画面に映し出された光景に、気が狂いそうになった。
家が破産して売られてしまった自分とは違い、学園で幸せに過ごしているものだと思っていた。優しくて明るい、大切な友達。思い出す資格もないと思っていた煌びやかな記憶。
その親友の、ミヒャエルのまだ未発達な身体が二人の男たちによって乱暴に犯されていた。白い腰が鷲掴みにされて揺さぶられている。彼はこんな不幸な目に遭わなければならない人間ではないのに。彼の泣きじゃくる声が聞こえてくる。ゆるして、やめて、たすけて、エリー。
全身がぶるぶると震えた。押さえきれない涙があふれる。エリアスを膝に乗せていた男を振り返り、必死で縋りついた。
「旦那様、やめさせてください、ミヒャエルにひどいことしないでください」
叫ぶように言うと、男は少し困ったような笑顔を浮かべた。小さな白い頬を包み込んで青緑色の瞳をのぞき込む。
「そうは言うけれどね、彼がこんなことになったのは全て君のせいだよ」
「僕、の」
「そうだよ、私の友人たちが君に興味を持ってね。けれど君は私のものだからね、代わりに君の友人であるミヒャエルくんを提供することにしたんだよ」
彼らも喜んでくれているようだ、という言葉は耳を通り抜けた。自分の代わり、と言う言葉が頭の中をぐるぐると巡る。
エリアスがミヒャエルと友達になってしまったから、彼はこんな目に遭っている。男たちに乱暴にされている。自分さえいなければ幸せに過ごせていたはずなのに。
ミヒャエルの身体が人形のように扱われ、乱雑に揺さぶられていた。肉のぶつかる激しい音が聞こえた。悲鳴と泣き声がずっと止まない。痛々しくてたまらない。死んでしまう、と思った。このままではミヒャエルが殺されてしまう。あんなに乱暴にしたら心が壊れる前に体が壊されてしまう。エリアスのせいでミヒャエルが死ぬ。
「ミヒャエル…!」
気絶していたミヒャエルに薬が打ち込まれて、悲鳴を上げて泣きじゃくる姿が画面に写し出されて気が狂いそうになった。本当に、ミヒャエルが壊れてしまう。何が何でもすぐ助けに行かなくては。半狂乱になって立ち上がると、膝ががくりと落ちた。
「え、」
慌てて立ち上がろうとして、身体中の違和感に気付いた。治まるどころか激しくなるその違和感は全身に広がり、やがて暴力的な強さになった。呼吸が上手くできない。 
頭も身体も変になってしまったみたいだった。何もされていないのに全身が疼いて、更なる刺激を求めて荒れ狂っていた。がくがくと震える身体を抱き締める。
「エリアス、おいで」
男があくまで優しく言う。いつもならおとなしく従うその言葉にはじめて首を振った。怖くて怖くてたまらない。
「い、や、やだ、こわい…こわ、いの」
両目から涙がぼろぼろと零れ落ちた。いくら気が強くても十と少ししか生きていない幼い精神は薬による強制的な感覚には耐えられなかった。
この上男に触れられたりしたら、本当に頭がおかしくなってしまう。気が狂って駄目になってしまう。きっとミヒャエルにも顔を合わせることができなくなる。一目だけでも彼に会いたいと、それだけが希望なのに。
ふむ、と男が残念そうに言う。うずくまる身体を撫でられるだけで心臓が張り裂けそうだった。
「そんなに辛いならやめてあげても構わないよ、君を壊したくはないからね。ただ、同じように薬を与えられてもああして頑張っている彼が不憫だねえ」
「…ミヒャエルも、」
その言葉に画面を再び見つめた。いたぶられている親友の姿に胸が痛んだ。ミヒャエルもこんな目に遭っているのか。きっととても怖いだろう。何がなんでも助けてなければならないと、そう思った。せめて、身代わりに、なれたら。
白い顔の輪郭を撫でて、男が囁く。
「エリアス、君が頑張ればミヒャエルくんを解放してあげる時期を早めてあげよう。今すぐに、とはいかないがね。君が私を満足させることがミヒャエルくんのためにもなるのだよ。…どうかな」
「ミヒャエルのためになる…」
ぼんやりと男の言葉を反芻する。自分が頑張りさえすればミヒャエルを助けることができると言う。それなら、怖いなどと言っている場合ではなかった。何が何でも助けなくては。
エリアスが頑張ればミヒャエルを助けて、学園に帰してあげることがもできるかもしれない。大事な親友のためならなんだってしよう。自分はもう汚れきってしまったけどミヒャエルは戻れる。そうでなくてはならない。
エリアスは男に縋りついた。生理的な涙に濡れた瞳で男の顔を見上げる。
「お願いします…旦那様、僕を、僕を抱いて、くださ、」
「いいだろう」
薬のせいで舌っ足らずになった声で懇願すると、男は満足そうに笑った。





エリアスはくたりとベッドに倒れ込んで細い息をしていた。ミヒャエルと男たちを映し出していた映像はとうの昔に終わって液晶が黒々とした光沢を放っていた。
小さく開かれた唇から時折喘ぐような声が漏れる。頭がぼうっとしていた。はじめは男のもので犯され、何度も何度も数え切れないほどに気をやった。そのたびに強制的な快楽を与えられて目を覚ました。これもミヒャエルくんのためだよ、と言われるたび力の抜けた身体を無理に奮い立たせた。お願いですからもっとしてください、と懇願すると男は満足したように笑った。はしたない言葉をたくさん言わされた気がする。
そのうち男の体力が尽きると、今度は道具で弄ばれた。無慈悲な機械が胎内で荒れ狂って、何度も何度も吐精した。その様子を男が微笑みながら見つめていた。結局何度達したのかわからない。細かな絶頂が絶えず襲ってきて、身体が壊れてしまったみたいだと思った。心臓が大きな音を立てている。身体を投げ出して、焦点の合わない目でぼんやりと天井を見上げていた。親切のような素肌にどろどろしたものが纏わりついていた。
身体に全く力が入らない。気が狂いそうなほどの快楽だけが全身を毒のように浸食している。気持ち良すぎて死んでしまいそうだ。全身の感覚が異様なまでに鋭敏だった。もうおかしくなっているのかもしれない。シャンデリアの灯りが滲んだ視界に移り混んでゆらゆらと揺れた。
首を動かすのも億劫で、視線だけを泳がせて男の姿を探す。男は黒革の椅子に掛けてワインを傾けていた。気がついたのかい、と優しく声を掛けられる。
「あ、ミヒャエル、は」
頭の中に唯一残っていた親友のことを問いかけると、男は優しく微笑み、安心させるようにエリアスの頭を撫でた。その手つきが心地よいと思った。
「君が頑張ってくれたから、少しは彼を解放する時間が短縮できるだろう。良い子だね」
「あは、」
男の言葉に心の底から安堵して、力の抜けた笑みを浮かべた。
良かった、と思った。ミヒャエルの役に立てたのだ。自分が少しずつ壊されて塗り替えられていく恐怖も、不快だったことが心地よくなっていくおぞましいまでの違和感も、頭がおかしくなりそうなほどの快楽も、全部彼のためになるのだ。それならいくらだって耐えられる。男に誉められれば誉められるほどミヒャエルが楽になるのだろう。大切な親友の為ならどんなことだってできる、とそう思った。
旦那様ありがとうございます、ととろけきった声音でなんとか感謝の言葉を述べる。男は優しい手つきでエリアスの小さな頭を撫でた。
「随分と汚れてしまったね。私と一緒にシャワーでも浴びようじゃないか」
「は、い」
こくりと頷くと、腰が抜けて立ち上がることのできない小さな躯を男が優しく抱え上げた。落ちないように男の首に手を回す。背に回された大きな手に安堵した。このひとのそばにいると安心する、と思う。優しくしてくれるし気持ちよくしてくれるし、ミヒャエルを解放してくれると約束してくれた。とても良い人だ。自分はもう、彼なしでは生きていけないだろう。
これから男に与えられるであろうものに期待して身体が疼いた。これもまた、ミヒャエルの為になるのだろう。男に抱きかかえられながらふわりと笑う。頑張って君のことを助けるからね、と心の中で呟いた。



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