きっかけは、ちょっとした悪戯心だった。
話題のミステリー映画の鑑賞中だった。少し時間を置いたとはいえ、人気作ということもあり満席だった。恋人のエリアスと隣同士で座れただけ僥倖だったと言える。
話自体は面白かったが、ふと隣の席で真剣に映画を見ている恋人に少し意地悪をしたくなって、腕を伸ばした。ちょっとした好奇心だ。
きちんと着込まれた服の上から胸元を触ると、小柄な体がひくりと震えた。きっと睨みつけてくる彼ににっこりと笑いかけ、親指で突起を摘むと押し殺したような苦鳴が漏れる。前に座っていた何人かがこちらを振り返って迷惑そうな顔をした。冷ややかな視線に刺されて、細い身体がびくりと固まる。
「エリー、騒いじゃ駄目だよ」
暗い中でも分かる程に紅く染まった耳元に囁くと、顔が俯けられた。
満員の映画館はしんと静まり返って、観客たちは夢中で映画に見入っている。銀幕の中では俳優が決めゼリフを吐いていた。この映画はなかなかに見応えがある。隣で震えている彼はそれどころではないだろうけれど。
ぐりぐりと摘んだり潰したりを繰り返すうち、胸の頂が手の中で堅く尖るのが分かって自然と口角が上がる。映画を見ながらだからやや乱暴な手つきになってしまう。ぐり、と親指で潰すと彼の身体が小刻みに震えた。細い足を閉じて耐えているのがいじらしい。
ぎゅっと腕を捕まれて見下ろす。常には白い頬が林檎のように紅く染まっていた。僅かに涙が浮いていて可愛いと思う。
「もう、出ようよ…」
「えー、今いいところだからだめ」
探偵役がぐるぐると歩き回って、犯人を言い当てようとしているところだった。せっかくのミステリー映画なのだから、犯人が分からずに終わってしまうのは詰まらない。
胸を弄う手を止めるつもりも全くなかった。せっかく気持ちよくなってくれているのだし、少し虐めたい気分でもある。
ぎゅう、と腕に顔が埋められて仕方なく彼を見る。灰白色の髪の間から覗く額が赤い。
「ミヒャエル、おねがいだから…」
「もー、仕方ないなぁ…」
気の強い彼らしくもない殊勝な言葉には、流石に折れざるを得ない。そっと立ち上がり、ふらつく身体を支えながらそっと劇場を出た。




トイレの個室に入ると、華奢な躯が倒れ込んできた。余程我慢していたのか、ひゅうひゅうと掠れた息が漏れている。声を出してはいけないという思いがあった分、余計感じていたのかもしれない。
「胸、そんなに良かった?」
「君が、変なところばかり触るから…っ」
「気持ちよかったくせに」
ズボンの上から反応を示す場所を掌で撫でてやると、体がひくりと震えた。幼いラインの頬が紅く染まる。
汚させないようにズボンと下着を下ろさせてやる。確かに存在を主張しているのが可愛らしかった。自分と同じものだというのに、彼のものだと思うとなんでも可愛く思える。恋人の欲目というやつかもしれない。
「もう胸だけでいけるんじゃない?」
「そ、そんなわけない…」
「じゃあ試そうか?」
「え、」
にっこりと笑うとシャツをはだけさせ、ツンと尖ったそこに手を伸ばした。小さなそこは既に赤く熟れていた。そのコントラストが白い肌に映えていて、女の子みたいだなと思う。
ぐにぐにと片手で突起だけを虐めながらもう片方をねっとりと舐めると、桜色の唇から熱いため息が漏れた。少し吊った青緑色の瞳がとろりと蕩けて、眦に涙が溜まる。悦んでくれているのだと思うと気分が良かった。
「やっぱりいいんだね」
「ん…っ、違、きみ、が…そこだけ、さわるから、っひ!」
赤い果実のようなそこに歯を立てると体がおもしろいように仰け反る。その反応がもっと見たくて、何度も軽く噛んでやった。甘い声が頭上から降ってきて達成感を覚える。ミヒャエルが触れたせいで感じているのが嬉しい。
ちゅ、と音を立てて吸うと白い躯が逃れようと腰を引いた。逃げる身体を片手で捕らえて更に吸い付く。吸っても何も出てこないことは分かっているけれど、なんとなく甘ったるいような錯覚を覚えた。飴玉を転がすように舌で舐りながら吸うのを繰り返す。もう片方の胸もぐりぐりと執拗に捻ったり、潰してみたりした。
「ひ、や、あっ、だめ、だめ、はなし…、ひぁあああ…!」
「わ、」
ひくん、と腕の中の身体が震えて彼のものが欲望を吐き出した。くったりと力の抜けた身体を慌てて抱き留める。桜色の唇が苦しげに息を吐いていた。
まさか、本当に胸だけで達するとは。自分で仕向けたこととはいえ、予想外だった。
「胸だけでいっちゃうなんて女の子みたいだね、エリー」
「……っ!」
白い手が伸びて、ミヒャエルの頬を打つ――そう思って身構えたのだが、振り上げられた手が途中でぴたりと止まって下ろされる。
白い頬に一筋、ほろりと涙が伝った。ぎゅっと唇を噛む仕草が幼くて慌てる。喜ばせて泣かせるのは好きだけれど、こんな風に泣かせるのは嫌いだ。
「あ、あー…ごめんね、やりすぎたよ」
見た目は儚い令嬢のようにすら見えるけれど、実際の彼は気の強い少年なのである。悪気があったわけではないが、女の子扱いは屈辱的だったかもしれない。素直に反省しなければ。
しかし、ここで気分を損ねられてしまうとミヒャエルの高ぶったものがそのままになってしまう。恋人のあんな姿を見たのだから当然の反応なのだけれど、なんとか許してもらえないだろうか。
「あの、続けていい…?」
「……いいよ、君のもそんなだし」
おずおずと問いかけると、少しの間の後に諒解の返事が返ってくる。ミヒャエルはへらりと笑って額に唇を落とした。
そんなに傷つけたわけではないのだと分かって安心した。大事な恋人なのだから、傷つけたり哀しませたくはない。
「じゃあ、壁に手をついてくれる?」
「うん…」
素直に後ろを向いた彼の細い腰を抱き寄せた。ふるりと震える身体を慰めるように優しく支える。
彼の精で湿らせた指を少しずつ入れて慣らすと、ぎちぎちと締め付けてきた。小柄なせいか、何度してもそこは変わらず狭い。差し込んだ指の本数を増やし、バラバラと動かしてゆっくりと中を広げた。
指を引き抜き、そのまま入り口に猛ったものを触れさせると、くちゃりと水音がした。痛みを感じさせないように、ゆっくりと腰を動かす。
「ふ、あ…っ」
先ほど達したばかりであるせいか、彼の身体は敏感な反応を示した。ミヒャエルのものを入れただけで達してしまうようにしてしまおうかな、と悪い考えが頭を過ぎる。きっと可愛く鳴いてくれることだろう。
誓って言うが、これはミヒャエルなりの愛情の発露なのだ。恋人であるエリアスを気持ちよくさせてあげたい。普段は気の強い少年なのに、こうしているときだけは素直な姿を見せるのも可愛くて好きだ。もっと見たくて、少し無茶なことをしてしまう。
「気持ちいい?」
「ん…っ」
胸を摘みながら腰のものを抜き差しする。きゅう、と締め付けてくる粘膜が狭くて暖かくて心地いい。華奢な薄い身体を後ろから愛撫する。そっとうなじに唇を落としてキスマークを付けてみた。この位置なら、きっとしばらくは気づかないことだろう。
「ん、んあ、は…ふ」
「かわいい…」
びくん、と震える身体に目を細める。すぐに達してしまう身体がいやらしくて可愛い。意地悪をした分、思い切り気持ちよくさせてあげたいと思った。ずちゅずちゅと音を立てて抜き差しすると上擦った嬌声が漏れる。この声も好きだ。
「いくよ、エリー」
「あ、ああ、ふぁああああ…!」
中に欲望を吐き出すと、彼の身体も細かく痙攣する。男の彼が孕むわけもないが、薄い胎内を満たしているという実感が快楽を煽った。愛してる、と耳朶に囁く。ただでさえ狭いそこがきゅうと締め付けられて、頭がとろけそうなほどに心地よかった。膝が折れそうな身体を優しく抱き留めた。
ずるりと自分のものを抜いて、軽い身体を抱き上げる。荒い息を吐く彼に優しく微笑んで見せた。終わった後のエリアスの顔はいつもより幼く見えて好きだ。
「気持ち悪いでしょ?今、掻きだしてあげるからね」
「うん…」
素直な言葉に笑うと、大きく足を開かせて洋式トイレに座らせる。とろとろとミヒャエルの出したものが伝うのが目に毒だった。
「あ、ひぁ…っ」
「おとなしくしててね」
彼の中を指で抉ると、そのたび白濁がこぼれだした。我ながらたくさん出したものだと感心してしまう。ぐり、と指を動かすと太ももが細かく痙攣した。狭い場所を抉るたびに甘い声が聞こえた。このままでいるのもつらいだろうからと、少し強引に掻き出してみる。
「〜〜っ!」
「エリー?」
丁寧に作業に集中していたら、突然頭が抱き寄せられた。逃がしたくないとでもいう風だ。疑問に思って見上げると、縋りつく力が増した。
「もしかして、」
きゅ、とすがりついてくる腕も顔も赤い。へにゃへにゃと頬が緩んだ。可愛い。本当は口に出して強請って欲しくもあるけれど、こうして恥じらいながら誘ってくるのも可愛いと思う。
「もっかいしようね」
優しく囁くと、赤く染まった顔がこくんと頷いた。幸せだな、とふわふわ笑みがこぼれる。だって両思いなのだから。
大きく開いたままの足の間から指を抜いて、小柄な身体に覆い被さる。じっとりと汗が伝う肌に触れるのが心地よかった。さきほど入れたばかりだからか、今回はすんなりと入れることができた。
「は、あ、はぅ、ふぁ…ん」
「エリー、可愛いよ」
頬を染めながら喘ぐ彼をうっとりと見つめながら、激しく腰を動かした。彼の身体も拙いながらに動きはじめる。たまらずに抱きしめると、背に腕が回された。
「あ、あ、すき、だいすき、」
「僕も好きだよ、エリー」
小さな身体を深く抱きしめながら唇を重ねる。とろけるような熱さに恍惚とした。ミヒャエルの手で感じてくれているのが何よりも嬉しい。普段は清楚そのものの顔が、すっかり情に酔っていた。はじめての頃から、ずっとミヒャエルだけが見つめてきた顔だ。
「こんな顔、他の人に見せたら駄目なんだからね…」
吐息と共に囁くと締め付けが強まった。快楽に溶けた瞳がミヒャエルを見返す。
「ん、…きみ、も、だめだからね」
「もちろんだよ」
「っあ…!だめ、それ以上、お、大きく、しないで…!」
無茶なことを言う、と苦笑が漏れる。恋人のこんな姿を見て、可愛いことを言われて、興奮しない男がどこにいるのいうのか。熱い身体を強く抱きしめた。彼はミヒャエルだけのものだと思うと独占欲が満たされた。何度も愛を囁きながら律動を早めた。
結局、それから三度ほど彼の中に吐き出してしまった。エリアスに到っては何度達したのかわからない。最後の方は理性を完全に飛ばしたのかあられもなく喘いでいた。録音しておこうかと思うくらい甘ったるい声だった。
くったりと腰の抜けた彼を負ぶさって映画館を出る羽目になった。幸いすぐに迎えの車が来てくれたから目立ちはしなかったものの、すっかり機嫌を悪くした彼は帰り道口を聞いてくれなかった。
「…でも、僕のこと好きでしょ? 気持ちいいこともさ」
そっと耳元に囁くと、向こうを向いていた頬が薔薇色に染まった。にっこりと笑って悪戯っぽく口づける。またあの映画館に連れて行ってあげよう。今度はもっと楽しくなるだろうから。



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