「いい加減、謝ったらどうなの」
突き放すような言葉に、ぎりと歯噛みする。
断続的に与えられる刺激から逃れようと、ぎゅっとシーツを握りしめた。こんなことで謝るものか。確かに自分だって悪かったかもしれない。でも、こんな手段で謝らされるなんて嫌だ。
原因がなんだったのか、もう覚えていない。最初はつまらない口喧嘩だったように思う。それが少しずつ激化して、この有様だ。
乱暴にベッドに押し倒されて、指でぐりぐりと中を責められている。無理矢理快楽を与えられて体に中途半端な熱が集まっていた。そんな状態では碌に抵抗することもできず、ミヒャエルにされるがままになっている。自分があまりに無力なことにも、こんな手段を取るミヒャエルにも苛立ちを覚える。
「っ、謝ったり、しないから。…卑怯者」
「…意地っ張り」
ひやりとした声が耳を打つ。長い指が中を乱暴にかき混ぜた。粘ついた水音が聞こえないよう必死で耳を塞いだ。奥まった部分を抉られると、触れてもいないのに体の真ん中に熱が集まるのがわかる。歯を食いしばって耐えようとするのに、荒い息が漏れてしまう。
「は、ぁ…は、」
体中が火照って熱を帯び、背中につっと汗が伝う。限界が近づいているのだ。ミヒャエルは全く平然としているのに。羞恥心で死んでしまいそうになる。せめて表情を見られたくなくて、ぎゅっと目を閉じる。
達しようとしたその瞬間に、ずるりと指が引き抜かれた。今にも放出されようとしていた熱が行き場を失う。
「あ…」
涙に濡れた視界で、糸を引く指先を見つめた。もう少し、だったのに。
「…やらしい」
笑い含みの声に、かっと顔が赤くなる。はしたないことを言ってしまいそうになった自分にも腹が立ったけれど、それ以上に怒りがこみ上げた。何も知らなかったエリアスをこんな体にしたのはミヒャエルなのに。緑の隻眼を睨みつけると、愉快げに笑っていた表情がつまらなさそうなものに変わる。
しゅるりとネクタイが抜かれ、素早い手つきで視界が閉ざされた。目の前が一気に暗闇になる。
「何するんだよ!」
「エリーが謝らないからだよ」
「っ、ん」
そっけない言葉とともに、首筋に柔らかな唇が落とされた。熱い舌に首から胸にかけてじっとりと舐められ、体が粟立つ。熱い吐息と、肌に唇が触れる音が響く。軽い愛撫をされているだけなのに、身体は律儀に反応を返す。ミヒャエルがどこを触るのか全くわからないのが更に感覚を鋭敏にする。こんな風に一方的に感じさせられるなんて不本意極まりない。自分ばかり翻弄されるだけなんて嫌だ。
「もう、もういいだろ、…こんなのやめてよ」
「なら、僕に何か言うことは?」
すでに心は折れそうになっていたけれど、その言葉にむっとして口を堅く閉ざした。意地を張るのが賢い振る舞いではないと分かっていても、ミヒャエルが相手だとなかなか冷静になれない。対等でありたいと思っているから。 
「ふーん…」
何も言わずにじっと押し黙っていると、唐突に太ももを掴まれて思い切り大きく足を開かれた。身体が強ばるのが自分でもわかる。乱暴にされるのではないだろうか、と頭の隅で恐怖を覚えた。彼はいつも優しいけれど、今は怒っているのだから。
「ひ…っ!?」
ずちゅりと湿った音を立て、冷たく堅い物が一気に中に入ってきた。快楽に咽ぶ体とは裏腹にさっと頭が冷える。こんなものは欲しくない。ミヒャエルのものでなければ嫌なのに。そんな思いも虚しく、かちりとスイッチを押す無慈悲な音がする。中の機械が振動しはじめた。人工的な動きが前立腺や内壁を刺激し、火照った体をいたぶる。耐えきれず悲鳴をあげた。
「抜いて、よ…!」
「そうして欲しいなら、先に言うことがあるんじゃないの?」
「っ、!」
更に激しくなった振動が、無慈悲に急所を押しつぶす。機械が中で滅茶苦茶に荒れ狂って、背骨から電流が走った。せめて足を閉じたいのに、ひくつく身体は言うことを聞いてくれない。不規則な機械音が頭に響く。
「あっ、あぁぁあ……!」
びくびくと身体が跳ねて、頭の中が真っ白になる。太ももが細かく痙攣した。恋人であるミヒャエルの目の前で、足を大きく開いたまま達してしまった。それなのに機械は無慈悲に動き続けて、暴力的な快感を与え続ける。こんなもので気持ちよくなりたくなんてないのに。
足を閉じることも機械を抜き取ることもできず、何度も体がびくびくと跳ねた。そのたびに羞恥心が脳内を灼く。ミヒャエルはどんな顔をして見ているのだろう。機械で一人だけ気持ちよくなってしまうなんて。自分のはしたない様子に呆れているのか、それとも怒っているのか。何も言葉を発してくれないからわからない。このまま見捨てられてしまうのではないだろうか。頭は熱いのに、ひどく寂しくてくるしい。目隠しにされたネクタイが涙を吸って濡れた。
「も、や、ゆるして…!」
「ごめんなさいは?」
「あ…っ、…ごめ、なさ、…ひっ!」
なんとか謝罪の言葉を発しようとしたのに、機械に無理矢理快楽を与えられてはくはくと唇が戦慄いた。全身が熱くてくらくらする。はやく解放してほしい。あつくてあつくて、体が壊れてしまいそうだ。
「うん。許してあげる」
耳元で穏やかな声が聞こえた。目隠しが外されて、涙に濡れた視界にミヒャエルの笑顔が現れた。どうやら怒ってはいないらしいことに心から安堵する。頬に触れる手のひらがひんやりと心地いい。唇が額に触れた。
「ぁ…っ」
差し込まれていたものが一気に引き抜かれて、ひくひくと身体が震えた。優しく抱き寄せられて触れた胸から、ミヒャエルの心臓の音が聞こえる。深く息を吐いた。
「それじゃ、約束通り触ってあげるからね」
彼の大きな手が開かれたままの足の間に伸びる。触れられるだけで身体が跳ねた。
「いや、」
「え?」
首を振って拒絶すると、ミヒャエルは怪訝そうに眉を顰めた。違う、今欲しいのはそれじゃない。
「はやく、ミヒャエルのちょうだい…」
高い位置にある顔を見上げて、とろりとした声で懇願した。
熱に浮かされた頭は蕩けていた。ミヒャエルとひとつになりたい。はやく、ミヒャエルのもので貫いて欲しい。他のものでは嫌だ。心も体も、彼を激しく求めている。
ごくり、と喉が鳴る音を聞いた気がした。
大きく開かれた足の間に堅く張りつめたものが押し当てられ、身体が歓喜する。指や機械に押し広げられたそこは、抵抗もなく彼を求めた。
「エリーの、ばか…!」
「ふぁ、あああ…っ!」
張り詰めたものが身体を一気に貫いた。ずん、と最奥を貫く衝撃。ずっと待ちわびていたものがやっと与えられ、全身が悦んでいた。びくびくと体が痙攣する。離れたくなくて、のしかかってくる大きな体に必死で腕を回した。ひっきりなしに甘い高い声が出る。抑えることなんてとてもできそうにない。
「すき、だいすき、ミヒャエル、あ、ひああぁ…っ」
「ああもう、なんで、こんなときばっかり…!」
なぜだか常より動きが性急で、理性がぐずぐずに溶かされる。もっと、もっとしてほしい。焦らされすぎたせいか、頭がだめになってしまったみたいだ。強い力で抱きしめられて安心する。ミヒャエルのことが好きだ。どうしようもないくらい。
「はぁ…っ」
足を引きつらせて達した身体からミヒャエルが離れようとするのを、腕を伸ばして抱き留めた。まだ、離れたくない。ひとつになっていたい。耳元に唇を寄せて囁く。
「もっと、」
「…もう、知らないからね!」
「っあ!」
腰を持ち上げるようにぐっと抱き寄せられて、彼の膝に座るような形になる。小柄な体が浮いて、彼のものがさらに奥深くまで侵入してきた。目の前の体にしなだれかかるように腕を回すと、唇が乱暴に塞がれた。熱い舌に夢中で応える。熱くて熱くて、溶けてしまいそうだ。二人とももう限界が近いのだと、経験的に分かった。ぎゅっと中を締め付けて、懸命にすがりついた。
「っあ、中に、だして…!」
「…っ!」
強く抱きしめられて浮遊感に囚われる。眼前にミヒャエルの切羽詰まったような顔があって、愛しいと思った。熱っぽい声が自分の名を呼ぶのを聞く。
「あっ、あああ…!」
身体が内側から満たされて、充足感を得る。浮いた足先がゆらゆらと揺れた。痛いくらいの力で抱きしめられているのに手つきはどこか優しくて、幸せだと思った。やっぱり、好きだ。
全身から力が抜けて、ミヒャエルの身体にくったりと寄りかかる。お互いの身体が汗ばんでいたけれど、不快感はなかった。ひどく疲れて眠たかった。ミヒャエルが側にいてくれるなら何も心配はいらない。優しく髪が撫でられる感触を覚え、ゆっくりと目を閉じた。



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