一人仲間外れにされたしいたけが、恨みがましい顔でこっちを見てる。キノコに表情はないけど。目もないけど。
 スティンガーが温度の境界を抜けた。


「なありんこさ、あいつの口ってやっぱ下にある?」
「口かどうかはわかりませんが人を食ったのは裏っかわでみたいですよ。……ん? ちょっと待ってなにか考えていますか?」
「まーな!」


 逃がしちゃいけないし狙い目のでっかい本体は刺しちゃダメ。結構早いし力も強い。
 ――俺くらいの実力がなきゃあダメな相手だよな。
 ゆるくつかんでいた槍身を掴みなおして、手首で巻き上げるようにびゅんと回した。肘に沿わせて止めて、腰を低く構える。


「来やがれバイキン野郎!」


 シイタケに悪口がわかる甲斐性があるとは思えない。
 しかしそのときスティンガーにまっすぐ突っ込んできたシイタケは、どうみたってバイキン野郎呼ばわりに怒っているように見えた。
 はじき出された直後のコマじみた猛回転、足首を削ぎに狙ってきたとおぼしきエノキウィップを跳躍一発交わして、


「ケツがら空きだぜえっ!!」


 沈めた膝で力を練り出す、猛槍の逆袈裟払い。
 背後から臀部に槍を差し込まれて強烈な叩き上げを食らった。

 シイタケがきりもみしながらぶっ飛ぶ。

 ばっふんぼふんとバウンドして、半球は逆立で止まった。パニくって触手をじたばたさせている。
 うにょる一本を狙った。
 中空、描く放物線を下降に入らせてスティンガーが猛槍を構えた。

 そこだ!

 狙った突きの一撃が根元の中央に突き込んだ。一本もげたえのきが床を転がる。


「うおっしゃー!!」
「やったナイススティンガーさん!」
「もいっちょおおう!?」


 ひっくり返せば亀になるだろうという予想を裏切って、傘の背をどう動かせばそうなるのか全く分からないが、シイタケはボウンと跳ね起きる。

 まじギレ。

 三本のエノキを地団駄踏む勢いでびゅわんびゅわんと回している。
 三つの軌跡が直線を描いてスティンガーを狙う。

 最初に飛び込んできた一本が、


「へっ! りんこの言う通りだ!」


 猛槍の餌食になった。
 鋭い槍頭にぶったぎられて、勢いそのまま商品陳列棚の下に滑ってもぐる。


「俺ならっ」


 何もかも信じられないという動揺が触手を鈍らせた。キョドった速度の残り2本を叩き切るつもりで横薙ぎにふるった愛槍は、惜しくも空を切る。

 そんな迷いだらけの触手で誰を殺る気だ!

「大丈夫だ!!」

 次で2本いってやるぜ!

「テメエの相手を誰だと思っていやがる! 覚えておけよっ、今をときめくスーパーヒーロースティンガーだっ!!」


 及び腰のシイタケに一気に踏み込む。スチール棚をけっ飛ばして槍をふるうスペースを作って残り一気に、


「危ない!!」


 その声がなかったらまっぷたつになっていたのはスティンガーのほうだったかもしれない。

「へ」

 縦振りの一線だった。

 顔面もすれっすれの所を通っていった、今までと力の違う一本はもはや白い光にしか見えない。

 槍頭の輝く刃が床に刺さる。
 薙ぐつもりで横一線に構えていた猛槍が身代わりに逝った。


「うわ」
「スッ、スティンガーさん逃げて逃げてっ!!」


 言われずもそうした。
 半端な長さの竹竿と化した愛槍を利き手に、猛ダッシュで家電売場へまろび戻った。ぶわっと吹き出した汗の原因は熱さだけではなさそうだ。


「なんだよ二本を一つにまとめてパワーアップって! 聞いてねえ!」


 そりゃそうだ。

 シイタケは口を利かない。



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