お願い躊躇しないで


 なまえと付き合いはじめてから、もう一年と少し経った。
 俺がお見合いに行っている間、ずっと校門で待っていたなまえの本気に触れ、ついに俺が素直になったのも、一年程前のことだ。
 あいつは三年生になり、直にこの星月学園を卒業する。

『卒業したら、私の初めてをもらってください』

 何ヶ月か前になまえから言われた言葉を、ふいに思い出す。
 あの時は返答をあやふやにしようとしたのだが、なまえもこれは譲れなかったようで、俺が『イエス』と言うまでお願いし続けた。そして俺が折れたのだ。
 これではだめだと分かっていたはずなのに、俺にはあいつのお願いを断ることができなかった。





「星月先生、今までお世話になりました!」
「ああ、大学行っても頑張れよ」

 ついに卒業式が終わった。
 卒業生は、思い思いに友達や後輩と別れを惜しんだり、教師にお礼を言ったりしている。
 あいつは、まだ俺の所へ来ていない。きっと、生徒会や弓道部、クラスの所にいるのだろう。そうと分かっていても、ついついなまえの姿を探してしまう自分がいる。

(俺もかなり溺れてるな)

 そんな自分に嫌気が差す。
 何食わぬ顔であいつのことを考えながら、生徒と会話をする。
 俺の頭の中はなまえだらけだ。

「琥太郎センセ!」

 高めの声が、俺を呼ぶ。俺が待ち望んでいた彼女が、やっと俺の前に姿を現してくれた。

「よう、なまえ」

 舞い上がってしまいそうな気持ちを隠し、余裕のある表情で振り返る。
 振り返った先には、髪の毛を巻いて、普段よりも格段と可愛く――いや、きれいになったなまえがいた。
 あまりのきれいさに俺が言葉を発せずにいると、なまえは「何かおかしいですか?」と首を傾げる。

「いや、きれいだよ」

 俺が本心を口にすると、まさかそんなことを言われるとは思っていなかったであろうなまえは、顔を真っ赤にさせおどおどしている。

 おどおどしていたと思っていたら、いつの間にかもじもじし始めていた。
 どうしたのかと思い尋ねると「約束のこと覚えてますか?」と聞いてきた。
 約束とは、アレだろう。卒業したら私の初めてをもらってくれ、というやつだろう。

「あ、ああ。」

 覚えてはいる。それに俺はなまえが好きだから、当然そういう気持ちも無かった訳ではない。むしろ、したかったくらいだ。
 だが冷静になって考えてみると、あいつの俺への思いは憧れなんじゃないか、とか本当に行為をしてしまったら、なまえが俺から離れたくなった時に困るんじゃないか、など考えてしまって、結局その気になれないのだ。

「私、早くしたいです」
「あのな、なまえ」
「逃げないでください。先生が言いたいことは、私なりに分かっているつもりです。先生の考えてることも…」

 切なそうに、なまえは微笑む。

 失敗した。なまえにこんな顔をさせてしまった。

「ごめんな」
「…それは、何に対しての謝罪ですか」
「なまえに辛い思いをさせてしまった事に対しての謝罪だ」

 俺はどうすればいいんだろうな…。

「先生に一つ、伝えておきます。私が先生としたいと言った理由は、先生を…琥太郎さんを逃がさない為です」

 なまえの言う言葉の意味が分からず、クエスチョンマークを掲げる。

「琥太郎さんは、そういった行為をしたら私が琥太郎さんから離れたくても離れれなくなると考えていますよね」
「ああ、よく分かったな」
「それくらい分かります。私は、その逆です。琥太郎さんから一生離れたくないから、だから行為を望んだんです」

 自分を――琥太郎さんを結びつける鎖として。だから、お願いです、となまえは続ける。

「後悔なんて絶対しません。だから琥太郎さん、私を信じてください」


 嗚呼、なまえは俺の事は全てお見通しなんだな。まだ抵抗はあるが、彼女が望むのなら――

「愛している」





お願い躊躇しないで



*****
企画サイト「夢ものがたり」へ提出
 素敵な企画へ二度も参加させて頂き、本当にありがとうございます。
 出会いと別れの「お願い躊躇しないで」というお題で、またも星月で書かせて頂きました。
 出会いと別れの別れの部分をピックアップして、別れが訪れないように必死なヒロインちゃんで書かせて頂きました。
 なんだか、内容が危うい気もちょっとしなくありませんが、こう言った内容の作品は初めて書かせて頂いたので、凄く楽しかったです!読んでいる方が楽しんでいただければ、凄く嬉しいです。嬉しさで空も飛べます(笑)
 本当に何度も参加させて頂きありがとうございました。またの機会があれば参加させてください。お願いします。


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