ブルームーン |
仕事帰りに立ち寄るバーで、いつもカウンターで一人、カクテルを一杯だけ飲んで帰る女性がいる。 会話を交わしたことも無いのに気になる存在。 その日はたまたま隣に座ることができた。 いつものようにビールを頼む。 待つ間の数分間、ちらりと隣の彼女のグラスを見る。 逆三角形のショートグラスに薄紫色のカクテル。 思わず聞いてしまう。 「これ、何てカクテルですか?」 少し驚いた顔の彼女。 「ブルームーン」 そう言って一気に飲み干すと、会計を済ませ出て行ってしまった。 「僕、何か悪いこと言いましたかね?」 ビールを置く店員に聞く。 「いいえ、いつものことです」 答える店員の背後に見える窓から綺麗な満月が浮かんでいた。 前頁│次頁 |