君のおかげで僕は変われた (主視点)



自分はとても引っ込み思案だと思う。地味だし自己主張が苦手だし。
だから目立つ存在がちょっと苦手だった。
見ていて眩しいくらいに自信に満ちていて、自分にはないものを持ってる彼らが苦手だった。

1年の時に、久々知と知り合ってなんだか苦手だなって思った。だってキラキラしていたから。
でも授業中とか隣にいるのが多くて、話しているうちに良い奴なんだなって思った。
ちょっと天然で面白いし。豆腐好きすぎるところとか。だからいつの間にか久々知の事を好きになってた。

いつだったか久々知に自分のドロドロした嫌な気持ちを打ち明けたことがある。
聞く方はあまりいい気分じゃないはずなのに久々知はずっと聞いてくれて、人見知りなんだな、って苦笑いをするだけで強要したり非難したりもしない。


その後も変わらず、ずっと自分と仲良くしてくれた。大事な大事な友達。傍にいると笑顔になれる人。それが久々知。


そんな久々知にも友達がいた。不破に竹谷に鉢屋の3人とは特に仲が良かった。
久々知を含む4人は学園内で結構有名で、見ていてキラキラした眩しい存在だった。だから苦手だった。悪い人じゃないってわかってたけど苦手だった。
特に不破と同じ顔をしている変装名人で有名な鉢屋が苦手だった。

なんとなくだけれど、彼は自分のテリトリーを侵されるのが嫌いな人間なんじゃないかなと思った。

自分の親しい人が他所に行くのを好まない人。
逆に好きでもない人間が自分に近づくのを良しとしない人。

現にいつだったか、久々知に紹介されて3人の前に立った時、鉢屋の雰囲気がちょっとピリピリしてて困った記憶がある。
せっかく紹介してくれた久々知には悪いけれど、それ以上仲良くなろうとは思えなかった。

それからしばらくしてある日の合同授業で、同じペアを組む人を決めるくじを引いて、どういうわけか鉢屋とペアになった。
よろしく、と挨拶してくれる鉢屋は悪い人ではないんだろうけどやっぱりピリピリしてて困ってしまった。


いよいよ実習が始まって、遭遇する他所のペアを倒したりしていると鉢屋は強くて頭もよくて、やっぱりキラキラしてて困ってしまった。
そんな自分に気付いてか、鉢屋がピリピリしながらも、少し休もうと言ってひとつの木に向かっていった。
辺りが暗くなってきていて鉢屋は気づかなかったのかもしれない。その木には罠が仕掛けられてて、それに気づいた自分は急いで鉢屋の元に向かった。
発動した罠を避けるために鉢屋と二人で思いっきり倒れてしまった。


鉢屋に怪我はないみたいで良かったと安心した。
そういえばさっきの衝撃で眼鏡がないな、と辺りを探していると鉢屋がありがとう、と礼を言ってくれたので鉢屋を見たら盛大に驚かれた。

鉢屋のピリピリしたものがまったく感じられなくなった。


そこからの生活は随分変わっていった。


まず、教室にいると鉢屋が来るようになった。久々知に用があるのかと思ったら鉢屋は俺をじっと見ている。
そして眼鏡を取られた。度が入っていないならする必要ないだろうと言われた。
ちょっと居た堪れなくてビクビクしていたら、おどおどするな!と怒られた。
眼鏡を外した自分に最初驚いていた久々知も、眼鏡がない方がいいと言っていたので眼鏡はあきらめた。
キラキラを少しでも遮断しようとしてかけていたんだけど。仕方ない。


それから合同授業の実習では鉢屋がペアに誘ってくるようになった。
何かとオドオドしては、胸を張れ!といわれて、実習の作戦を考えたりする時も、意見があるならちゃんと主張しろと言われた。ない、と答えたら考えないんじゃなくて考えろ、とも言われた。
事あるごとに鉢屋がきては気にかけてくれて、こうした方がいい、とアドバイスをくれるうちにすっかり鉢屋のキラキラに慣れてきた。


そのおかげか周りを見てもそこまで苦手じゃなくなった。
そして少しだけ自己主張することができるようになった。
この間思い切って先生に自分の意見を言ってみたらとても喜ばれて頭をなでられた。

そういえば眼鏡をはずしてから頭をなでてくる人が多くなった気がする。
前々から仲の良かった中在家先輩も会うたびに頭をなでてくれるようになった。


いつの間にか鉢屋といる時間が多くなって、不破や竹谷とも話すようになっていった。久々知も楽しそうにしている。
何かと自分に構ってくる鉢屋に不破も竹谷も久々知もなんだか笑っていた。
そして笑ってる3人になんでかすごく困っている鉢屋が根は良い人なんだと心から思えるようになった。


言葉は悪いけど、自分の細かいところを気にかけてくれる鉢屋が好きだと思う。




君のおかげで僕は変われた




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