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もし、2020年の私に会えたとして
“早く別れちゃいなさいよ”なんて言われちゃったら……

どうしよう?

「私は、会いたくないな」

「えっ」

「例えばの話だとしても、会いたくない」

「なんで?未来の自分が見たくないってこと?」

翔さんの顔は見えなくても。
口振りでその大きな瞳をより一層見開いているところが想像できる。

「だって未来の私が『翔さんと別れろ』って言いだしちゃったら困るもん」

「ふはは!俺も困るなぁーそれは。つかさ、なんでそんなネガティブなんだよ!」

「だって……」

2020年に私と翔さんがどんな関係性でいるのかなんて。
はっきり言って、知りたくない。


――ううん、


知りたくないんじゃない。
きっと、知ることが、怖いんだ。

「怖い?」

「……えっ」

まるで心の中を読まれたと言わんばかりのストレートな言葉に
誤魔化すことを忘れて黙り込んでしまう。

「まぁ……俺もね?正直言うと怖いよ」

「翔さんも……?」

「うん。だってさ、7年経っても由衣ちゃんがまだ“彼女”だったら情けねーじゃん?」

「あ……」

確かに。
翔さんであれば案外現実になりそうなことだけれど、
一般人なら、それはありえない。

「そりゃ、アイドル論云々ってあるかもしんねぇけど」

「……うん」

「まずは人間としてさ?ひとりの男としてそれってどうなんだよって……思わねぇ?」

「そう…………だけど」

今現在、不惑を超えても。
まだ独身の先輩が……身近にいると思うんだけど。

「俺……さ?由衣ちゃんと付き合うことになった時、友達と今みたいな話したんだ」

「どんな、話?」

「今ここに、未来の俺がやってきて『由衣ちゃんとは別れろ』って忠告しに来ても、絶対別れるつもりはねぇよって」

「そ……なの?」

今初めて聞かされる話に、鼓動が高鳴ってくる。

「たとえ未来が分かっていても、俺は今の気持ちに正直に生きることを選ぶ。ってね?」

「うん……」

それはきっと、
私も同じだ。

「もしもそうなら、俺は未来の自分を消しちゃってもいいから軌道修正する」

「ふふっ」

そういう心意気は、なんだか翔さんらしい。

「運命は変えられるものらしいからな?」

「あ。それ、聞いたことある」

数年前に流行っていたTV番組で、スピリチュアルカウンセラーがそんなことを言っていたっけ。

「そう思えたら、怖さも和らいだりしねぇ?」

「……そ、だね」

私には。
未来への軌道修正できるほどの力は無いと……思う、けど。

「今夜。そっち行くよ」

「あ、私残業になるかも……」

「うん。俺も多分遅いから、少しだけ」

「分かった」

土日はどうしても帰宅が遅くなるから、
翔さんのところに行けない日が多い。
だから、本当はダメなのだろうけど……そういう時は翔さんがうちに来てくれる。

「祝!東京五輪!てことで」

「えっ?お祝いするの?」

翔さんの会いたい理由に、少し驚く。

「うん。今日を忘れないためにね」

「あー、そっか」

7年後。
東京オリンピックを迎えた時、

翔さんに電話で起こされて
ささやかにふたりでお祝いしたこと。

――私も、どんな風に思い出すのかな。

「7年後。楽しみだね」

「あぁ。あのオリンピックが東京で開催されるなんて、ホントに夢みたいだよ」

「ふふ、そうじゃなくて」

「……ん?」

オリンピックはもちろん楽しみだけど。

「どんな風に、今日を思い出すのか」

「そ……だな」

願わくば。
開会式の早朝、まだ陽も昇らない暗い時間に

行ってらっしゃいのキスを玄関で交わした後、
テレビ画面に映る翔さんの勇姿を……
見ることができますように。


ねぇ、2020年の私さん?


貴女から見た、今の私は。
「そのままでいいよ」と、言ってあげられる存在ですか?

そして。

2020年の私にとって。
一番大切な人は。



――誰、ですか?





-END-
東京五輪が決まった瞬間、彼が起きていたかどうかは分かりませんが……由衣ちゃんはね、間違いなく寝てたと思いますw

今回、珍しく長編とリンクしました。翔さんと友人(=マコト)の会話は、vol.6の288話にあります。

2013.09.12


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