>> 2.桜、舞う



びゅう、と強い風が吹いて。
満開の桜の木から、雪のように花びらが舞う。

花吹雪って、

こういう景色のことを言うのだろう。

頭の上も。
土手の遊歩道の上も。
そして地面と桜の木の間の空間も。

すべてが桜に覆われて。
淡いピンク色に、世界が染まる。

「いっぱい付いてるよ」

翔さんが、そっと私の髪や肩に触れて。

「ほら」

優しく笑いながら、花びらを見せてくれる。

「ありがとう。でもほら、」

「んっ?」

翔さんの前髪にくっついた、
1枚の花びらを手を伸ばして取って。

「ね?」

私にだけ、付いてるんじゃないよ?

「ん、サンキュ。なぁ、ハンカチ持ってる?」

「え?あるよ?」

差し出したハンカチを私の手のひらに乗せたまま
折り目をひとつだけ開いた翔さんは、
手にしていた一枚の花びらを形が崩れないように丁寧に乗せた。

「はい。お土産」

「え?」

こんなものが?
とは思わないけれど。

今日の翔さんは、いつになくロマンチストだ。

「じゃあ。しおりにでもしてみる?」

「お、いいね!でもそれならもっと集めて花の形にした方がいいんじゃね?」

「え?あ、うん」

妙に乗り気になっている翔さんに、ちょっと笑って。
はらはらと舞い散る花びらが、
髪や肩に落ちるたびに。

優しく、優しく拾い集める。

「結構集まったな」

「うん」

満足そうに笑顔を向ける翔さんに、私も笑顔を返しながら
花びらたちを包んだハンカチを鞄のポケットに納めた。

「この花びらってさぁ」

「ん?」

「何枚あるとか、数える人いるのかな?」

「えっ?」

「いや、だって10枚そこらでこれだけなら、手のひらいっぱいで100枚はあるだろ?」

「うーん」

「そしたら、桜の木一本で、花は大体何個…ん?単位“個”があってるかは分かんねーけど、」

「うん、」

「花とか花びらとか、数える人いねぇのかなって?」

「はぁ。…なんで?」

翔さんの言わんとしていることが
今ひとつ、理解できずにそんな質問を投げかける。

「いや、大体の目安が知りたいなーと思って」

「そう?」

「うん。さっきの花びらがさ、何百万のうちのひとつだとすると」

「…ん?」

「俺たちの出会いみてぇだなって」

「……あ、」

また、強い風が通り過ぎて。
舞い踊るように宙に浮かぶ花びらを
翔さんは空中で手の中に納める。

「ほら。これが由衣ちゃん」

「…私?」

「さっきの瞬間に俺がつかまえなかったら、この花びらは今、ここにはいない」

だからこの花びらは由衣ちゃんと、
呟くような小さな声で、翔さんが私に微笑みかける。

「うん」

周りに人がいないとは言え、
外だから抱きついたりはしないけど

幸せな気持ちでいっぱいになる。

「じゃあ、ちゃんとつかまえててね?」

努めて明るい声を上げると、
翔さんは私の肩にそっと手を乗せて。
顔を耳元に近づけて囁いた。

「当たり前だろ?」

そうして何事もなかったように
早足でスタスタと先を行ってしまうから。

「あ、待って!」

びゅう、とまた強く吹いた風と
舞い落ちる桜を連れて。


その背中を追いかけた。





-END-
本編は展開がゆっくりなので…季節物は短編でお届けできたらと思っています。

2012.04.16




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