砲弾よろしく飛んでくる春キャベツを竹の棒ではじき落とした。シイタケは目に当たる感覚器官でもだめにしたのか手当たり次第、否エノキ当たり次第に近場の野菜を投げつけて来る。

 スティンガーは棒当たり次第で飛来する野菜を打ち落とす。気分はヒステリー女との喧嘩だが、相手はなんたって人食ったシイタケで男食う女とはちょっと意味合いが違う凶悪さなわけで。いかにも弱っているとはいえ、丸腰一歩手前の武器で間合いに寄って行くほど脳は軽くない。輝かしい白刃一本エノキは鋭利すぎる。


「おいりんこなんとかできないのか!」
「な、なんとかって?」
「わかんねえけど! こう、武器とか出せねえの!?」
「猫型ロボットとは違うんですけど!」


 どうすりゃいいんだっくそ!!
 エノキがパック詰めの野菜をごっそりかき集める。やり方が雑すぎて商品棚からぼっとぼと落ちた。春野菜たちもシイタケとエノキにお釈迦にされるとは思ってはなくてびっくりしていることだろう。収穫された野菜に思考力があればの話だけれど。

 グリンピースマシンガンをはじき損ねて顔面にまともにあびて口に入った。

「ぶぉえっ、」

 青臭!
 くっそまっず!!

 一瞬えづきかけてこらえる。食らった豆をツバ混じりに吐き出して、


「野郎! 許さねえぞまじで!」


 啖呵を切りつつ投擲される山芋をまっぷたつに叩き折ってやりながら、いまだ攻略の糸口がつかめない。
 あっちには切れ味健在のエノキ、まん丸ボディには人質が入っているはずで、対するこっちには――棒が一本あったとさ、でおしまいだ。かわいいコックさんには線が足りなすぎる。


「スティンガーさん」
「おう!?」
「グリンピース苦手ですか」


 さすがにずっこけこそしなかったが。


「今そんな話してる場合か!?」
「場合です。スティンガーさん苦手な食べ物よけます?」
「くそー一瞬でも協会の人間なんか信用した俺が馬鹿だった! よけるよ!」
「シイタケ、シイタケの周り見てみてください!」


 はなっから目を離してなんかいない。
 桃とイチゴが踏みつぶされて、荒らされ放題になった通路。もはや商品なんて残されちゃいない陳列棚があり――ん?
 一種類だけ、手つかずで残っている、


「タケノコ!」
「タケノコ!?」
「やっぱキノコの敵といえばタケノコなんですね!」
「んなあほな!!」


 あほでもバカでもかまいやしない。


「くそっ、しょうがねえ!!」


 スティンガーが走る。廃棄確定の野菜を踏んですべってぶっこけたりしないように避ける足の動きは不規則で、視力不足でエノキはついて来られない。
 真正面からシイタケの下へ猛槍を滑り込ませた。短くカットされた槍を3階でやったときと同じように深く突っ込ませるためには、スティンガー自身が敵の懐へ深く突っ込むほかなかった。

 槍の持ち手を思い切り踏みつけテコの原理でシイタケ転ばせるのと、がら空きの背中にエノキが叩き下ろされたのはほとんど同時だった。最初のブローよろしくの打撃の重い衝撃へ備えていた背中を、ずっぱり刃が滑り込む熱さが襲った。

 ぶち込んだ猛槍のアッパーがもうすこし遅ければ切り裂かれたのは背中の皮ではなく命そのものだったかもしれない。
 シイタケがまた鞠のように跳ね飛んだ。エノキも一緒に。
 再度亀になったシイタケは、早く起きあがろうとエノキを地面に着いた。残りたった一本のエノキを。

 そして本当にシイタケの最後のツキがここで果てる。


「食らいやがれ!」


 気合いと根性とあと一歩に迫った勝利の確信で背中の痛みを丸無視して、スティンガーは編みかごにたっぷり盛りつけられたタケノコを持ち上げた。
 逆さまになったシイタケは見れば見るほどやっぱりシイタケで、口なんかイシヅキをもいだ跡にしか見えない。
 その穴へ、生で、もちろんあく抜きもしていなくて、おそらく苦手なのだろうタケノコをめいっぱいにたたき込む。

 シイタケがゲロを吐いた。

 最初に突っ込んだばかりのタケノコが、その直後ずるんと吐き出されたのはもっふもふの胞子を全身に浴びて失神する成人男性で、


「お父さん!!」


 穴の上から泣き声が降りてくる。

 人質を奪い返したスティンガーに遠慮するべきことなどもちろん何もなかった。


「おいりんこ、パンダってタケノコ食うか!?」
「えっ? わかりませんよその話今じゃなきゃだめですか!?」
「オーケー!!」


 わかりません程度の認知度なら問題ない。


「んじゃいくぜキノコ! これが、俺の新しい相棒!」

 槍芯は猛槍を、その先端部にねじ込まれているのは床から拾った、

「愛槍『タケノコ』だ!!」

 ものすごく体を表した名の槍を真上から振り下ろした。
 撃ち出されたエノキが下から滑り上がる勢いでスティンガーを狙う。突き出すタケノコに最後の力を振り絞って、スティンガーはついにエノキを縦裂きに斬り伏せる。
 A級12位スティンガーは勢いそのまま落下する。新たな刃を敵へ向けたまま、まっすぐに。


「新! 必! 殺ッ! ギガンティックドリルスティンガー!!」


 大岩をも砕く採掘ドリルのごときタケノコが、驚愕一色に染まったシイタケを襲う。

 シイタケが弾けた。

 その肉片は、防災シャッターに噛んでいたプロモーション什器まで降り注いだ。



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