仲良くなりかた。紫三世の場合。

「きみいつも訓練前に走ってるよね」
「う?」
走りながらなので変な声が出てしまう。
並走してきた人物を見て、彼女は記憶を辿りながら、「ニンジャ先輩」と同期が言っていたことを思い出す。

「ニンジャ先輩」が走る方の左のイヤフォンをはずす。

どうしても息があがっているので切れ切れの話し方になってしまう。
「おはよ、ございます?」
「おはよーう!やっぱり日本語話せるんだねー」
「国籍がアメリカ、ってだけで、日本人、ですから」
ふわりと笑う。
人間たらし、といい意味で言われる彼女の笑顔はとても魅力的だ。


しばらく並走する。
朝の光が眩くて、風が気持ちいい。
ただ隣の「ニンジャ先輩」はいつまで自分の横を並走するのだろうか、と沈黙の間を気まずく思っていた。
当然走りながら話せるような体力もないのだが。


そのうちにいつも1人で走っているちゃんにとって、並走されることは苦痛の他なかった。
次第にちゃんの眉間に皺が寄っていった。


「なに聴いてんの?」
「…紫さんは、なに考えてんすか?」
口にしながら、そうだ、紫三世だ。と記憶が合致する。
「なに聴いてんの?」
小さく「なんだよ」と言った彼女は
「…Linkin Park!」
とだけ言って手でしっしとちゃんはする。
「先輩に対して失礼なやつだ」と呆気にとられた紫は減速していく。
素直な反応をするやつはおもしろいと紫は常々思っていた。
それは後輩でも上司でも。
当然眉間の皺も小さくぼやいた言葉も逃さなかった。



紫は、彼女がこのあとにベンチで軽く寝ることを知っていた。
マニュアルを顔に載せながらだったり、
無防備に口が半開きだったり、
テーブルに突っ伏して寝たりしているのを紫は何度か見ていた。


今日はラッキーなことに無防備な日だった。

得意のすり足で近付く。
ベンチの背もたれに後頭部を乗せて寝ている。
目のところにタオルをかけてすぅすぅ寝息をたてている。
今日は口はあいていないようだ。
髪が風に揺れている。
少し見えている頬が、肌がキレイだと思った。


マジックを取り出し、起こさないよう慎重にちゃんの顔に描いていく。
男性の時より可愛くなるようには気を付けたつもりだ。

可愛い可愛い後輩だからね。と彼は呟いて、自身の訓練に向かった。





ランチの時間に唐突に紫は後ろから首筋にフォークを突きつけられた。
目の前の宮田がビクッとしていた。
「…ちょっとお話よろしいでしょうか?」
振り返った彼女の顔にはまだ猫の鼻とヒゲが残っており、顔には笑みが浮かんでいるが目が笑っていなかった。
振り返った紫の喉仏あたりに再びフォークを突き付ける。

「クソニンジャ先輩の仕業ですよね、これ」
とひきつった笑顔でちゃんは自分の顔を指指す
「あーバレちゃった?」
とニコニコしながら紫が言う。
「お昼ごはん、奢ってくださいね」
とニッコリし、首ねっこを掴む。
「すいません、少しお借りしますね」と宮田に礼をして、紫にも同じように礼をさせる。

「みやっちーhelp meー」
「紫さんが走っていくの私見てたんですからね!」
「みんなにニャーって言われたんですよぉ!もううう」
「いや、もう、そんな、怒んないでy」
「怒ってません!超恥ずかしいいい」
「…あ、ケーキ食べよー」
宮田はどこか楽しげな声が遠ざかるのを聞きながら、最近の会話を思い出していた。




(あの子可愛いんだけど)
(…やめとけ、そういうことに関してはスルースキル半端ないらしいぞ)
(あ。…朝走ってるらしいよ)
(なんで?)
(女だから、って訓練中に言われたのがショックだったんだって)
(努力家だよねー)
(どんな子だろうねー話してみたいなー)


…不器用すぎるだろ、と宮田はふふっと笑った。



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