腕を伸ばして、彼の背に回した。
まだ幼い吐息が響き渡る。ミヒャエルとふたり、何度も唇を重ねては息を吐いた。
「ねえ、これは気に入った?」
「うん」
彼の問いかけに素直に頷く。 先程のように一方的に蹂躙されるのよりこれはよっぽど好きだった。自分だけがおかしくされるのではなくて、ミヒャエルも比較的気持ちよさそうなのが小気味いい。
ほんの少しだけ、何かいけないことをしているような気がしていたが、好奇心の方が勝っていた。元来好奇心の強い性格である。それにこれは、なんというか気持ちいいのだし。
もう一度、と言われて口を僅かに開く。侵入してくる舌を今度は拒まなかった。ぎゅっと彼の首を抱きしめて、彼にされたように舌を絡めた。
「ん、ん、…っあ、ん、」
口の中はとろけるような熱さだった。頭の中はやっぱりふわふわしていたけれど、それが妙に心地良かった。きっとミヒャエルが捕まえていてくれるからだ。
言ってみればエリアスはなんだか安心していたのだ。これは暖かくて心地が良い。それに一人ではないと思わせてくれる。
こうして誰かに抱きしめられるのは何年ぶりだろう。無条件で抱きしめてくれる腕は随分前に亡くした。寂しいなんて、誰にも言ったことはなかったけれど。
「ん、ミヒャ、エル」
息が苦しくなって、彼の名を呼んでかるく肩を叩いた。エリアスの口腔を侵していた舌が離れる時、優しく口づけられるのも嫌いではなかった。彼は変な趣味はあるがやさしい。
熱いね、と頬を撫でられて自分が随分と汗をかいていたことに気づく。それだけ夢中だったのかと思うと気恥ずかしい感じがした。エリアスばかりが疲れているように思われるが、おそらくは彼の方が慣れているせいだろう。何となく不満に思う。
「君は、平気なのかい」
息が乱れそうなのに舌打ちをしたい気分で問いかけると笑みで返された。正直なところ悔しい。彼と自分は同い年だというのにこの余裕の差はどうだろう。一体こんなことをどこで覚えたのか。
自分ばかりがどきどきしているのは情けない。それになんとなく、フェアじゃない。
「君のことも気持ち良くできたらいいのに」
ミヒャエルが少し意外そうに目を見開いたので、それとも痛い方がいいのか、と続けるのはやめておいた。
そんなこと気にしなくていいのに、と言う声はあくまでやさしい。
同い年なのに変に甘やかされているようで、少し不満に思う。息を整えるように彼の肩にもたれかかって、エリアスは不満げに口をとがらせた。
「だって、フェアじゃないだろう」
うーん、とミヒャエルは首を傾げ、悪戯っぽく笑った。
「それじゃあ、もっといいことしようか」
抱きしめられていた腕が離れて引き寄せられ、二人向き合う形になる。軽く首を傾けて無抵抗で待ち受けると彼は笑みを深くして、エリアスの下半身に手を伸ばした。
「え、」
驚愕と混乱で目を見開いた。一体なぜ、そんなところを。あまりのことに思考が一瞬停止する。固まっているうちにミヒャエルの小さな手がエリアスのものに触れた。
「ミヒャエル、駄目だ汚い!」
いくらなんでもそんなところは他人に触れさせるようなところではないはずだ。けれど、にこりと笑ったままのミヒャエルは手を放す素振りも見せない。これはおかしい、と頭の中に警鐘が鳴る。
彼の蛮行を止めたいけれど、魔法を使えるはずもなかった。もし握りつぶされてしまったら、と思うと恐ろしい。 ひく、と喉が音を立てた。
「大丈夫だから、僕に任せて安心しててよ」
「そんなことできな、…ひっ!?」
先端を細い指先でぐり、と抉られて体に電流が走る。なんだこれは。こんなものは知らない。
混乱するエリアスをよそに、小さな手のひらが幼気なものを擦るように動いた。そのたび雷に打たれたように体がびくびくと動く。幼いそれが彼の手の中でゆっくりと硬度を増していく。
「ミヒャエル、これは、」
おかしい、と続けようとするのに、何故だかミヒャエルはエリアスの言葉など知ったことではないというようにその行為をやめようとはしなかった。恐怖で背筋が冷える。彼は本当にあのミヒャエルなのだろうか。
困惑し、逃げを打とうとする腰を片手で引き寄せられ、二人抱き合っているような形になる。しかし、今与えられている刺激は安心どころか恐怖をもたらした。
「ミヒャエル、離して…!」
未知の感覚が恐ろしくてかちかちと歯を鳴らしながら、しかしエリアスにできるのは目の前のミヒャエルにすがりつくことだけだった。他にどうすればいいというのだろう。
今まで味わったことのない、暴力的な感覚だった。体中に電気信号が走っていた。変に頭と身体が熱い。脳に熱が集まって、思考が白に溶かされる。
「あ、やだ…いや、」
ついに涙がこぼれ落ちて、ミヒャエルの裾に縋った。これは恐ろしい。知らなくてもいい何かだ。
ミヒャエルはにこりと笑うと、あやすように涙の流れる頬に口づけた。赤い舌が涙を舐めとる。優しく笑っているのに、どうしてか震えるほどに恐ろしかった。
「エリー、怖い?」
問いかけられて安堵する。良かった、これでやめてくれるのに違いない。ミヒャエルは友達なのだから、エリアスが本当に嫌なことはしないはず。
うん、と素直に頷いた。
「怖いよ」
だから何か他のことをしよう、と続けようとしたエリアスの口がやさしく塞がれた。ふっくらした、柔らかい感触。心臓が小さく音を立てる。これは怖くない。
強張っていた身体から力を抜いて、おとなしく身を任せた。優しく情熱的な口づけに頭がとろりとして目を閉じる。
「……んぅ!?」
また身体に電流が走った。ふわふわしていた思考が大きな刺激で醒める。視線を下ろすまでもなく何が起こったか即座に分かった。ミヒャエルが蹂躙を再開していた。
「あ、あ、やだ、やめて…!」
身を捩って逃れようとすると乱暴にソファーに縫い止められ、身動きがとれなくなる。 口づけとは段階の違う刺激を処理することができない。悲鳴は彼の唇の中で死んでいく。空気が奪われて死んでしまう。
ぷは、と赤い唇を放したミヒャエルは悪戯っぽく緑の瞳を光らせた。それに何かを思う余裕もなく 、エリアスははくはくと酸素を求める。
「ねえ、エリー」
耳元にそっと口を近づけられて話しかけられても、未知の感覚に混乱する頭では返答のしようもなかった。 そしてきっと、ミヒャエルはそんなことは承知の上だったのだろう。
「僕、君のことは結構好きなんだけど」
「っあ!あ、あ、やだ、こわい、」
いつしか手の動きは更に激しくなっていって、激しい水音が部屋に響いた。吐く息は荒く小刻みになる。痙攣する小さな身体はミヒャエルにしっかりと捕まえられていて身動きも取れない 。白い肌はすっかり上気して桜色に染まっていた。
「たまにすごく腹立たしくなるんだ。どうしてかわからないけど」
「や、まって、なに、」
言葉の羅列など既に耳に入っていなかった。身体の中心から沸いてくる熱が正気を奪っていく。何より恐ろしいのは、もっと強い波がくるという確信めいた予感だった。それを何とか押しとどめたくて足を閉じようとしてもそこにはミヒャエルの腕がある。
「あっ…あ、いや、」
見開かれた大きな瞳からは涙が流れ、口元からは抑えきれない唾液がこぼれた。白桃のような頬はすっかり火照って、やっと十を過ぎた子供とは思えないほどの色香を発している。儚げで清冽な美貌はすっかり蕩けて、どこか淫靡ですらあった。性がまだ未分化の少年特有の危うげな美しさ。
ミヒャエルは軽く息を飲むと、誘われるように桜色の唇を奪った。幼い、甘い声が吐息の合間から漏れる。エリアスの涙に濡れた視界に、恍惚とした隻眼の少年の顔が焼き付けられる。
「あ、あ、うあ、や、やだ、こわい、やだぁ…っ!」
「エリー、かわいいよ。…ごめんね」
ミヒャエルは既に芯を持った自分のものを取り出して、エリアスのそれとひとまとめにした。そうして二人分のものを小さな手で擦りあげる。刺激が倍加して、小さな身体はミヒャエルの腕の中でびくびくと跳ねた。意味のない喘ぎが唇から零れ落ちる。
なにも知らないエリアスにも、今度こそ何か大きな恐ろしいものがくるとわかった。ミヒャエルの体にすがりついて、助けてくれと叫んでしまいたかった。
「や、いやだ、あ、…ぼく、おかしく、なって…」
「エリー」
熱を持った声に呼ばれて、涙に濡れた瞳で彼を見上げた。どこか昏い熱を帯びた緑の瞳。
「ミヒャエル、」
「ごめんね」
堕ちてきて、と言う囁きは、眼前で火花が散るほどの刺激の前であまりに小さかった。



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