>> 23.大切なのは、キミといること



年末が押し迫った12月。
例によって多忙を極めている翔さんに夜中のドライブに誘われて。
妙にハイテンションな彼を後部座席からルームミラー越しに見つめる。

「ねぇ、どこ行くの?」

「ないしょー」

突然車を出して、連れて行かれるときは大抵このパターンだけど。
たまには教えてくれたっていいじゃない。

「聞いたって分かんないかもよ?」

「んじゃ、聞かなくてもいいんじゃね?」

「もう……」

今夜も、どうやら教えてくれる気はなさそうだ。
諦めて背中をシートに押し付けながら窓の外を見ても
暗闇だからどのあたりを走っているのかよく分からない。

「道の駅あるからさ、」

「ん?」

「ちょっと、あったかい物でも買ってく?」

「あ。うん」

名前も知らない道の駅で少し休憩して、助手席で缶コーヒーを飲む。

「あーあったかい」

「うん。やっぱ夜は冷えるな…」

「まだ行くの?」

「もう少しね」

どこか山の方に向かっているから…
翔さんセレクトの夜景でも見せてくれるのかな。

「翔さん大丈夫?眠くない?」

「へーきへーき。由衣ちゃん疲れてたら寝てていいから」

「ううん。起きてる」

せっかく翔さんの隣に乗れているんだもん。
……時々、眠気に負けちゃうけど。

車はどんどん斜面を上がって行って、
窓からの景色で、街灯りを見下ろすくらいになってきた。

「由衣ちゃん?」

「起きてるよ」

「もうちょっと、かな」

「はぁーい」

翔さんにそう告げられて、5分も経たないうちに車は停車した。

「マフラーとか持ってきてる?」

「ん、あるよ」

色も編み方も違うからお揃いとはとても言いがたいけど。
ふたりのマフラーは私の手編み。

翔さんがどう思っているか知らないけれど、
こうやって一緒に巻いているのは……ちょっと、照れるな。

「少し、暗いから」

「ん、」

当たり前のように差し伸べられた手を戸惑うことなく握ることができるのは、
周りに誰もいないということが分かっているからだけど。
それでも、こんな風に手を繋ぐことができるのは単純に嬉しい。

「わぁーキレイ!!」

駐車場からは見えなかった夜景が、目の前に広がって。
思わず声を上げる。

「ちょっと、待ってて」

「ん?」

私の手を離した翔さんは、夜景の見える角度が何故か気になっているらしく
腕をかざしてみたり、細かく左右に移動している。

「翔さん?何やってるの?」

「この辺…かな?」

「何が?」

「こっち来て?」

言われるがまま、寄り添って。
今度は私から手をつなぐ。

「ん。ベストポジション!」

「……ん?」

さっきから翔さんが何をしたいのか
全く理解できずに首をひねる。

「はい、由衣ちゃんこれ持って!」

「えっ?」

翔さんがポケットから取り出したのは、手のひらサイズのクリスマスツリー。

と言っても。

飾りつけは何も無い、もみの木の模型だ。

「クリスマスツリー?」

「ん。これをね、この位置でかざして?」

「わぁ……」

空中に腕を伸ばすと、小さなもみの木の枝の隙間から、
夜景の光が透けてきて。
天然の、イルミネーションになる。

「あと、こうやって…」

翔さんは、ポケットから細長いモールを取り出して。
木に巻きつける。

「あと…」

「まだあるの?」

「うん。雪も、少しね」

落ちないように、小さな綿を枝に絡めて。

「もうひとつ、」

「えっ?」

これで完成じゃないの?
そう聞こうとした私の目の前で。
翔さんは最後に何かをツリーに巻きつける。

「はい、完成!」

「翔、さん。……これ」

小さなツリーの一番上に輝いているのはおもちゃの星ではなくて。
クロス型になったダイヤモンドのペンダントトップ。
プラチナ色のチェーンも、ツリーに巻きついている。

「クリスマス、プレゼント」

「もらったじゃない、もう」

翔さんに、貴金属を貰うと、とんでもなく高価なものを用意しそうなのが怖くて。
日常的に使える通勤用の鞄を、少し前にもらったばかり。

「それはそれ。これはこれ」

「だって、それじゃあんまりにも私とつり合いが」

手編みのマフラーだけではさすがに気後れしちゃうから。
ちゃんとしたブランドのネクタイを頑張って選んでみたんだけど。
こんなことされてしまったら、どうして良いか分からなくなる。

「いいの。由衣ちゃんがネクタイくれるから俺も」

「ダメだって!」

「ほんとにダメ?…受け取ってくんないの?」

「え……」

「これくらいなら。制服着てても大丈夫じゃないかなって思ったんだけど」

「翔さん……」

そんなことまで、考えてくれたの?

「クリスマスイブと、クリスマスに……一緒に過ごせるかどうか分かんないけど」

「……う、ん」

「日付が大事な訳じゃ、ないだろ」

「……そう、だね」

「あ。泣かないで?その前に1枚」

「えっ?」

翔さんはポケットからデジカメを取り出して。
すっと私の肩を抱く。

「どれだけポケットに入れてきたの」

「ふふ。仕込むの大変だったよ」

事前に段取りを組んで、本番をイメージしてシミュレーションしている翔さんの姿は、
あっさり頭の中で想像できてしまうから、
感動の涙は引っ込んで、笑いが零れる。

「行くよ?はい、チーズ」

「ん」

夜景モードで撮った写真は。
凄く楽しそうな翔さんと、恥ずかしそうな私が写っていて。
まだまだ、アイドルと撮る写真には照れてしまう。

「うーっ。さみぃな」

「…うん」

防寒着を着込んでも。
冬の夜は、寒い。

「帰ろっか」

「うん。翔さん、これは?」

「あ。ツリーごとあげる」

「ふふ、じゃあこのまま飾っておこうかな」

「ダメ。こっちは付けてくれないと」

「はぁい」

結局。
何だかんだ言っても。

こういうプレゼントは嬉しいものなんだと
ゲンキンな自分に心の中で苦笑しながら。
早速明日から…肌身離さず身につけている自分を想像してしまう。

車に戻って、
ツリーから外したネックレスを付けて。
指先で胸元のクロスを揺らす。

「翔さん、ありがとう」

「んー?」

「すごく。嬉しい」

「そりゃ良かった。実はちょっとだけ本気で要らないって言われたらどうしようと思ってた」

「…そう?」

「だって鞄の時にさ。要らないって言われたしな」

「翔さんが、恐ろしく高価なのを買いそうだから怖いだけ」

「そうかぁ?」

「そうだよ」

何でもないことのように言うけれど。
こっちはまぎれもなく“庶民”なんだから。

「俺のセンスも、悪くないじゃん?」

「最近売れ残ってないもんね?」

「地味ーな時、あったけどな…」

「んふふ」

あれはもう。
芸能人のオーラがゼロだったけど、
あれはあれで、個人的には嫌いじゃなかった。

「大切にするね」

「うん」

「翔さん!」

「あ?」

運転席の翔さんに抱きつくようなカタチで。
私から唇を重ねる。

「櫻井翔、クリスマス前に一般女性と車中キス!」

「え?」

「週刊誌の、見出し?」

「ここまで来れるもんなら来てみろ」

「…分かんないよ?」

「んじゃもっとサービスしちゃう?」

「ふふっ、」

そんな冗談が言えるのも、
本当に誰もいないと分かっているからだけど。

すぐに離れるのももったいないし。
背中に翔さんの手が回されてるから。

もう少し。

もう、ちょっとだけ。

甘い時間を、楽しもうかな?




-END-
旧ブログのHIT企画クリスマス短編でした。前回ネックレスネタだったので…ちょっと迷いましたが、基本それぞれの短編は繋がってません。

2012.12.11


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