人気のない教室に彼を呼び出すと、エリアスは時間通りに男の元に訪れた。
「やあ、時間通りだね」
「…せん、せ、」
怯えた声を出す少年をにんまりと笑いながら見つめた。憎悪と嫌悪、そして隠しきれない恐怖の混ざった視線が男を見返す。構わず細い腰を抱き寄せた。彼には男に抵抗できない理由があるのだから。
「どう、よく撮れてるでしょ」
何枚かの写真を翳しながら優しく声を掛けると、腕の中の体がびくりと強ばる。目の前にひらひらとかざした数枚の写真にはエリアスが写っていた。写真の中の裸の少年はぐったりと放心して、白濁で身体中が汚れている。事後の写真であることは明白だった。
彼を襲った時に撮った写真だ。男は泣き叫びミヒャエルの名を呼ばわる彼を犯した。幼さの残る少女のような美貌が苦痛に歪むのが可愛くてたまらなかった。男は学校を渡り歩いて何度も同じようなことを繰り返していたが、彼はその中でも上玉だった。
エリー、と優しく彼の名を呼びながら、細い顎を捕らえて口づける。固まる身体を抱き留めて小さな口腔を犯した。
「っは、は、はぁ…っ」
くたりと力の抜けきった身体をじっとりと撫でる。まだ幼い、滑らかな身体。笑みを浮かべたまま自らの下半身を示せば、白い顔が蒼白になった。
「…っ、」
エリアスはぎくしゃくと震えながら屈み込む。男は優しく笑うと小さな頭を撫でた。青緑色の瞳が男を睨んだが、抵抗する術がないことは分かり切っていた。
男は彼の目の前に緩く立ち上がったものを突きつける。涙を堪えながら口を開くのが可愛くて、ぐっと腰を突き出した。少年は苦悶の声をあげる。
「ん、ぐぅ…っ」
エリアスの瞳からぽろぽろと涙が零れ、睫毛には涙が絡んでいた。男は構わず腰を動かす。くぐもった悲鳴が人気のない教室に響いた。悲鳴と喘ぎ声を聞きながら喉奥を抉る。痺れるような快感が男の脳を灼いた。
「ん、んん…っ!」
遠慮なく彼の中に溜め込んだものを吐き出す。泣き濡れた顔で、しかし彼は男のものを嚥下した。そうするように躾たのだから当然だ。抱くよりも口でさせる方が早く済むし、征服欲が満たされたので。
しかし今日は、それだけですませるつもりはなかった。
舌なめずりをしながら彼の服に手を伸ばすと、さっと白い顔が青ざめる。細い腕が伸びて、抵抗するように男の手を掴んだ。
「お願いします、それだけは、」
「うるさいな、大人しくしててよ」
冷たく言い放つと、少年の顔が歪む。男は彼を可愛がりたいわけではない。彼で遊びたいだけだ。彼の顔や身体が好きなのであって、心などどうだっていい。
諦めたように押し黙った彼を机に押し倒した。怯えきった大きな瞳を満足げに見つめながら、まろやかな頬を撫でる。両手で足を開かせて、指を突き入れた。
「っん、ぅ、うう…!」
噛みしめた唇から赤い血が伝う。そう長く解すつもりはなかった。ぐりぐりと抉りながらがくがくと震える少年の反応を楽しむ。固いしこりを抉ってやると彼の身体が反応を示した。
もうそろそろいいだろう、と笑みを湛えながら自らのものを小さな蕾に押し当てる。ひ、と彼が息を飲んだ。
「あっ、ぐ、あああ…!」
小さな手を掴んで、ずぷすぷと男のものを華奢な身体に突き入れた。開かせた細い脚が小刻みに震える。白い身体が淡く染まる。
「ふ、ぅ、」
唇を噛んで耐える白い顔は苦痛に染まっていた。桜色の唇を舐めてやると鉄の味がする。腕の中でひくつく小さな身体はひどく無力で、どこまでも弱々しかった。
彼の中は相変わらず暖かく、男に快楽を与えた。ふっと笑いながら頬を染める少年を見つめる。雪白の肌は赤く染まり、彼のものも緩やかに反応を示していた。嫌だと口では言うけれど、身体は正直だ。
「ん、君の中、すごく気持ちいいよ」
「…っ」
こうするのも慣れたでしょ、と嘲るとエリアスは青緑色の瞳できっと睨みつけてきた。この期に及んでも気の強いところは変わっていないらしい。僅かに苛立ちながら、細い身体を乱暴に揺さぶった。
「あ、ひぁう、あ、ああっ…!」
奥を突いてやるとあまやかな声が零れた。華奢な身体ががくがくと乱れる。溜まらず幼い白い肌に吸い尽いて、赤い痕を体中につけた。花弁のように散らばる所有の証。眉を顰めて喘ぐのがたまらなく可愛い。
「エリー、かわいいよ。気持ちいいんだね」
「あっ、んあっ、違っ、ちが…あっ、あああ…!」
「おかしいな。こんなになってるのにね」
「うぁ、あっ、ふぁ、う…あ、ああ…っ」
男の手で簡単に乱れる彼の弱さが可愛らしく、愛しい。少年期を脱していない身体はか細く脆い。硝子細工のような身体を壊してしまいたいという、暴力的な破壊衝動。男は舌なめずりをしながら細い首に指を絡ませた。
「っく、ぁ…っ!」
容易く折れそうな首に力を込めると少年の息が止まる。上下し酸素を取り入れようとする喉の動きを親指で押さえつけた。震えた細い指が男の手に重なって、外そうと抗った。苦しさのあまりか、きゅうきゅうと締め付けが強まる。桜色の唇がわなないて、赤い舌がちらちらと覗く。
かわいい、と思う。もう少しこの力を強めたら彼は呆気なく死んでしまうだろう。彼の命を握っているという事実にひどく興奮した。
「っく、」
どくん、と彼の中に精を解き放つ。はくはくと震える唇を舐めながら、絞める力を弱めた。途端、少年は激しく咳き込む。
「っあ、…かっ、ひ、」
脆弱な肌には男の手形がはっきりと残っていた。にっこりと笑いながら自らの残した痕を撫でると、瞳にはっきりと怯えの色が走る。その反応に嗜虐心がくすぐられた。
「あ、や、やだ…」
「大丈夫、本当に殺したりしないから」
あくまで穏やかに笑むと瞳から涙が零れた。察しのいい少年だと思う。男は既に、彼の首を絞める快楽を覚えてしまった。
「っ、ふ、うぅ…っ」
すっかりおとなしくなった彼の細い身体をぐちゃぐちゃと責め立てる。はらはらと涙を零しながら喘ぐ声は静かで、それでも尚男の情欲を煽った。独占欲にも似たものが男を満たす。時折悪戯に唇を奪いながら、咽び泣く彼を犯した。この場では男は圧倒的に優位だった。
だから、外の足音に気がつかなかった。
がらり、とドアが開く音を聞いてはじめて、外に人がいたことに気づく。目を見開いた黒髪の少年が、呆然とドアの前に立っていた。わなわなと震える唇が恋人の名を呼ぶ。
次の瞬間、男と繋がったままの少年が悲鳴をあげた。




おかしな夢を見たんだ、と彼は笑った。
「本当におかしな夢でさ。なんであんな夢を見たんだろう」
「…そっか」
「うん。それがさ、」
「エリー」
彼の話を途中で遮ると、大きな瞳がきょとんと見開かれた。ミヒャエルは口元に無理矢理笑ってみせる。
「そんな変な夢なんて忘れた方がいいよ。それより早く元気になってもらわないと」
悪戯っぽく笑ってみせると、白い顔が綻んだ。激しい胸の痛みを無視して、ミヒャエルは彼に優しい笑みを向け続ける。
真っ白なベッドの上、軽く身を起こした彼の姿は小さい。こちらに笑いかける頬は削げた。元々細かった身体は一回りも二回りも小さくなって、細い腕には点滴の管が差し込まれていた。それでも、彼はこうして笑ってくれるようになった。 
回復してきた、と思う。意識を取り戻した彼はひどく取り乱して暴れて、何度も鎮静剤を打たれた。泣き叫ぶ細い彼の身体を押さえつけながら何度も何度も謝った。死んでしまいたいと彼が言うたびに、ミヒャエルの心が殺されていくような気がした。
彼の病状は最近になってようやっと落ちついて、こうして会話もできるようになった。おぞましい記憶に蓋をして、彼はミヒャエルの元に帰ってきてくれた。
彼を害した男は、もうこの世にいない。――いないだろう。ミヒャエルも、そして彼の家族も、あの男を赦しはしなかった。ミヒャエル自身はエリアスの側にいたから直接手を下してはいないが、あの男は助かるまい。部下にはただ一言、相応の報いを与えろとだけ告げた。
男の末路をエリアスには伝えることは決してないだろう。あんなことを思い出すことはない。何も覚えていなくていい。その方がきっと彼のためになる。無論のこと、もし彼が思い出したとしても支えていくつもりだ。もう誰にも傷つけさせたりはしない。
それでも、何故、と思う。もし彼がミヒャエルに相談してくれていたら、彼の心も身体もこれほどまでに傷つくことはなかったろう。信じてくれてよかったのに。ミヒャエルは決して彼を軽蔑などしなかったのに。彼はあまりに潔癖で、そして臆病に過ぎた。弱く愛しいミヒャエルの恋人。守りきれなかった大事な人。
エリー、と名を呼んで小さな身体を抱き寄せる。骨の浮いた痩せた背、艶やかな色素の薄い髪。ほんの一瞬強張った身体は、すぐに緊張を解いておとなしくなった。ミヒャエルの前では無防備な彼がこの上無く愛しいと思った。
細い細い首に巻かれた、真っ白な包帯。そっと撫でると、ざらりとした感触がした。
これは戒めだ。もう二度と彼を離してはならないと言う。彼を守らなければならない。――守りたい。
「ずっと、そばにいるからね」
様々な思いを押し殺しながら呟くと、腕の中の少年はくすぐったそうに微笑んだ。



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