「なにそれ?」
初めて聞く単語にきょとんとして、ミヒャエルの顔をまじまじと見つめた。
ひめはじめ、ってなんだろう。ミヒャエルの国の風習かなにかだろうか。ひめはじめがしたい、と彼が言ったのだ。少し緊張したみたいな面持ちで。
「そ、そっか、エリーは知らないんだ…ならいいや」
「なんで?君が言い出したんだろ。説明してよ」
唇をとがらせてミヒャエルをじっと見ると、少し垂れた緑の瞳が困ったような色を浮かべた。ミヒャエルがこんなに困るなんて、ひめはじめとはいったいなんなんだろう。
ミヒャエルはあーうーと変な声を上げてしばらく天を仰いでいたけれど、視線を逸らさずに見つめているとやがて根負けしたみたいにため息をついた。
「姫初めっていうのはその…一年のはじめに男女が、する、ことで…」
ミヒャエルの顔は真っ赤になっていて、語尾はもう聞き取れないくらいだった。僕の顔も赤くなる。なにを言おうとしているのかわからないほど鈍くない。
僕たちは結婚したばかりなのだけど、あんまりそういうことをしたことはなかったり、する。ミヒャエルのことを愛しているけれど、僕の中ではなんというか性的なことを言うのにまだ抵抗があるみたいだ。本当は、ミヒャエルとするのは嫌いじゃない。…いや、むしろ好きなんだけど、それを言ったら幻滅される気がしている。
でも、そういう行事があるっていうのならいいきっかけになるんじゃないだろうか。きっと、ミヒャエルだってそのつもりで言い出したんだと思うし。僕としたいと思っているのなら嬉しいことだ。
「えっと、その、きっ、決まり事なら仕方ないよね…」
「エリーは嫌?」
「嫌じゃないよ!」
変に大きな声が出てしまって、ミヒャエルがぎょっとした顔をした。しまった、とは思うけど撤回するつもりはない。僕だって、ミヒャエルとしたいんだから。
寝室に入って、二人で服を脱いだ。裸を見られるのはさすがにもう慣れた。ミヒャエルの身体を見るのも。他の男なんて知らないけどきれいだと思う。
「えっと、してみたいことがあるんだけど…いいかな?」
「うん、いいよ 」
なにをするかも言ってないのに当たり前みたいに許可されるのは、信頼されているのか彼が優しすぎるのかどっちなんだろう、と思ったりしてしまう。夫婦なんだからもっとわがままを言ってくれてもいいのに。贅沢なことだとは思うけれど。
ミヒャエルにベッドに座ってもらって、僕はその下にぺたんと座った。どこか緊張した表情のミヒャエルに見下ろされて、なんだか僕までどきどきする。緊張をほぐすために笑いかけると、大きな手が頭を撫でてくれた。
胸に手を当てて、深呼吸をする。ミヒャエルと結婚してからちょっとだけ胸が大きくなった気がする。するときに揉まれたりするから、だろうか。今もあんまり大きくはないけど、これだけあればたぶん十分だ。
「エ、エリー!?」
ミヒャエルの驚いたような声を無視して、両手で胸を挟む。薄い肉を必死で寄せ集めて、かろうじてミヒャエルのものが挟み込めた。軽く圧迫すると、僅かに反応を示す。
「よし、」
達成感で頬が緩む。男はこういうことをすると喜ぶのだと、気まぐれに読んだ雑誌で見かけた。微笑んで見上げると、ちょっとだけミヒャエルの顔が赤くなっていた。眉根を下げて、困ったような顔をしている。
「エリー、無理しなくてもいいのに…」
「えっと…嫌だった?」
やっぱり僕の小さな胸じゃ駄目だったろうか。申し訳なく思いながら言うと、ミヒャエルが慌てたような声を上げた。
「い、いやいやそんなことないよ!嬉しいけど、嫌々やってるんじゃないかなって…」
困ったように眉根を寄せるミヒャエルの言葉に、ちょっと表情が固まる。もしかしたら僕は、ミヒャエルにたくさん我慢させてきたのかもしれない。気恥ずかしくて嫌われたくなくて、あんまり誘ったりしなかったから。
「嫌なんかじゃないよ、僕がしたいからするの。…まあ、あんまり胸がなくて気持ちよくないかもしれないけどさ」
冗談混じりに苦笑してみせると、ミヒャエルの顔も綻んだ。
「僕は、エリーならなんだっていいんだよ。君がしてくれることなら、なんでも嬉しい」
「あはは、なにそれ。…僕だって、君のこと気持ちよくできるんだからね」
だって僕は、ミヒャエルの奥さんなのだし。いつもしてもらってばっかりだから、ちゃんと気持ちよくしてあげたい。
「く、うっ…!」
素肌に触れるミヒャエルのものが燃えるように熱くて、火傷してしまいそうな錯覚を覚えた。ぐにぐに圧迫するのを続けると堅さが増していく。ぬるりと谷間を先走りの液体が伝ってお腹のあたりまで落ちた。ミヒャエルをちゃんと気持ちよくできているのだ、とと思うだけで嬉しくてたまらない。
「エ、エリー…!離れて!」
「え…?わっ、」
白濁した熱い液体が顔や胸にかかってぱちぱちと瞬く。どろっとしたそれがちょっとだけ口に入って苦かった。何度か飲んだことのある味。
「ご、ごめんエリー!」
驚いて硬直していると、ミヒャエルが慌てた様子で胸元を拭ってくれた。垂れた優しそうな瞳が申し訳なさそうに下がっている。
「気にしなくていいよ。…だって、ミヒャエルを気持ちよくできたってことだしね」
微笑みながら言うと、かあっとミヒャエルの顔が赤くなった。僕も急に恥ずかしくなる。やっぱり、はしたないことを言ってしまっただろうか。でも、嬉しかったのは本当なのだ。ここで黙ってしまったら、いつもの二の舞になってしまいそうだ。だから、軽く息を吸って緑の瞳を見つめた。 
「あのね、ミヒャエル。…僕はたぶん、君が思ってるよりずっとずっと君のことが好きだよ」
いつもあんまり素直に言えなくて、好きって言われるばかりだけど。でも僕は、ミヒャエルのことが大好きなのだから。
引き上げるようにぎゅっと強く抱きしめられて、きゅんと胸が疼いた。力強いのに優しい手つき。僕の最愛の旦那様。
「僕も、君を愛してる」
「…うん」
僕はとても幸せだ。愛する人のそばにいられるのだから。ミヒャエルとだったら、なんだってできる気がする。
優しく身体を抱えられて、ベッドに運ばれる。そんな柄じゃないけど、お姫様にでもなった気分だ。とても安らかな心地。ミヒャエルは絶対落としたりしないと信じてる。
二人で選んで買ったベッドは広くて柔らかい。ミヒャエルを見上げると、優しく頬を撫でられた。今日は彼のことが好きなんだと何度も自覚させられる。幸せだけどちょっぴり恥ずかしい。ミヒャエルも、僕のことを同じくらい好いていてくれたらいいと思う。
「ひゃ…っ」
ミヒャエルの細くて長い指が足の間に触れて、思わず声が漏れる。そっと中に入ってくるのがわかって、心臓が跳ねた。早くはやく、慣れてしまいたい。そしたらもっとたくさん、ミヒャエルとできるだろうから。
「あっ、んん!はぁ…っ」
少しずつ増えた指が出入りするたび粘ついた水音が聞こえてくる。ぎゅっと目の前の首に抱きついた。恥ずかしいけど、身体がミヒャエルのものを受け入れるための準備をしているんだ、と思うことにした。これから一生、ミヒャエルとだけするのだから恥ずかしがることもない。まだ慣れてはいないけど。
「あ、あ、ん…!ミヒャエル、も、いいよ…っ」
自分で足を開いて、潤んだ瞳で彼の顔を見つめる。ミヒャエルは優しいから、いつも待たせてばかりだ。僕は大丈夫なんだって示したい。
「うん、…いれるよ」
「あ、ああっ!ん、や、おっき…ふぁっ、あああああん…っ!」
大きくて堅いものが中に入ってきて、必死に大きな背中にしがみついた。僅かな痛みと圧倒的な快感。初めてしたときはあんなに痛かったのに、と熱っぽい頭でなんだか懐かしさを覚える。今はもう、ミヒャエルの形を覚えている。
深くミヒャエルと繋がって、とろりと身体が溶けてしまいそうな錯覚を覚える。このまま一つになりたいという思いと、優しく触れてもらいたいというおかしな欲求が浮かぶ。
「あっ、そこ、いいの…きもちいっ、っあ!ミヒャエル、おねが、もっ、と…!」
「ここがいいの?」
「ひゃあああ!あ、な、中、すご、いいの…!んっ、ああああんっ!」
腰を優しく支えられて、中を激しく突かれる。手つきや表情は優しいのに腰の動きは熱っぽくて激しくて、気持ちよくてたまらない。他の人としたことなんてないけど、ミヒャエルはすごく上手だと思う。それがちょっと悔しくて、でもやっぱりどうしようもなく好きなんだ。
「ひ、あう、あ、だめ、ぼ、僕、また…っ、あああっ!」
突き上げられるたびにひくひく身体が震えた。ミヒャエルはまだ達していないのに、僕ばかりが感じている。ちょっと悔しくなって、目の前の肩に唇を寄せた。ちゅ、と音を立てて吸うと白い肌に赤い痕が残る。
「は、あっ…エリー?どうしたの?」
「は…っ、ぼくだって、君に痕つけたいんだよ」
だって君は僕のだからね、と耳元で囁くと、ミヒャエルのものがまた大きくなったのを感じた。思わず身体が反って嬌声が漏れたけど、彼が僕で気持ちよくなっているのだと思えて少し誇らしい。
「そうだよ。僕は、君のものだ」
「んっ、は…ミヒャエル…」
ねだるように口をとがらせると唇が降りてきた。手足を絡めて大きな身体を抱き留める。すき、だ。僕もミヒャエルだけのものでいたい。
時折触れるひんやりした金属の感触に愛しさを感じる。お揃いで買った左手の結婚指輪は、ミヒャエルが僕のだって証だから。
「は、あ、ああっ…!ミヒャエル、すき、好き、だよ…!ふぁ、あああん!」
「うん、エリー…僕も、君を愛してる」
「ひぁう!は、あ…っ、すき、ずっと、そばにいてっ、あっ、ああ…っ!」
足がひくびくと痙攣して、頭の中も目の前も真っ白になる。渾身の力を込めてミヒャエルにすがりついた。無意識に背中に爪を立ててしまう。ミヒャエルと、どうしても離れたくない。大好きな彼と一つになれて二人で気持ちよくなれて、すごく幸せだ。
「は、あっ…エリー、僕、もう、」
「ん…っ、いいよっ…、あ、ああああああ!」
どくどくと注がれる熱に、体中が歓喜の声を上げた。ずっとずっと繋がっていたい。ミヒャエルのものでいたい。だって僕は、彼のことを愛しているのだから。




薄く目を開いて、また閉じる。心地良い疲れが身体に残っていて、ふわふわした気分だった。穏やかで幸せな眠気。
優しく髪を撫でる感覚を覚えて、ぼんやり目を開く。目の前でミヒャエルが微笑んでいた。お互い裸で、向かい合うように寝ていたようだ。白い肌には僕のつけた痕がまだ残っていてちょっと嬉しくなる。
「おはよう、エリー」
「うん…おはよう」
窓から日が差して、鳥の声が聞こえている。雪の降る季節だし、おまけにまだ早い時間なのだろうけど、ミヒャエルが隣にいるから温かい。
「あけましておめでとう。今年も、これからもよろしくね」
「…僕こそ、これからもよろしくね」
笑ってミヒャエルの頬を撫でると、ぎゅっと優しく抱きしめられた。大好きな彼の腕の中にいられて、幸せだ。今年も、これからも、ずっとずっと側にいたい。
「…せっかくの新年だし、もっかい、する?」
悪戯っぽく笑ってみせると、ミヒャエルが目を見開いて、やがて嬉しそうに笑った。形のいい唇に口づけると彼も応えて、更に口づけが深まる。
どうせ明日も休みなのだし、たまにはいいだろう。僕だって、ミヒャエルと長く一緒にいたいのだから。



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