違う人 5.0

「日々人、上の服貸して」
返事を聞く前にベッドの下に投げられていた長袖に腕を通す。

紺色の下着の上下は白い肌に映える。
それもチラっと見ただけで日々人の大きな服にすぐに隠れてしまった。



ちゃんは少し痩せた。

日々人は堪らずベッドから降りてその細い腰に腕を回す。
ちゃんはなんの抵抗もなくそれを受け入れて首にある日々人の頭をポンポン、とする。
もう片方の手は腰にある手に絡める。

「飲み物取ってくるだけだから」
「オレの家なのに?」
「そう、勝手に」
ふふ、とちゃんは笑う。
「だから甘えん坊さん、離れ…」
「オレじゃダメなの」

言葉を遮るように日々人が言う。

「なんの話」
「ちゃん、痩せたみたいだから」
「んー?体重計乗ってないからわかんないよ」
「…そっか」
「…そうだよ」

そう言って日々人の腕の力が抜けて、ちゃんの腰から離れていく。
でも手は繋いだままで。
ちゃんは背中から引いていく温かさを愛しく思っていた。
思われているのは自分で温めることのできない部分まで温かくなり、こんなにも安心できるのだな。


子どもの頃は「いつか結婚しようね」とか「ずっと一緒にいようね」とかがとても簡単に口から出てきた。
純粋にそう思っていたから出たのだろうけど、今は言えない。
大人になったはずなのに、大人になったからか、臆病になったんだなと思う。



「日々人と彼は違う人だから」
「贅沢な事にどっかの穴が埋まらないみたいで」
「食べれなかったりする」
「それは日々人がいなくなってもまた違うところに穴があくだろうから」
「日々人は代わりなんかじゃないよ」

「だからってわけじゃないけど」
「私も誰かの代わりじゃなかったらいいな」


手が離れて、ドアがパタン、と静かに閉まった。


冷蔵庫を開けてポケットに入っていた水を取り出す。
代わりでないことも、さっきの発言からも一途に思われているのもわかっている。
ただ、踏み込んだり約束をするのがこわいのだ。

「傍に居たい」
それを閉じ込めるように冷蔵庫のドアを閉めた。




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