アルファベットでいうとA。
最初はNASAのカフェテリアで出会った。
その時、私はまだNASAの売店で働き出して間がなくて、友達も同僚くらいで。
ランチは交代でとることになっていたから、1人でごはんを食べることが多かった。
今日はサラダとオムライスだ。
特にオムライスはなんだか日本を思い出して嬉しかった。
今日は天気がいいので外で食べよう。
いただきます、をしてとりあえずサラダをいただく。
うんうん、いい感じの味。
ドレッシングが良い。
オムライスも、うん、なかなか、濃いな。
「…ジャ、ストップ!ノオォォオ」
「ギャアア」
なんだかうるさいのが近付いてきてるなー。
ノォオオって一回使ってみたい言葉だなー。
相当パニックだよなー。
ゾンビ映画とか使ってる気がする。
そう考えたらそんな使いたい言葉じゃないかもなー。
「あああ!」という声がしたと思ったら、目の前を黒い小さい物が落ちていった。
そしてオムライスに突き刺さった。
この感じ、あの黒い悪魔だよね。
わかった瞬間、叫びたかったが、目を逸らすのに精一杯だった。
(ノォオオ!!)
なんてグロい絵なんだ…。
一瞬見ただけでこの破壊力。。
ああー…と頭をかかえていたら、
目の前に2人宇宙飛行士が来た。
ジャンプスーツを見る限り1人はアメリカの方で、もう1人は日本人だった。
「ニンジャ!お前のせいでレディのお食事台無しだぞ!」
「え、おれのせい!?」
「大丈夫?」
「え、うん、大丈夫」
「ごめんごめん、それ偽物だから!」
「あーそうなんだー」
日本人の宇宙飛行士は大丈夫と言う彼女を見て
(顔笑ってるけど頭かかえてたしめっちゃ眉間にシワ寄ってるし。
よく見ると涙目だし。
ゴキブリがいきなり落ちてくると戦意喪失するんだな…メモメモ。
絶対オムライスの方見ないな…ゴキブリだもんな…ほとんど食べてないのにー…悪いことしたなー…)
彼女の顔を観察しながら
そんなことを思っている間にもアメリカの同期は彼女のフォローをしてくれる。
優しい奴だよ。
「OKOK、大丈夫」
「ごめんね!」
「オーイエー」
ふらっと立ち上がってちゃんはそのまま室内へと入って行った。
「…あーあ、彼女可哀想。
ちょっと泣いてたじゃん。
ニンジャのせいだからねーだいたいコイツどこで…」
軽く説教を聞き流しながら、ふとトレイをみると小さなハンドタオルが置いたままだった。
淡いグリーンのチェック柄。
「ごめん、これ片しといてよ」
「おい、こいつ刺さったままだし!
頼むからこいつどうにか…イヤアアア!」
…
不思議なリズムの足音が聞こえたかと思うと後ろからさっきの日本人の宇宙飛行士が来た。
私の顔を確認して目の前に立つ。
胸元あたりにハンドタオルを出された。
歩いてきたんだろうけど、かなり身軽だなこの人。
「これ!」
「あー!ありがとう」
「最近来たよね?日本人?」
「あ、うん、日本人」
ちゃんはまだオムライスに刺さったあいつが思い出されていた。
ニセモノとはいえ…
日本人の宇宙飛行士は全員チェックしている。
確か最近アスキャンから正式に宇宙飛行士になった人。
この特徴的な髪型と不思議メガネ…
そうそう、紫三世だ。
すごい名前だなあと思ったのを覚えている。
思い出すとスッキリしたのか悪魔が遠退いていった。
「えと…今日は本当にごめんね、今度ごはん奢らせてよ」
頭の上で手を合わせる。
なんだか口元笑っているし、あんまり反省してないんだろうけど。
「お昼ごはんならぜひ。
…ケーキも付けてね、楽しみにしてます」
いたずらっぽく笑った。
…
「紫さん私のエビフライ食べたー!」
「今日もケーキあるんだからいいじゃん」
「良くない!
あーあ…このせいで宮田さんのエビフライが犠牲になる…」
「紫のせいでおれのエビフライが…」
「ごめんって」
フォークに刺さって少し短くなったエビフライをちゃんの顔の前にずいっと出される。
不服そうに「食べかけはいりません」と言うと「あ、そう?」モグモグと口の中に消えていった。
これ見よがしにエビの尻尾を口に咥えてぴょんぴょん上下に動かしていた。
「…宮田さんケーキ半分こしましょ」
「みやっちはおれと半分こすんの!」
「なんでだよ気持ち悪い…」
「ケーキ買ってくる!」
ばん!と勢い良くテーブルを叩いたかと思うと、その俊敏な動きで走って行ってしまった。
「…宮田さん、紫さんって面白いですね」
「ん?いい奴だよ。仲良くしてやってよ」
もうこれも何回目かの一緒にお昼だ。
紫さんからはじまり、宮田さんも何度か売店に来て他愛ない話をしに来てくれる。
もう充分仲がいい。
妹みたいに接してもらってちゃんはとても嬉しかった。
「そうですね、考えときます」
言い終わる前に、紫さんのお皿のパセリをさっきのエビフライの尻尾を思い出しながら唇で遊んだ。
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