>> 24.君と見る夢は



玄関の鍵がゆっくり開く音がして。
静かな足音とともに彼がリビングに入ってくる。

「翔さん、お疲れ様」

「あ。由衣ちゃん…起きてたの?」

「うん。翔さん、明けましておめでとうございます」

「あっ、おめでとう。…ございます」

翔さんは照れたように笑って。
正面から優しく私を抱きしめて、そっと口付けを落としてくれる。

「…今年の、初キス」

「そう、だね」

改めてそういうことを言われると照れてしまうけど、
何だかくすぐったくて、嬉しい。

「旧年中は、大変お世話になりました」

「ふふっ、硬いよ?翔さん」

「本年も…ご心配とご迷惑を多々かけることとなりますが、引き続きよろしくお願い致します」

さっきとは打って変わって、翔さんがあまりに大真面目に挨拶するもんだから、
こっちも合わせずにはいられない。

「こちらこそ。いたらない点も多いと思いますが、本年もよろしくお願い致します」

「ふははっ。やっぱ、硬ぇな?」

「うん。いつも年始はそうやって挨拶回りするの?」

「んー、まぁ、そうかな…」

「翔さん、お茶にする?コーヒーがイイ?」

「あー、インスタントコーヒー。ちょっと濃いめにして?」

「ん、」

「飲んだら初詣行こうぜ」

「えっ?寝ないの?」

仮眠などほとんど取れていない状態で…


大舞台での司会と。
カウントダウンと。
事務所の初詣とこなして。


現在時刻は午前3時半だというのに。
まだ、そんな元気が残っているとは思えないけど…?

「だって、日が高くなると由衣ちゃんとは出掛けらんねぇもん」

「まぁ……そうだけど。でも翔さん、そんなに」

無理、しなくてイイよ?というセリフは。
途中で唇によって遮られてしまう。

「俺が、そうしたいの。安全運転すっから、コーヒーお願い」

「……うん」

そこまで言われたらもう、反対はできないから。
ポットのお湯で少し濃いめのブラックコーヒー。

「……にがっ」

「濃いめって言ったでしょ」

「そうだけど…ちょっと、砂糖…」

「ハイ、どーぞ?」

「由衣ちゃんカフェオレ?そっちのが美味そうじゃん」

「換えっこ、しないよ?」

「けーち」

「じゃあ、翔さんのにミルク入れたら?」

「……やだ。砂糖入れたからこれでいーの」

「んふふ」

しばしのコーヒータイムを過ごした後、
出掛ける支度をして、ふたりで車に乗り込む。

「どこ行くの?」

「ごめんね、今回は近場」

「あ。いや近場の方が安心だけど……大丈夫?」

いくら深夜とは言え。
さすがに無人の神社があるとは思えないんだけど…。

「平気だって。まさか俺がもう一回初詣に繰り出してるとは誰も思わないって」

「そうかもしれないけど…」

「ササッと行って、ササッとお参りして帰れば大丈夫!」

「……うん」

納得した訳ではないけれど。
一緒に初詣に行けるなんて思っていなかったから…

それはそれで、やっぱり嬉しい。

さすがに午前4時過ぎというだけあって
車通りの少ない道を走り、車はどこか一般のお宅の駐車スペースに入っていく。

「翔さん?ここどこ?」

「ふふ、俺の知り合いの家。大丈夫、ちゃんとこの時間に少しだけ停める許可は貰ってるから」
「あ、うん」

「駐車場が無いからさ。ここから歩くのが一番近いんだ。降りて?」

さすが。
根回しだけはいいと言うか…。

ということはつまり、何日も前から初詣に行くことだけは
翔さんの中では決定していた、と…。

「ねぇ?帰宅した時私が寝てたらどうしてたの?」

人通りはほとんど無いとはいえ、
さすがに手を繋ぐ訳にはいかないけれど。
寄り添って小声で翔さんに話しかけてみる。

「んー?由衣ちゃんが寝てたら?元々明日行こうと思ってたんだ。けど一応ね?念のため今日と明日どっちかに行きますって」

「そうなんだ……」

ますます、用意周到さに感心しながら歩いていると、
本当にあっという間に鳥居が突然表れる。

「民家に埋もれて分かんないね、ここ」

「だろ?俺は友達に会いそうだけどな」

それはそれで…大丈夫じゃないような気がするけど…?

少しだけ、翔さんと距離を取って。
参拝客のまばらな境内を歩く。

無事に、騒がれることも無く
文字通りあっという間に神社を後にして車に戻る。

「ね?大丈夫だっただろ?」

「はぁー。ドキドキしたぁ……」

「そんなに緊張してたの?」

「そりゃ、するでしょ…」

翔さんだとバレるだけならまだしも。
あの、国民的アイドルの櫻井翔が彼女連れで初詣なんて!!

大スクープもいいとこだ。

「さて。帰るか」

「うん」

来た道を、寄り道もせずに戻って。
翔さんの部屋に戻ってきたのは午前5時を回っていた。

「翔さん、今日何時まで休み?」

「ん?今日はとりあえず、ずっと休み」

「ホント?」

「うん。だからさっ!」

「…ん?」

「俺、もしかしたら長年の願いが叶うかもしれない」

「なに、それ?」

長年の……願い、って?

「初夢だよ初夢っ!!俺ね、今までちゃんと初夢見たことねぇの」

「はぁ」

「今から寝て、夢見たらそれって初夢だろ?」

「……そう、なるね」

「しかもさ?」

「ん?」

翔さんは満面の笑顔で私を抱き寄せて。
小声で耳打ちする。

「由衣ちゃんと一緒なら、すげぇ良い夢見られそうな気がする」

「そ…う?」

「富士山見なくていいからさぁ」

「うん」

「俺の夢ん中まで、会いに来て?」

「ふふ。それが可能なら、一晩中でも」

でも、それを言うなら。
私の夢の中にも。


ちゃんと会いに来て欲しいんだけど?


できることなら。
同じ夢が、見られますように……




-END-
初夢ネタでした。初夢の正しい解釈は元旦から2日にかけて見る夢のこと。…だ、そうです。ちょっと大目に見てくださいw

2013.01.01


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