「スティンガーさん応答は願いません。とりあえず今はそこからまっすぐに家電売場へ向かってください。まっすぐです」
警備会社とショッピングモールないの安全カメラからカツアゲしてるのはシイタケの出現から現在に至るまでの録画データだった。
しょぼっちいナリのオペレーティングシステムの左端席、りんこは空中積層表示された映像を5倍速で一気飲みにしながら、街頭防犯カメラや町のコンビニ、とりあえず思い当たる片っ端からデータを吸い上げている。
論理爆弾をあらゆるルーターで、プロバイダで、電話局で回線網でどっかんどっかん爆発させて最短距離を最速突破しながらりんこは目的のブツを総取りして回る。
ゲートウェイのロックに対ウィルス防護壁などものの数でもない。
空中で膨れ上がるシイタケの映像にざっと目を通した。指先の動き一つで最小圧縮してゴミ箱へ。
「あの」
話しかけて良いものか迷う。案の定りんこからの応答はなくて、代わりにとなりの大仏がキーボードを叩きながら、
「うん、合法じゃないから秘密ね」
全部読んだ答えをくれた。
じゃなくて!
「いいんですか仮にもヒーロー協会がクラッキングなんか!! ていうか、にっ、人間業じゃないですよね! なんでこんなすごい事できる人が第二室なんかで!?」
ヘッドマウントの顔面覆うガラスにマシン言語の0と1の世界が滝のように流れていく。読み流しに到底耐えないはずなのに、りんこの表情には鼻歌口ずさみそうな余裕があった。
大仏がりんこの通信を追いかける。
まだ暴走経路の半分も追いついていないが、その手はりんこが力業で貫いていったデータ群を設計仕様書も見ず修正していた。入念なアンチウィルスはごまかせないだろうが、一見すればいつもと同じ顔をしたセキュリティロック。
やっぱりキーを叩きながら、
「ダメだけどさ。今日は止める人いないしな」
続きを受け取ったのは正面のでっかいディスプレイに髭面を向けていたダンディで、
「さっきの教育担当がなんと言ったかは概ね想像がつくが、それは間違いだ」
「じゃあ……」
「我々がZ市支部のブレインだ、だの第1より第2の方が精鋭を集めてる、だのと言うつもりはないが。ヒーローのサポートならこちらの領分だ」
言う間にりんこがまたどこかから何かを盗んでいる。でかいファイルなのか、じわじわ上がる読み込み率は40%との表示だ。
平行作業。
ショッピングモール内のPCを総ざらいして、持ち込みUSB経由でりんこのバラ撒いておいた遠隔操作ウィルスに感染している三台を見つける。ばかめばかめ。
その三台のキーボードのログをたどって暗証番号を手に入れた。といわけで、モール内共通パスワードはすでにりんこが手に入れているわけである。
というわけで。
同じようにキーログを辿るやり方で一秒後にはすっかり管理者になりすましたりんこは機械操作の配電制御システムにお邪魔した。
100%
かっぱらってきたブツは電線配列地図で、横目でちらちら確認しながらシステム構築、
「ナイスですスティンガーさん家電の所ですね! シイタケの現在位置……よし、じゃあいきます、ちょっと暑くなりますよ!」