灰白色の髪の子供が一人、公園に向かっていた。白い頬をぷくっと膨らませて、小さな歩幅で歩いている。人形のように美しい美貌は人目をそばだたせるのに十分で、通りかかる人々が何人か振り返ったが、目線の低い子供は向けられた視線に気づかなかった。
実際のところ、彼は人間ではなく多少の妖力を持ち合わせた猫である。エリアスという名のその猫は、飼い主の少女に叱られて家出してきた。甘やかされて育ったエリアスは怒られたのは初めての経験で、すっかり臍を曲げてしまっていた。
「僕は悪くないもん」
そう呟いて、頬を膨らませる。これまでずっと王子様のように扱われてきたから、怒られたのはエリアスにとって青天の霹靂だった。反省して謝ってくるまで帰ってやるもんか、と決めて公園に来た。
「…むー」
ブランコにちょこんと座って漕ぐと、軋んだ音がする。わあわあ騒ぐ子供たちを眺めていると少し寂しくなった。目立つ猫の耳と尻尾はニット帽と膨らみのある服で隠しているとはいえ、普通の子供と遊んでしまうと危ないかもしれない。猫のミヒャエルやエリーゼを誘えばよかった、と少し反省した。
ふっと目の前に影が差して顔を上げる。穏やかな笑みを浮かべた黒髪の若い男が目の前に立っていた。ぱちぱちと瞬いて彼を見上げる。
「お兄ちゃん、だあれ?」
きょとんと首を傾げると、男は更に笑みを濃くする。優しそうな人だな、と思った。
「初めまして、僕はミヒャエルだよ」
にっこり笑った男は成熟した印象があったが、少し飼い主の少女や猫のミヒャエルと雰囲気が似ている。彼らに似ているのだから信頼できるかもしれない、と警戒を解いた。
「良かったら、僕と一緒に遊ばない?」
「うーん…」
できることなら一緒に遊びたいけれど、猫の耳や尻尾があることを知ったら大騒ぎするだろうか。悩んでいると男が少し哀しげに眉根を下げる。
「僕と遊ぶのは嫌かな?」
「いやじゃないけど、知らないひとと遊んだらだめなんだよ」
「知らない人じゃないよ、僕はミヒャエルだって言ったでしょう」
「そっか」
納得してこくんと頷くと、男はにっこりと笑った。おいで、と手を広げた男にくっつくと軽く抱き上げられる。猫の時に抱かれ慣れているエリアスは何一つ疑問を持たなかった。周囲から見れば仲の良い親子か兄弟に見えたことだろう。
どこへ行くのかな、と呑気に考えていたエリアスは気がつかなかった。男が邪悪な笑みを浮かべていたことに。




着いたのは洋風の広い家だった。エリアスを抱いたまま男は鍵を開ける。瞬きをしながらおとなしく彼の仕草を見つめた。彼はしっかり躾られた猫だったので。
部屋でエリアスを下ろすと、好きに遊んで良いよ、と男は優しく笑う。部屋の中には遊び道具がたくさんあって、色とりどりの飾り付けがされている。遊園地のような風景だ。他にも子供が住んでいるのかもしれない。
「わあ、すごい…!」
目をきらきらさせて歓声をあげる。見たこともない玩具もたくさんあった。大きな色とりどりの毛糸玉や積み木を見ただけで、尻尾と耳が服の中でゆらゆらと動いた。遊んでみたい玩具がたくさんあって目移りして困るくらいだった。
ぺたんと座り込んで、歓声を上げながらはしゃぎまわる。男はしばらくの間、 エリアスが無邪気に遊ぶのを満足げに眺めていた。
楽しいかい、と聞かれて笑顔で頷いた。男は優しく笑う。
「ここにいればなんでも好きなことをさせてあげるし、好きなものをあげるよ」
まるでエリアスを王子様か何かのように思っているような口振りだ。ほんの少し、飼い主の笑顔が浮かんだ。楽しげにはしゃぐ黒髪の少女。
「…ぼく、もう帰るね」
ふいにとても寂しくなって、小さく呟いた。ここはとても楽しいけれどエリアスの家ではないのだ。男は哀しそうな顔をする。
「どうして?ここにある玩具は気に入らないかな」
「ううん、楽しいよ。だからまた遊びにくるね」
「そんなことしなくたって、ここに住めばいいのに」
「だって、僕はもうおうちがあるもの。ごめんねお兄ちゃん」
きっとこの人もお友達が欲しいのだろう。けれどエリアスはもう飼われているのだ。この男の元に行くわけにはいかない。精一杯の誠意を込めて謝ると、男の緑の瞳が暗い光を放つ。
「おかしいね。君は家出してきたのに。ここにいたほうが幸せになれるよ、猫のエリーくん」
「…なんでしってるの?」
「僕は魔法使いなんだよ」
本能が警鐘を鳴らした。逃れようとした身体が男に抱きすくめられる。びくんと固まった身体を男の手がねっとりと撫でた。服の中に男の手が侵入してくる。
「やぁ、やだ、」
胸元や足の間を執拗に触られると身体がぞわりとした。怖くてやめてほしくて男にすがりつくと、彼はにっこりと笑う。まろやかな頬をぺろりと舐めあげられて悲鳴をあげた。
「かわいい」
恍惚とした表情に恐怖を感じた。彼は何かひどいことをしようとしている。
「や…!はなして、はなしてよ…!」
か細い手足を振り乱して暴れる身体を男は優しく抱き留めた。露わになった尻尾をなぞりあげる手つきが気持ち悪い。引っかこうとしても人間の子供の、しかも切りそろえられた爪では全く威力が無かった。男に愛撫されていくうちに身体から力が抜けていく。かわいいよ、と甘い声が耳元に注がれた。
「ふぁ、あ、あ、やら、やだぁ…っ」
男は小さな身体を抱きしめるようにして、ねっとりとした手つきでなで回した。唇から甘い声が漏れて、頭が真っ白になる。
いつの間にか服は脱がされて、幼い裸身や隠していた耳や尻尾が露わになっていた。恐怖に垂れた耳に男の手が触れる。
「あ、あ、だめ、はなして…!」
耳はエリアスの急所の一つだ。触れられた瞬間、身体がひくひくと震える。男は手を止めるどころか殊更激しく責め立てた。唇が滑らかな肌に触れてぞくりとする。
「いや、耳はやなの、やめてよ…!」
「大丈夫、痛いことはしないから」
訳の分からないことを言われて頭がひどく混乱した。嫌だと言っているのに何故やめてくれないのだろう。人間はこんなにも恐ろしいものだったか。涙がぼろぼろと零れる。
男はエリアスの軽い身体を抱え上げると、向かい合うように膝の上に座らせた。熱い、堅いものが足の間に触れてぎょっとする。男はいつの間にかズボンと下着を脱いでいた。ぬるりと太股が濡れる。
「や、なに、するの…?」
「気持ちいいことだよ」
男はこの上なく優しく笑うと、腰を動かした。ひ、と息を飲む。
「あっ、あっあっあ…!や、やだ、やめて、やめてぇ…!」
ぐちゅぐちゅと厭らしい水音が響く。感じたことのない刺激に頭が混乱した。足の間が変に擦れて身体が切なくてたまらない。あ、あ、と意味のない声が唇から零れた。
「やだ、ぼく、へんになっちゃう…!おねがい、やめて…!」
「駄目だよ」
あくまで優しい声音で男は言うと、更に腰を早めた。男のものが体積を増して、刺激を与える場所が増えていく。逃れようとした腰は片手で容易く抱き留められた。ひくひくと身体が痙攣して目の前が白く塗り固められる。大きな手が下肢に伸びて、蜜を零すものを掴んだ。
「あっ、あ、なんか、なんかきちゃ、ぁ、ふぁあああ…!」
エリアスは爪先を丸めながら、がくがくと大きく痙攣した。何かが身体から抜けていくような感覚を覚える。これはなんなのだろう。未知の感覚に頭がついていかずに、涙が溢れる。
混乱するエリアスの唇を男の舌が舐めた。ねっとりと舐られて頭の芯が痺れたようになる。半開きの唇の端から唾液が伝った。
男のものは萎える素振りすら見せなかった。エリアスの小さな身体は何度も何度も優しくかつ激しく揺さぶられて、びくびくと震える。かわいい、と囁く声が毒のように耳に注がれた。
「っく、」
「あっ、あ…!あつい、あついよぉ…っ!」
男の身体が震えたかと思うと、ぱたぱたと足の間に熱いものがかかった。それすらも恐ろしくて涙が零れる。訳が分からなくて怖くてたまらない。エリー、と柔らかなテノールが愛しげに自分の名を呼ぶ。
「も、や、やら、ミヒャエル、たすけて、」
ひくひくしゃくりあげながら大好きな猫の顔を思い浮かべると、男の動きが一瞬止まる。何やら思案する風な男を潤んだ目で見つめた。ミヒャエル、と男が小さく呟く。
「〜〜っ!」
その僅かな隙をついて、猫の姿に戻った。一気に体積の小さくなった体でするりと男の腕の中から抜け出す。男はエリアスを捕まえようと手を伸ばしてきたが、小さな俊敏な身体は人間に易々と捕まるほど鈍くはない。
男の舌打ちするような声を背に、エリアスは全力で駆けた。




「エリー、エリー」
「ふみゅ…」
「エリーってばー、おきてよー」
ぼんやりと目を開くと、目の前に黒くて大きな猫がいた。ミヒャエル、と口の中で呟く。ぼさぼさの長い毛がそよそよと触れてくすぐったい。
ううんと唸りながらきょろきょろと周りを見ると、そこは見知らぬ狭い路地だった。人間の姿で家出したはずだったのに、いつの間に猫の姿になっていたのだろう。着ていた服はどうしたっけ、と考えたけれど思い出せなかった。何かとても怖いことがあった気がする。
「僕、何してたんだっけ…?」
「もー!ぼく、エリーのことずうっとさがしてたんだよ。どこにいたの?」
「えっと…」
思い出そうとしても、自分がどこにいたのか思い出せない。叱られて家出したのは覚えているけれども。
「ばか。エリーのばか。ぼく、すっごくしんぱいしてたんだよ」
珍しく怒ったような声を出すミヒャエルに焦る。ごめんね、と一生懸命鳴いても大きな黒猫はむくれたままだ。
「とってもさみしかったんだよ。もうあえなくなったらどうしようっておもってすっごくこわかったの」
「ミヒャエル、ごめんね」
「エリーはわるいこだからはんせいしなさい。これからはずうっとぼくのそばにいないとだめなんだからね」
「うん、わかった」
「えへへ、それならゆるしてあげるー」
こっくり頷くと、ミヒャエルは機嫌を直したらしくごろごろと喉を鳴らした。エリーエリーと鳴きながら身体をすり寄せてくるミヒャエルを見ていると、もやもやした気分が失せていく。同時に、ひどい眠気に襲われた。
「なんだか僕、すっごく眠いや…」
「エリーねむいの?なら、ぼくがおうちまでのせてってあげるよ」
エリーはぼくのだもんね、と誇らしげに鼻を鳴らすミヒャエルがなんだかおかしくて、されるがままになった。ふわふわした黒い毛はクッションみたいで気持ちいい。ちょっと埃っぽいのはこの際我慢しよう。
「ねえ、僕は君が一番好きだよ」
「ほんと!?あのね、あのね、ぼくもエリーだいすき!」
心の底から嬉しそうににゃごにゃご鳴くミヒャエルの声を聞いていると、それだけで穏やかな気分になる。くすくす笑いながら目を閉じた。
ミヒャエルのそばにいれば、きっとなにも悪いことなんて起こりっこない。



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