろん」とも言えなかった。申し訳ない気持ちでちょっと汗っぽい頭を撫でてやる。
 ようやっと一段落つく気配が見えた。男児の両親がブルーファイアを見て、わずかにひるみながらも、

「息子が大変お世話になりました」
「いえ」
「じゃあ、次会ったらケッコンしようね!?」

 子どものいうことである。かわいいものじゃないか。
 自分だってかつて同じ台詞を使用した身なのだ。
 あらゆる事情をそっと内包して、ブルーファイアの顔面が歪む。
 眉間にしわ寄りまくり青筋立ちまくりだ。男児の両親がそれはもうマジビビりどん引きする。
「それは無理」と容赦ない返事で男児を再度涙目に追い込んだりんこに、センター受付のおばさんが、

「あの、あれもほほえましがっていらっしゃられるんですか?」
「あれは……怒っています」
「お、怒って?」
「大分キてます」
「どこへ!?」
「頭に」
「――ひいいっ!!」





 一級河川に続く下りの坂、夏の日差しに繁栄をきわめる雑草の背高のっぽに女の子が隠れている。
 「六年一組 りんこ」と太マジックでかかれた給食袋、ランドセルは赤、背負う腕は二本のくせに足は四本で四つのひづめを持っていた。
 泣いている。
 そのとなり、黄色い帽子をかぶったブルーファイアが腰を下ろしている。黙って座っているだけでだけで頭が爆散しそうだったというのに、手を握るのにはどれほど勇気が必要だったか。
 まっすぐに前を見据えた視界はどこまでも緑の一色で、顔を見る余裕なんかもちろん当然なかった。

「けっ、」

 どもる。
 建て直しには勢いが必要だった。叫んだ。

「結婚してやるから元気出せ!!」





 りんこの足取りが軽い。終着目標がありそうな迷いないペースだ。冷やかし目的のウィンドウショッピングにそんなものはないので、どこへ向かっているのかは本人にもわかっていないはずなのだが。
 すごい顔をしたブルーファイアが隣を行く。
 はぐれそうだから、を口実に手をつなごうと計画している。余念のないシミュレーションを終えた。

 いざ。
 手を伸ばした。
 ひっこめた。
 また伸ばしてひっこめた。

 諦めるか一発ばしんと握るかどちらかにすればいいのに。
 ブルーファイアの隣ではなにも知らないりんこが鼻歌を歌っている。困ってしまった犬のおまわりさんがわんわん鳴く。

 蚊の大群により篭城せざるをえないショッピングモールは、苦悶の表情で変な素振りをするブルーファイアのせいで恐怖のどん底にある。


□ 川原無いもの 蚊悪者



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