in the rain

「おれさ、もう宇宙行けない」
「うん」
「気付いてた?」
「月から帰ってきて夜眠れてない日が多いみたいだったから」
「そっか」
「一緒に寝ててもすぐ起きたりしてたの知ってる」
「気付かないふり上手だね」
「そうかもしれないね」



「宇宙服が着れなくなったんだ」
「どうして?」
「事故の影響で。着るとパニックになる」
「そっか」
「克服したんだけどね。でも…」
「ダメなんだ?」
「うん」



「…今日室長にさ、言われたんだ」
「うん」
「宇宙服を着ての活動が必要条件だからさ、もうおれダメなの」
「そっか」
「うん」


「おれさ、宇宙飛行士じゃない自分なんて自分じゃないみたいでさ」
「うん」
「ちゃんを好きだったおれも、ちゃんが好きだったおれも、宇宙飛行士ヒビト・ナンバなんじゃないかって思って」
「…そう」
「だから」
「うん、わかってる」



「自分勝手でごめん」
「大丈夫、わかってる」
「ごめん」
「あんまり謝らないで」
「愛してる」
「こんな時に言わないで」



「…抱きしめられると引き留めたくなる」
「引き留めていいよ」
「日々人なんか嫌い」
「嘘は下手くそだね」
「なんて顔して笑うの」
「ごめん」
「今のは謝るところじゃない」
「わかってるよ」



「おれのこと怒らないの?」
「怒れないよ」
「そっか」
「そうだよ」
「泣かないの?」
「泣けないの」
「強くなったね」
「だから、大丈夫だよ」
「うん」



「外ね、雨降ってるみたいなの」
「降ってないよ」
「だから、猫をさ、迎えに行ってくる」
「…うん」
「カギはかけなくていいよ。合鍵も返さなくていい」
「曖昧なのはちゃんを縛るよ」
「そっか」
「だから置いていく」
「私の合鍵はムッちゃんに返しておくよ」
「渡さなくていいよ」
「曖昧なのは日々人を縛るよ」
「ちゃんは縛るくらいでちょうどいいよ」
「…ワガママ」
「…なんとでも」



「猫ね、たぶんあそこにいるの」
「うん」
「行ってくるね」
「行ってらっしゃい」
「…行ってらっしゃい」
「行ってきますは言えないよ」
「どうして?」
「たーいまって言えないから」
「そっか」


「好き、なんだ」
「おれも」
「本当に」
「うん」
「心から」
「知ってる」
「だから」
「うん」




外に出てしばらくしたら雨になった。
頬からぽろぽろ落ちる。

つたっては、落ちた。




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