冗談です

大好きな隣のお兄ちゃんは、
いつの間にか結婚してらっしゃった。



新居の宮田家に呼ばれた。

奥さんは可愛かった。
一生懸命で、女性らしい。
気さくな方で私がかなり年下だからだろうかちゃんちゃん、と宮田さんと同じ呼び方をしてくれた。


馴れ馴れしいんだよ。
幸せそうな顔しやがって。


「ちゃんちゃん、お菓子食べる?」
お人好しが表立ってしまって
「はい、いただきます」
と笑顔で答えてしまう。

「旦那から聞いてるよ、前のアパートのお隣さんでお店とかこのへんのことを教えてもらってたって」

旦那、ですか。
そうだよね、旦那なんだよね。
自分のものってか。


しばらく話したあと
「買い忘れがあったんだよね。
ちょっと買ってきますね。
ちゃんちゃん、ゆっくりしていってね」
とバタバタしながら出て行った。



「いい嫁だろ」
「…さぁ、今お話しただけなんでわかりません」
「わかってるくせに。
ちゃんは人を見るのが上手じゃない」
「そう」
「…なんか、怒ってる?」
という言葉を聞き終わらないうちに、私は宮田さんの首に抱きついた。


「私の気持ちわかってて今日呼んだんでしょう?」
「…そうだよ」
「嫁見たら諦めるとでも思いましたか?」
「そりゃ思うよ」
現実見せてあげるのもお兄ちゃんの責任だと思ってるよ、と言われた。


「お前はもう少し若い子と幸せになりな」
できることなら宇宙飛行士以外の、と付け加えた。
「宮田さんじゃなきゃやだ」
「ちゃん…あのなぁ…」
「じゃあ最後に抱いてください」
それで私は諦めれると思います。

しばらくの沈黙があったあと
「…わかった」
と一言があった。


ソファまで連れて行かれ、
優しく押し倒される。

このままキスされるかと思ったら
首にキスをされた。


「やっぱりムリ。
ちゃんのこと好きだけど、やっぱりこれ以上は越えたらダメなんだって。
お前のこと大切だからこそ…」
「ウソは付かないで。
優しいウソでも怒ります」


…やられた。
最初から抱くつもりなんてない。

こうすれば、また私が子どもだということを嫌でも実感させられる。


「奥さんのこと好きなんでしょう?
だから裏切れないって言ったらいいじゃないですか」


肺がやられているのか
この脳みそがやられているのか
あるいはノドか
わからないけれど、
傷付けることばかり言ってしまう。


私がまだ若くて幼くて青いことを思い知らされ、
彼が慈愛に満ち溺愛してくれ大人なことがわかる。



全部わかってます。
この嫌な言葉ばかりを産み出す脳みそでも、わかっています。
ただ追いつかないんです。
つまるところ、わかっていないんです。


困った顔をしている。


その顔を見ながら
こんなんだから、
子どもだから、
私は選ばれなかったんだな、
と思った。


ずっとずっと想ってたのに。
どうしてどうして。
ねぇ。


ふわっと笑ったつもりで
「冗談です」
と言って部屋を飛び出した。
宮田さんが小さく
「ごめんね」
と言ったのが聞こえた。
喉の奥がきゅうってなる。



玄関で奥さんがバツの悪そうな顔をして立っていた。


忘れ物でもしたんだろう。

私は彼女が見ていたのを知っていた。



「ごめんね」じゃないんだって。
私はあなたの一番大切な人を
傷付けたんだって。
嫌な女になっちゃったんだって。



もうこれで事足りた。
事足りた。


近くの公園まで走って

「じゅーぶん」


「…充分だよ」


と口にしたらポロポロ涙が出てきた。



[ 27/29 ]

[*prev] [next#]
[home]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -