>> 6.あなたを待って、過ごす夜



“まだまだ、帰れそうにない”

そんなメールを受信したのは、午後11時。
つまり、今夜も日付が変わってからでないと
帰宅できない。ということになるのだろう。

翔さんはその性格上、“待ってて”なんて絶対に言ってこないし、
以前無理して起きていたら「気持ちだけで充分だから」とたしなめられた。

だからきっと、このメールの続きは

“先に寝ていいよ”

になるのだろう。

寂しいけれど、同じ空間を共有できているだけでも
私は恵まれているのかもしれない。

ほんの数分でも、顔を合わせることができるのは。
翔さんから、この部屋の合鍵をもらっているおかげ。

彼が違う曜日で出演している報道番組を消して、
広いベッドの中に潜り込む。


“毎日お疲れ様。先に休んでるね”


ハートマークひとつ付いていないシンプルなメールを送信して。
ゆっくりと目を閉じる。

そうして、あまり考えごとをするヒマもなく
深い眠りへと落ちていった。




何か、夢を見ていたような気もするけれど…
目を開けた瞬間、記憶が飛んで。

上半身を起こしてふと横を見る。

隣に翔さんが居ないということが表しているのは、
まだ、寝てから2〜3時間しか経っていないということ。

事実、目を向けたベッドサイドの電波時計は
午前2時を過ぎたところだった。

遅くまで仕事をしている、という
レベルではないような気がするけれど…
翔さんにとっては、日付を超えてから
帰宅することが、特別でも何でもないことに

少しだけ、不安を覚える。

キッチンでミネラルウォーターを飲んで、
ベッドには戻らずソファーに腰掛ける。

目が覚めてしまったのだから、
ついでに、帰宅を待ってみるのも悪くない。

顔を合わせられるのなら、
ほんの数分でも構わないという気持ちは本当だけど。
切なさを完全に拭い切れてる訳ではない。

翔さんは、私が部屋に来ることに対して
素直に喜んでいてくれるけれど…
泊まりに来ているのに、「おやすみなさい」も
直接言うことができないなんて。

やっぱり。

寂しいよ。

再びキッチンに戻り、小さな鍋でお湯を沸かす。
ホットワイン用の取っ手付きグラスに
お湯を先に入れてから焼酎を静かに注ぎ込んだ。

“お湯割”ってお湯を後から足すものだと思っていたけど
実は先にお湯を入れた方がいいんだと、教えてくれたのは、

翔さんだ。

芋焼酎には、まだ合わせられないけれど、
梅干を入れた麦焼酎は、最近のお気に入りで。
真夜中ということもあって、おつまみは無しにする。

「はぁー。あったまる…」

お湯が入っているのと、アルコールの成分で、
飲んだ直後から身体はポカポカになる。
ひとりで晩酌するのはつまらないと思っていたけど

帰ってくる人を、待って過ごす夜は…

嫌いじゃない。

そして。
グラスをテーブルに置いた瞬間。

私の耳に届くのは、
玄関の鍵の開く音。


今夜は、

彼が、リビングの扉を開けた瞬間、言ってあげよう。


“おかえりなさい”と。






-END-
翔さん出てこなくってごめんなさい〜。深夜帰宅時の“おかえり”は嬉しいものだと思います。
2012.04.27


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