ミヒャエルと結婚してから養子を引き取った。名前はミヒャエラという。
黒髪でどこかミヒャエルに似たその子を一目見て気に入った。エリアスはミヒャエルの子供を生むことができない。だから、二人で相談して両親のいない子供を引き取って育てることにしたのだ。
幸いなことにミヒャエラは素直ないい子に育った。エリアスは女ではないのに、母と呼んで慕ってくれた。最近はずいぶん身体も大きくなって、ミヒャエルと同じくらいの背丈になった。立派になったものだ、と感慨深く思う。少し歪ではあるけれど、幸せな家庭を築くことができたのだ。
男の自分は本当の母親にはなれない。その分、せめて母親らしく彼を慈しんで育ててきたつもりだ。派手だった化粧も薄くして、素顔に近いくらいにした。最近では、家族に素顔を見せることにもほとんど抵抗がなくなった。ミヒャエルの妻になれた上にミヒャエラの母親になれて、エリアスはとても幸せだった。
欠点らしい欠点といえば、少し甘えん坊なところだろうか。もう中学生になろうと言うのにエリアスのベッドに潜り込んで、抱きついて寝ようとする。そうはいっても甘えられるのは嬉しいから、いつだって許してしまうのだ。既にエリアスより大きな義理の息子の腕の中で、幸福な気持ちで目を閉じた。




「母さん」
細い手首を掴んでベッドに縫い止めると、ぽかんとした目に見上げられた。ベッドにふわりとスカートが広がる。細く白い、艶やかな足。女のように柔らかな細い身体。どことなく甘やかな匂いがする。
ミヒャエラ、と戸惑ったように呟く声ににっこりと微笑む。唇を奪おうと顔を近づけると、エリアスは身を捩って逃げた。青緑色の瞳が怯えの色を灯す。
「なにを…するつもりなの」
「俺はただ、エリーと愛し合いたいだけだよ」
組み敷いた身体が硬直する。白い顔が青ざめて、はっきりと恐怖の表情が浮かぶ。そんな目を向けられたのは初めてでと哀しくなった。やはり男として彼を見つめていたことに気づいてはいなかったのだ。
「嘘、冗談、だよね…?僕たちは親子だよ…?」
「俺は、母さんを、エリーを親だと思ったことないよ」
呆然と硬直する頬を撫でた。ミヒャエラにとってのエリアスは親などではない。一人の人間として、狂おしいほどに愛している。何度彼を抱く夢を見ただろう。長い長い間、無防備に腕の中で眠る彼をめちゃくちゃにしてしまいたかった。
「ずっと好きだったんだ。子供のときからずっと」
「いや、やめて、ミヒャエル…!」
「父さんは出張だよ、わかってるでしょ」
手足を振り乱して暴れる彼の小さな身体を抱きしめる。まるで少女のように美しい顔をした、ミヒャエラの義母。ずっとこのひとだけを見ていた。彼が欲しかった。息子に対する愛ではなく、一人の男として愛して欲しかった。
「ミヒャエラ、やめて!こんなの間違ってるよ…!」
「そんなことないよ、愛してるんだ」
いやいやをするように抵抗する彼の服を少しずつ脱がせていく。女性物の清楚な服。壊れ物のような華奢な身体。下着も女性物で、やはりこの人は誰より女らしい女の人なのだと思う。
抵抗はあったけれど、その手つきは余りに弱々しい。白く滑らかな肌が露わになるたびひどく興奮した。どんなに長い間、この瞬間を待ち望んできたことだろう。そっと胸元に舌を這わすと、桜色の唇から悲鳴が漏れた。
「やめて、離して…!お願いだから!」
「…エリー」
悲しみを込めて愛する人の名を呼ぶ。こんなにも愛しているのに、どうして分かってくれないのだろう。
「エリー、俺たち血は繋がってないんだよ。愛しあおうよ」
「…僕が、男として愛してるのはミヒャエルだけなんだ。それに、僕は男だよ…?」
「エリーは、世界で一番綺麗な女の人だよ」
耳元で囁くと、青緑色の瞳が見開かれた。嘘や虚勢などではない。男でも女でも、エリアスでさえあれば愛せる自信があった。
つう、と真っ白な太股をなぞりあげる。優しく指を這わせながら、淡く 色づいた胸を舐めあげた。何度も音を立てて吸いつくと、甘やかな声が漏れる。この声をずっと聞きたかった。彼を自分だけのものにしたい。
「やだ…っ、ミヒャエル、ミヒャエル…!」
「…父さんの名前なんて、呼ばないでよ」
「っ、ん、んんぅ…!」
父の名を必死に呼ぶ唇を無理矢理塞ぐ。逃げ回る舌を捕らえて唇を貪った。父のことは慕っていないわけではないけれど、エリアスを独占していたのが羨ましくて憎らしくてならない。
「っひ、いや、見ないで…!」
細い足を抱え上げて最後に残った下着を脱がすと、幼さの残るそこがふるりと震えた。口角を上げてそれを口に含む。暴れようとする足を押さえつけて必死で貪った。華奢な手がミヒャエラの頭をわし掴んで離そうと狂乱する。
「やぁっ、やだ、放しっ、だめ、だめぇ…っ!」
音を立てて吸い上げると甘い甘い嬌声が漏れた。甘く乱れるエリアスの表情は、最早普段の穏やかな母親のものではなかった。
「エリー、好き、だよ」
「ああっ…だめ、ミヒャエラ、おねがっ、あっ、やああああ…っ!」
びくん、と大きく背を反らせて達した彼のものを恍惚としながら飲み込んだ。彼のものだと思うとどこか甘いような気がする。エリアスは放心したようにわなわなと唇を震わせながらぐったりと力なく横たわっていた。
「小さい頃から、ずっとエリーだけを愛してたんだ。俺のこと、ちゃんと見てよ」
顔をじっとのぞき込んで告げると、青緑色の瞳から壊れたようにぼろぼろ涙がこぼれた。
「や、いやだ…っ、こんなのいやぁ…っ」
真っ白な足を開いて、力なく啜り泣く彼のそこを時間をかけて解した。少しずつ指を増やして、中を広げる。ずちゅずちゅと湿った音が寝室に響く。弱い部分を執拗に責めると、快楽に耐えるためか赤く染まった顔がベッドに押しつけられた。
「…エリー」
「ふぅ、ん…っ」
誘われるように唇を奪う。男のものとは思えない、柔らかな小さな唇。甘くて酔ってしまいそうだ。
どこか酩酊したまま足の間に猛ったものを触れさせると、彼の身体がびくんと震える。ほんのりと染まった頬が愛おしい。
「愛してるよ、ずっとエリーだけを見てた」
「ああっ…!だめ、それだけは、だめ!おねがっ、あ、ああああああ!」
身体を無理矢理抱きすくめて彼の中に入り込む。彼の唇が長く高い悲鳴をあげる。傷つけないようにゆっくり時間をかけて腰を進めた。父や他の男と何度もしているはずなのに彼のそこはひどく狭くて、拒まれているようだと思った。
「ミヒャエラ…」
細い手が頬に触れる。ふと見下ろすと、涙に濡れた顔がミヒャエラを見つめていた。深く傷つけられた子供のような顔。きゅっと胸が締め付けられる。
「ミヒャエラ…僕たち、親子なんだよ…今なら、間に合うから」
どこか懇願するような、縋るような響き。心の中の息子としての部分が悲鳴を上げた。けれど、諦めることなんてできるはずがない。
「…俺は、エリーの息子じゃなくて恋人になりたいんだ」
「あっ、ああ…!いやああああ…っ」
ずん、と一気に腰を落とす。柔らかな粘膜がミヒャエラを受け入れた。彼の中は狭く熱く、信じられないくらいほどに気持ちよかった。やっと彼と一つになれたんだ、という達成感と僅かな罪悪感。
ぼろぼろ零れる涙を舐めとる。いつも母として優しい笑みを向けてくれた彼を、こんな風に泣かせたくはなかったのだけれど。
「…エリー、子供になってあげられなくてごめんね」
女として母親になれないあなたが、どれだけ懸命に愛してくれていたか知らないわけではない。哀しませたくはなかったけれど、諦めることはできなかった。愛する人に息子として扱われる地獄に耐えられなかったのだ。
「好きだよ、エリー」
「っく、あっ、あああ…っ!いや、いやだ、なんで、なんで…っ!」
奥をがつがつと抉りながら細い身体を揺さぶる。泣きじゃくる彼もとてもとても綺麗だ。エリアスはいつ見ても綺麗で優しくて、ずっと欲しくてたまらなかった。
「あああっ、いや、やめて…っ!」
罪悪感や恐怖でか、すっかり萎えた彼のものを手で掴んで擦り上げた。互いの心が通っていないのは分かっていたけれど、少しでも快感を与えたい。
「ああっだめ、そこはいや、いやあっ!」
「ここが、好きなの?」
「ひ、ああああああっ!だめ、だめぇっ…!」
やっと見つけた弱い部分を抉りながら胸や彼のものに刺激を与えると、白い身体がいやらしくくねった。光に反射する汗がきらきらして綺麗だ。甘い声と視覚が脳を揺さぶる。
「っく、」
「ああっ、いや、中は、やめてぇ…!あ、いや、やあああああああ…っ!」
どくん、と心臓が跳ねて、彼の中に欲望を吐き出した。自分のものが彼の中に広がっていくのを感じる。激しい水音を立てながら無我夢中で腰を動かし続けた。この細い身体にミヒャエラを刻み込みたかった。
欲望を全て吐き出した頃には、エリアスはくったりと横たわっていた。肉体より、精神的ショックが大きかったものらしい。色を失った唇が震えていた。
「…ミヒャエラ、どうしてなの…」
「俺はただ、エリーと結ばれたかっただけだよ」
ミヒャエラがもっと早く生まれていたら、あるいは息子でなければ、もっと話は単純だったのだろう。ただの子供になってあげられなくてすまないという気持ちと、やっと結ばれたのだという喜び。
「…お願いだから、ミヒャエルには言わないで」
小さく呟いた彼をぎゅっと抱きしめる。つう、と伝う涙を優しく舐めとった。ミヒャエラとて、まだ父には知られるわけにはいかない。もしエリアスと引き離されてしまったらミヒャエラは死んでしまうかもしれない。
「好きだよ、この世の誰より愛してる」
耳元でそっと囁く。人形のように静かに涙を流す彼の頬をそっと撫でた。白い顔に涙がぽたりと頬に落ちる。ひどく息苦しくて胸が痛んだ。
「…ごめんね、母さん」
本当は、隣で笑っていて欲しかった。幸せになって欲しかった。綺麗で優しくて弱々しい、愛おしいひと。愛していたのに傷つけてしまった自覚はある。それでも、息子として見られるのにはもう耐えられそうになかったのだ。
「…ねえエリー。父さんには言わないから、もう一度しようよ」
頬を包み込んで囁くと、やがて諦めたように白い首が縦に動いた。




ミヒャエルとエリアスと、息子のミヒャエラの住む家はあまり広くはない。昔人気の男娼だったとはいえ、今のエリアスは主婦だ。稼いだ金も店を辞めるときに大半を代償として支払ったから、ミヒャエルが働いて二人を食べさせなければならない。
それでも、結婚してからこちら幸せに過ごしてきた。エリアスがエプロンをつけて良妻賢母たろうと努力してきたのはミヒャエルが一番よく知っている。ミヒャエルも少しでも暮らしを良くしようと懸命に働いてきた。けれど、最近のエリアスは元気がない。結婚してからはいつも明るかったのに、時折目を伏せて哀しげにしている。
「エリー、どうかしたの?」
「…なんでもないよ」
心配して問いかけても、哀しげに微笑むだけだ。元々小柄で細いのにまた痩せたような気がする。何か悩みがあるのならすぐに言って欲しいのに、彼は遠慮がちだ。結婚前はあんなに気が強かったのに、と少し寂しさを覚えた。もっと甘えて欲しいのに。
彼のことが心配でたまらなくて、本当なら少しだって離れたくない。けれどミヒャエルが仕事に行かなければ息子とエリアスを食べさせることができない。息子が彼のそばにいてくれることだけが救いだ。ミヒャエラはマザコンと揶揄されるくらい母親思いのいい子なのだから。
「それじゃ、僕は仕事に行ってくるからね。その間、母さんのこと頼んだよ」
「うん」
すっかり背丈の伸びた息子に告げた。ミヒャエルに少し似た面差しをした彼は、にっこりと微笑んだ。



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