みんなおかしい話




苗字名前は不破雷蔵が大好きでした。

それを忍術学園で知らない人はたぶんいません。
そして雷蔵に変装して悪さする狐(三郎)と毎日喧嘩するのは5年ろ組の名物とも言われています。


「現れたな狐め…!」

「フッ、わたしを倒せると思っているのか?」


毎朝こんな会話が繰り広げられ、三郎に遊ばれるとバトる日々。
名前は大好きな雷蔵そっくりに変装できる三郎がとてもいけ好かないのです。
なんだか雷蔵とおそろい!みたいな、誰よりも雷蔵が大好きなんだぜ!をアピールしているようでとても憎らしかったのです。


自分の方が雷蔵大好きなのに…!




最初に雷蔵に変装した三郎を見て、不破雷蔵が二人!?と驚く周囲を他所に「この泥棒猫…!」とまるで夫の愛人に会った妻のような台詞を吐いたのもとても有名な話です。

とにかく、雷蔵が大好きすぎる名前はいつでも雷蔵と一緒にいたい!とアピールしています。
だから授業の実習でも、ペアを組めと言われれば当然のように雷蔵の元に行きます。


「雷蔵雷蔵!一緒にペア組もう!」

「フッ、残念だったな…雷蔵は私と組むんだ」

「な、なんだってぇー!?」


雷蔵っ!と振り返ると苦笑いしている雷蔵にごめんね、と言われてしょんぼり。

雷蔵がそういうなら…とさっきまでの明るさが嘘のように落ち込んでしまいますが、根はポジティブなので気を取り直して横にいた友人の竹谷くんとペアを組むことにしました。
友人思いな竹谷君はこうなることを分かっていたので何も言いません。
そして授業が始まる合図により名残惜しそうに大好きな雷蔵から離れて行くのでした。

その際もちろん敵に捨て台詞を吐くのを忘れずに。


「狐…!これで勝ったと思うなよ…!!」


「フッ、負け犬の遠吠えにしか聞こえないぞ」


どうやら三郎さん、最近鼻で笑うのが多いようです。



苗字名前にとってにっくき敵は狐こと鉢屋三郎だけなので他の人には至って普通です。
雷蔵大好きすぎる所と三郎を憎すぎる所を除けば普通にまとも。だから大概の人はと三郎のバトルを初めて見て大変驚きます。
普通にしていれば優しそうでカッコいい印象のは大好きな雷蔵にはデレデレ甘く、にっくき三郎にはデレデレのデの字もない程般若に豹変するからです。パッと見ただけでは同一人物とは見られません。



そんな名前を三郎はとても気に入っていました。

雷蔵に対してのみ発揮される人外な嗅覚によって三郎の変装をすぐに見破る名前に、普通にしている時のギャップがあまりにもありすぎて一気に興味を引き、いつも面白いくらいに自分に突っかかってくる名前にちょっかいを出すのが三郎の趣味となりつつありました。
なので大概は雷蔵の格好をして過ごす事が多いのです。

そんな三郎も、他の忍たま達には普通に接する、ちょっと悪戯好きな変装名人の鉢屋三郎にすぎません。
が、最近名前の敵意を感じるたびに、暴言を投げかけられる度に自分が快感を得ているのに気付きました。名前の悔しそうな表情、その口から飛び出す暴言、異常な程の対抗心、それを自分だけに向けられているのにゾクゾクと言葉にできない快感が体を駆け巡るのに気付いたのです。


そうして三郎は、
(そうだ!もっとわたしを蔑め!もっとだ!)


名前に対してだけちょっとマのつくあれに目覚めてしまったのでした。


そんなと変態三郎に挟まれる不破雷蔵は、相も変わらずバトルしている二人を見てため息をつきました。最近雷蔵はとても悩んでいました。今までにない程に悩んでいました。
その悩みの対象は目下名前でした。


(名前、相変わらずかわいいなぁ)

そう、雷蔵も名前が大好きだったのです。


傍から見るとカッコいい部類に入る名前は雷蔵から見るとかわいいとしか思えませんでした。
だからが自分の所に来るのがとても嬉しかったのですが、最近とくにかわいく思えてきて、ちょっと我慢できなくなる自分に気付きました。
(あんなに笑顔で無防備に自分の所に来る…押し倒してひん剥いて泣かせてあんなことやこんなことしてしまいたい、ぶっちゃけなんかぶっかけたい)
そんな思いが胸いっぱいに広がってはいつ部屋に連れ込んでしまおうかと迷っている所に、邪魔m三郎が現れるので未遂に終わっていました。

まだ友情を大事にしていたい複雑なお年頃の雷蔵はそれに安堵しつつも仲のいいと三郎を見てはため息をつくばかりです。


(ああ、でも、三郎にからかわれて落ち込む名前もかわいいなぁ…)


ため息をつきつつもその頬がほんのり紅潮している雷蔵をバッチリ見てしまった竹谷八左ヱ門は、それを無理やり記憶の奥底にしまいながらちょっとおかしい友人達をただただ見つめるばかりでした。




哀愁漂うその背中。


(何でおれの周りはこんなんばっかりなんだろう)



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