少女・七松のお話





あれから善法寺が追ってくる気配はないので安心した。
ホントあの時現れてくれた食満には感謝してもしきれない!よかった!
もー、さっさと部屋に帰って引きこもろう。
もう今日は何処にも行かない!


そう思いながら辿り着いた自室の戸を開けたんだが、


「なんでいるのよ…七松」


此処俺の部屋だよね?なんで其処にいるの?
男子部屋には女子立ち入り禁止なはずなんですが…

そして何故押し入れを開けて漁っている?


「七松…そこで何しているのかな?」

「うーん、名前」

「うん?」

「名前は春画とか置いてないのか?」


何処にも無いしつまんなーい、と唇を尖らせて言う七松に思わずズッコケてしまった。


「勝手に人の部屋に入って漁るな!」

そこに正座しなさい!と、七松に正座をさせる。
そのまま押し入れを片づけだした俺に大人しく正座をした七松が声を掛けてきた。


「ねぇねぇ名前!春画置いてないのか?」

「ないない」

「なんで!」

「なんでって、買いに行く暇ないし…というか女の子が春画春画言わない!」


さっきの善法寺といい、七松といい、なんでこんなにさらっと言うのかな!
黙っていれば普通に可愛いのに…なんて口が裂けても言えないけれど。
前、潮江にお前ら普通に可愛いし、モテるよなって話をしたら首を絞められたし。
何で褒めたのに殺されそうになるかな。ホント女ってわからん。

ため息をつきつつあらかた片づけを終えたら背中に重みが加わった。
それと同時に首に何かが巻きついてくる。

え、この肩甲骨辺りに当たってる柔らかい感触…まさか、

恐る恐る後ろを振り返れば目の前に七松の顔。



「な、ななな何をしている!何故に抱きつく!というか顔近い!」

急いで前を向く。
やばい、なんか無駄に顔近すぎて接吻してしまいそうな距離だった。

チラリと横目で見てみると…滅茶苦茶凝視されている!

「な、七松?」

瞬きせずに大きな目でこっち見てる、ずっと見てる。ぶっちゃけ怖い。
というか、

「ちょっと、その、…いい加減離れてくれないかな」

この子結構体型良いから、というか豊満な胸の持ち主だから余計に強調されてて困る!
なんかこう、ちょっと…


「ムラムラしてきたか?」


「何言っちゃってるのかな、この子!」

もうほんっと嫌だ!
ぶっちゃけ否定できないけど肯定したくない!

「名前は不能なのか?」

そして続けて言われた言葉にぽかんとした。

「…はぁ?」

なんか一気にテンションが下がってしまった。


「だって春画置いてないし」

「いや、だから、春画言うな」

「名前は女に興味ないのか?それとも不能なのか?それとも男色なの「ちょっと待って!!!!」

ちょっと怖いこと言いだした七松に嫌な汗が出る。
何!何なの不能って!だ、男色って!

「違うのか?」

「 違 い ま す ! 」

腕で大きく×の字を作って言ってみた。

「じゃあ、なんでムラムラしないんだ?」

「…一応聞くけど、何にムラムラ?」

「もちろん、わたしにだ!こんなに抱きついてアピールしてるのに!」


「えぇー…」


もう、ホント今日は何なのかな。
実はこっそりと何か課題かなんか貰ってるの?
くのいちみたいに男を落とせ!みたいな課題出ちゃってたりするの?

なんか、これでもし襲われたいのか?とか聞いたらもちろん!とか言ってきそうなノリで怖い。
さっきよりもぐいぐいと胸を押しつけてくる七松にとりあえず離れるように腕を掴んだ所でガラリ、と戸の開く音がした。


「おい、…………何を、している?」


またしても救いの手が…!?と喜んだ俺とは反対に、俺と七松の状態を見て一気に顰めっ面した救いの手、こと潮江は射殺さんばかりに俺を睨むのでした。



(あれ、これって俺が悪いの!?)

(名前ー?)

(………)


(ちょっととりあえず離れようか、七松(無言の視線が痛い!))






大胆不敵(だいたんふてき)
:度胸が据わっていて、恐れず、動じないさま。

(えぇー!まだくっついていたい!)



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